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鴻池運輸 Research Memo(8):中期経営計画第1ステップの目標達成を目指し、体質改善を進める

発行済 2017-03-29 13:03
更新済 2017-03-29 13:33
鴻池運輸 Research Memo(8):中期経営計画第1ステップの目標達成を目指し、体質改善を進める
9025
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■中長期の成長戦略

1. 中期経営計画第1ステップの目標達成は微妙
鴻池運輸 (T:9025)は創業140周年にあたる2021年3月期に売上高3,500億円、営業利益200億円を目標とする中期経営計画を発表している。
その第1ステップとして、2016年3月期を初年度として2018年3月期に売上高3,000億円、営業利益150億円を目標として掲げている。


しかし現実には、2017年3月期の予想営業利益110億円の達成状況により、この中期目標も早晩見直される可能性もある。
しかしながら、中期経営計画の目標は必ずしも定量的な目標の達成だけではなく、定性的に会社が変化していくこともまた重要な目標と言える。
このような定性的な目標達成のために同社では、以下のような戦略を推進しつつある。


2. 同社の目指す方向:よりサービス業としての評価獲得を目指す
同社では今後、長期的な目標として運輸や倉庫運営などの「従来型物流」業務の比率を約50%、請負をはじめとする「非従来型サービス提供」業務の比率を約50%となっている。


現在の同社の株式市場での評価(実績PBR)は、0.91倍(2017年2月24日現在である)となっており、これは東証33業種における倉庫・運輸業の単純平均PBR0.8倍(2017年1月末現在、出所:東京証券取引所)とほぼ同じ水準である。
その一方で、東証33業種におけるサービス業の単純平均PBR(同)は2.1倍となっている。
したがって同社では、今後も同社の事業内容を「従来型物流」業務比率50%、「非従来型物流(請負サービス)」業務比率50%と堅持していくことで、倉庫・運輸業とサービス業の平均程度のPBR約1.5倍の評価になりうるとも考えられる。


3. 強みを活かす:「バンドリング」の展開
既述のように、同社のビジネスモデルの最大の特色であり強みは、「一般物流+生産工程サービス+エンジニアリングサービス」をバンドリングして提供できることである。
この事業モデルを新たな分野へ展開することで、サービス産業化の比率は高まっていくことになる。


4. 投資効率の改善目指す
同社にとって財務面での課題の一つが、「投資効率」(ROIC=Return on InvestedCapital)の改善だろう。
2016年3月期の同社のROIC(=当期純利益/(株主資本+有利子負債))は5.09%に止まっており決して高い水準とは言えない。
また業務間でROICにバラツキがあり、今後は投資収益性の低い事業の収益率改善が必須事項である。


5. 成長戦略
同社では、以下の3つを重要戦略として位置付けている。


(1) サービス業における請負業務の獲得
メディカル関連や空港業務などに次ぐ、サービス業における新たな請負業務の獲得を目指す。


(2) 製造業における請負業務のさらなる拡大
既存の大手鉄鋼、食品メーカーでの請負業務拡大に加えて、新たな顧客獲得を目指す。


(3) 海外拠点における国内事業モデルの展開と高収益化
国内で成功しているビジネスモデルを海外で展開し、海外事業の高収益化を図る。


6. 企業価値向上に向けた組織変更
同社は企業価値向上に向けて「成長戦略の策定と実現」「資本効率の向上」「コーポレートガバナンスの強化」に取り組んでいる。
同社は、2017年3月16日開催の取締役会において、2017年4月1日付の組織変更について決議を行っているが、この組織変更は同社のこのような企業価値向上の取り組みをより強力に推進するための組織変更のようだ。


まず、全社的な成長を推進するために、営業開発本部を事業開発本部として機能強化を図る。
営業開発本部は、長期的な視点に立った事業本部間のシナジー創出と新たな事業機会創出を促進する目的で2016年4月1日に発足した。
今回の組織変更で、同社のM&Aに関する機能を集約するとともに、従来経営企画本部にあった新規事業開発機能や物流新技術の研究・導入を行う部署も取り込むことで、事業機会創出機能の強化を図り、新たに事業開発本部として発足する。
同本部は海外も含めたグループ全体の新規顧客獲得戦略や新規事業開発戦略を統轄するという。


同社の成長分野である空港事業についても、これまでは生活関連事業本部の下にあったが、今回の組織変更で空港事業本部として独立する。
これにより、空港事業の一層の拡大が期待されよう。


また、経営企画本部を解体し、そのなかの経営企画部と経営改革本部を統合し、経営改革推進本部を新設する。
これまで経営企画部では経営戦略や中期経営計画の企画・立案を行い、経営改革本部ではグループ経営を推進すべく経営改革の取り組みを行っていた。
この両部門を統合することで、中期経営計画の策定と経営改革をリンクさせ、全社的な経営戦略の実行力をさらに高めることが狙いのようだ。


さらに、取締役会直属の組織として経営戦略推進室を新設する。
同社ではガバナンス強化の最重要課題として、取締役会の改革に取り組んでいる。
すなわち、従来の取締役会は業務執行の最高機関だったが、これをビジョンや経営戦略などの経営の方向性を示し業務執行を監督する経営監督機能に軸足を置いた取締役会に変革しようとしている。
経営戦略推進室は、このような経営監督機能に軸足を置く取締役会、すなわちモニタリングボードによる経営監督を支援する目的で設置されるという。


同社の現在の経営課題の1つである人手不足や働き方改革についても、今回の組織変更で対応を図る。
従来、同社における人材管理は、本社採用人員は総務人事本部で管轄し、現場採用人員は勤労本部で管轄していたが、今回の組織変更で両部門を統合し、人事勤労本部として一元的にグループ全体の人材管理を行う体制とする。
人事勤労本部の下には人材企画部、採用部、人材教育部を新設し、人材の採用・育成機能を強化するとともにダイバーシティへの取り組みも積極化する。
なお、総務人事本部の総務部門は総務本部として独立させ、ガバナンス機能の強化を図る。


2018年3月期は現在同社が掲げている中期経営計画の最終年度であるが、同社はこの1年間で上記の取り組みを通じて次の中期経営計画に向けた準備をしていくともいえよう。
この1年間で同社がどのように変革していくのか注目したい。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)

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