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焦点:交易条件悪化止まらず、所得流出に拍車も 原発含めどう対処

発行済 2022-05-18 16:20
更新済 2022-05-18 16:27
© Reuters.  5月18日、 貿易での稼ぎやすさを示す交易条件の悪化が止まらない。写真は2月、都内から撮影した工業港と富士山(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 18日 ロイター] - 貿易での稼ぎやすさを示す交易条件の悪化が止まらない。原油などの資源価格高騰で2021年度は交易損失が10兆円台となり、22年度もさらに悪化すると複数の民間エコノミストは試算する。海外への所得流出は分配政策を掲げる岸田政権の痛手となりかねず、再稼働原発の活用を含め、どう対処するかが改めて問われる。

<前例のないコスト負担>

過去に例のないレベルだ――。トヨタ自動車の近健太CFOは11日の22年3月期決算会見で、資源価格高騰についてこう述べた。

原油取引の代表的指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は21年度末にかけ1バレル=110ドルに迫り、年度末対比で1.7倍に跳ね上がった。日銀によると、21年度の国内企業物価指数は前年度比7.3%のプラスで、比較可能な1981年度以降で最大の上げ幅となった。

ロシアによるウクライナ侵攻で先行きも厳しい。トヨタでは、資材高騰による23年3月期の影響額を1兆4500億円と想定。「過去最高だった前期(22年3月期)の6400億円の倍以上の額で、大きな影響になる」と、同社の近CFOは言う。

急ピッチで進んだ円安の影響も出そうだ。食品の多くを輸入に頼るマルハニチロの坂本透・常務執行役員は「円安の影響が大きい。企業努力でコスト削減に注力するが円安、コストアップが続けば、早々にさらに値上げを検討せざるを得ない」と苦しい胸のうちを明かす。9日の決算会見で語った。

<家計負担も3兆円超か>

内閣府が18日発表した22年1―3月期の実質国内総生産(GDP)1次速報を踏まえた21年度の交易損失は、前年度比10.5兆円程度のマイナスだった。

ニッセイ基礎研究所が22年度の交易損失を試算したところ、21年度に比べてさらに9兆円悪化する見通しで、「資源価格高騰が大きく影響する構図は今後も変わらないだろうが、22年度は円安によるマイナス要因も加わる」と、斎藤太郎・経済調査部長は指摘する。

交易条件の悪化は海外への所得流出を通じ、家計と企業の負担増に直結しかねない。企業が輸入物価上昇に伴う経費を価格に上乗せすれば家計の負担が増し、逆に、価格転嫁できなれけば自社の利益が目減りする。

大和総研は22年度の交易損失が21年度からさらに7.5兆円拡大するとみている。「22年度の消費者物価指数(CPI)は1.7%程度のプラスになる見込みで、このうち資源高の影響が1%強に上る。交易損失のうち家計が3.2兆円を追加負担する計算になる」と、同総研の神田慶司シニアエコノミストは言う。

<求心力低下招く懸念も>

政府は17日に物価高対策に伴う22年度補正予算案を正式決定し、ガソリン補助金拡充などに向けた財源確保にめどを付けた。今国会会期中の成立をめざす構えだ。

ただ、目先の対処策に過ぎず「窮余の一策」(政府関係者)の感は否めない。今年9月までの激変緩和措置で物価上昇を0.5%抑制する効果があると見込んでいるが、「そもそも中長期的な脱炭素化の流れに逆行する。いつまで続けるつもりなのか」との声も、政府内にはある。

今回の物価高対策では「コロナ禍における物価高騰などの影響に機動的に対応する」とし、再稼働原発の活用を含め、安定的なエネルギー調達にどう対処するかの判断を先送りした。

第2弾となる「総合的な方策」を参院選前後に打ち出すことで、「成長と分配の好循環を実現し、エネルギー分野を含む経済社会の構造変化を日本がリードしていく」とうたうが、実効性を伴わなければ政権求心力にも影響しかねない。

(山口貴也、金子かおり 編集 橋本浩)

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