(ブルームバーグ): 中国現代史上で最悪のウイルス流行を乗り切るために習近平国家主席は何よりも重要な教訓を得たようだ。こうした事態で機能するのは中央による統制であり、さらに権限の集中が必要だということだ。
共産党総書記でもある習主席は23日に開いた電話会議で、この結論を参加者と共有。当局者17万人が参加し、習主席が語り掛けるという前例のない電話会議だった。国営メディアによれば、習主席は党の判断を「正確」だと擁護し、新型コロナウイルス流行は「中国共産党のリーダーシップと中国の特徴を備えた社会主義制度の優れた利点を示す」契機になると主張した。
首都北京のウイルス感染拡大封じ込めに「努力を惜しむな」-習主席
こうした発言の趣旨は、7年余り前の習体制始動から繰り返されきたものだが、新型ウイルス感染拡大への中国の対応は、習主席が何を意図しているかについて新たな解釈を世界に示した。
過去1カ月間に習政権は数千万人に上る国民の仕事や旅行を禁止し、ハイテクを駆使した監視体制を強化した。感染拡大の中心地、湖北省のトップを事実上更迭し、習主席に近いに応勇上海市長(当時)を起用。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の論説を中国差別だと非難し、WSJ記者3人を排除した。
習主席の動向を追い続けている専門家にとって、こうした動きは公衆衛生への脅威に対応する一時的な緊急措置ではなく、中国の政治制度を作り変える長期的な取り組みの新たな1章だと見なされている。今回の危機を脱した中国政府は一段と権限集中が進み、より強権的となり、これまで以上に欧米のリベラル派をいらだたせる可能性が高い。
弱点
アメリカ進歩センター(CAP)の中国政策担当ディレクター、メラニー・ハート氏は「前回の危機後、中国は大半の『戦時』危機対応措置を緩和し、全般的な政治状況を危機前の規範に戻すことを認めた」が「習主席は反対方向に動く公算が大きい。この危機を利用して、中国社会の全てに対する党の支配をさらに強化する可能性がある」と分析する。
2012年後半に党トップに就いて以降、習主席は約150万人もの当局者を摘発した反腐敗運動を通じ、潜在的なライバルを排除。国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正も行い、極めて多くの弁護士を逮捕した。新疆ウイグル自治区に住むイスラム教徒のウイグル族100万人余りの拘束も統括している。
共産党の新たな弱点も露呈させた今回のウイルス流行は、一段と強硬な路線がより好ましいと党に確信させることに大きく働いている。ウイルス封じ込めに向けた初動について、中国では珍しく当局への批判が噴出。特に武漢で始まったウイルス感染について早くから警告していた医師が訓戒処分を受けた後、2月7日に死亡したことで人々の怒りに火が付いた。
新型肺炎に警鐘鳴らした中国人医師李氏が死去-武漢の病院発表
経済のもろさ
中国経済の急成長を通じ中国を世界的大国に復活させたと自負している共産党にとって、経済の脆弱(ぜいじゃく)性はより大きな懸念材料だろう。地域封鎖・休業措置が発展目標未達と大量の企業破綻を招くことを恐れる中央および地方政府が工場の稼働再開を急いでいるのは、党の危機を脱するため政策決定プロセスの集中化に取り組む習主席のコミットメントの表れだ。ウイルス感染による死者増加にもかかわらず、深刻な感染状況だが産業が集積する広東省を含めた幾つかの省が緊急対応水準を引き下げている。
米国務省で東アジア担当次官補だったアジア・ソサエティー(ニューヨーク)のバイスプレジデント、ダニエル・ラッセル氏は、ウイルス危機が共産党の動員力を誇示することになっているが、同時に脅威の隠蔽(いんぺい)工作などといった短所も表面化させたと説明する。党が統制立て直しを急ぐ中で、事態が沈静化した後に中国の政治体制がどのような形になるのか多くの向きが懸念している。
「共産党は古いやり方に戻りつつある。毛沢東時代の大衆動員や隣人同士の監視態勢、地方への責任転嫁、宗教検閲、政府批判に対する容赦ない罰則だ」とラッセル氏は指摘。「自らを守ろうとし、一段と全体主義的な党が率いる弱体化し自己完結的な中国をわれわれは目の当たりにすることになると思う」と話している。
原題:Xi’s Response to Virus Foreshadows an Even Tighter Grip on China(抜粋)
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