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アングル:過密に悩むガザ、歴史ある住宅も取り壊して高層化

発行済 2021-08-08 08:52
更新済 2021-08-08 08:55
© Reuters.  パレスチナ自治区にある、面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっている。写真はガザ地区北部のベイトハヌンで、2014年の攻撃で

[ガザ 4日 トムソン・ロイター財団] - 築60年以上、床の装飾タイルと木製のよろい戸が特徴の頑丈なガザの住宅が、アドナン・ムルタガさん(69)の生まれ育った家だ。だが、人口密度の高い飛び地であるガザでは住宅が不足しており、この家もまもなく高層住宅に建て替えられてしまう。

この物件はガザ市内でも人気の高いリマル地区にあり、海からは数分の距離だ。ムルタガさんは、父親の建てたこの家に愛着はあるものの、売却の決意を固めたと話す。

緑豊かな庭のベンチでコーヒーをすすりながら、ムルタガさんはトムソンロイター財団の取材に対し「もっと花を植えてこの家を美しく飾りたいという思いは変わらない。でも、そういうことはもう止めようとしている」と語った。

これまでにも、この区画を買収して集合住宅を建設したいという投資家からの打診は10数件もあったが、これまでは提示金額が低すぎたとムルタガさんは言う。

面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっていると当局者は語る。今年初めにイスラエルとパレスチナ人武装勢力のあいだで戦闘が11日間続き、住宅が破壊されたため、復興需要もあるという。

ガザ市のヤヒヤ・アル・サラジ市長は、旧市街の中心にあるオフィスで「世帯数は増え続けている。現在ガザ地区の人口は220万人で、年間3.2%のペースで増加している」と語った。このあたりには露天市場の屋台も集まり、交通渋滞も激しい。

<保存対象に含まれず>

ガザは世界で最も古い都市の1つで、その歴史は5000年前にさかのぼると推定されている。

今日でも、ガザ市を特徴付ける存在として約320カ所の歴史的建造物が残っている。100年以上前に建設されたものは保存の対象となっており、一部にはマムルーク朝やオスマン帝国にまでさかのぼるものもある。

法令による保存対象は100年以上を経た建造物だが、サラジ市長によれば、訴追を受ける恐れがあるにもかかわらず、そうした建造物が取り壊されてしまう例もあるという。

ムルタガさんの家のように保存対象外の建造物は、新しくもっと高層のものに建て替えるために取り壊されてしまう場合が多いと市長は言う。

「さら地に建設する場合もあるが、それ以外は古い建物を取り壊すことになる。そのほとんどは市の中心部に立地し、道路や電気、水道も通っているからだ」

家族が増えて元の家では手狭になった世帯が、持ち家を売却し、代わりに新たに建設された集合住宅を複数戸購入する例もある。失業率が約50%にも達する中で、自ら新築住宅を建てる、あるいは高額の家賃を払う余裕のある世帯はほとんどない。

こうした住み替えの取引は、開発事業者にとっても初期費用の削減になる。

ガザでは何年にもわたり、新規の住宅需要に供給が追いついていない。住民の70%が難民で、多くは難民キャンプで暮らしており、未完成の高層住宅があちこちに見られる状況だ。

建設関係者によれば、供給不足の一因は、イスラエルの封鎖措置によって人と、建設資材を含む物資の流れが制限されており、そのうえエジプトによる制限もあるからだという。

イスラエル、エジプト両国は、ガザ地区を実効支配するハマスに武器が流入する懸念を理由として挙げている。

「輸出入ともすべて厳しく規制されており、住宅市場にも影響を与えている」。そう語るのは、ムルタガさんの家からも遠くない7階建てビルの建設を監督している、建設請負業者のアブ・イブラヒム・ラルマバイアド氏だ。

市外では、破壊された建物から回収した古い金属棒をまっすぐに延ばしたり、がれきから新たなレンガを作ったりしている光景も見られる。

だがサラジ市長によれば、建設資材や資金の確保といった面で課題があるにもかかわらず、ガザ地区では新規の高層住宅建設が昨年だけで約100件も開始されたという。

<建築遺産>

今年に入ってからの武力衝突により、ガザ地区の住宅事情はさらに打撃を受けた。パレスチナ側の死者は256人、2200戸以上の住宅が破壊された。

ガザ市当局では、戦闘中のイスラエル側の砲撃によって、これとは別に3万7000戸の住宅に被害が出ているとしており、人道支援機関は最新の復興費用を5億ドルと試算している。

イスラエル側でもロケット弾による攻撃で13人が死亡。生活は混乱し、人々はシェルターに避難した。

ムルタガさんは、リマル地区の土地を1平方メートル当たり約1690ドルで売却できるのではないかと期待している。

だが、手持ちの不動産を再開発用に売却するのは経済的に魅力が大きいものの、伝統的な1階建ての住宅を保有するガザ住民の中には、建築遺産を保全しようと決意する人もいる。

土木技師のファイサル・シャワさん(54)は、祖父が建てた住宅で今も暮らしている。木々と庭園に囲まれた郊外住宅だが、維持費用はかさむとシャワさんは言う。

5月には近所がイスラエル軍による空爆を受け、窓ガラスは割れ、壁にはひびが入った。イスラエル軍から警告の電話を受けた近所の人が事前に連絡をくれたため、家族は避難することができた。

シャワさんの家が建てられたのは、イスラエル建国に伴う1948年の第一次中東戦争より前だ。このとき、現在はイスラエル領となっている土地から70万人以上のパレスチナ人が排除され、その多くはガザ地区に避難した。

シャワさんは「ガザは宝物だ」と述べ、自宅の取り壊しなど絶対に考えないだろうと言葉を添えた。

「私たちの家は、パレスチナの歴史の証人であり続ける」とシャワさんは言う。

(Stefanie Glinski記者、翻訳:エァクレーレン)

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