[東京 19日 ロイター] - 中曽宏・前日銀副総裁(大和総研理事長)は19日、片山さつき参院議員のセミナーで、現在の日銀の金融政策運営について、日本はコロナ禍からの回復が他の主要国に比べて遅れているため「この時点で何らかの引き締め方向のアクションは取りにくいのだろう」と述べた。
日銀は賃金上昇を伴う形での物価目標の達成を目指している。中曽氏は「(日銀は)来年のベアだけでなく、その次の年も持続的に賃金が上がっていく状況の中で物価が安定していく、そういう状態を目指しているのだろう」と述べた。
市場では、中曽氏は次期日銀総裁の有力候補の1人とみられている。
<ウクライナ危機、企業の行動変容>
中曽氏は片山議員との対談の中で、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に「世界経済の秩序は変わりつつあるように思える」と指摘。ロシアや中国の米ドル離れを挙げた。ただ、「ドルの基軸通貨としてのドミナンスが簡単に揺らぐことはない」とも話し、「円はドルを補完するハードカレンシーとの位置づけがますますはっきりしてきている」と述べた。
一方、米国でサプライチェーン(供給網)を友好国だけで完結する議論が起きていることに触れ「これを追求してくといろいろな問題が出てくる」と懸念を示した。地政学リスクがいつどういう形で表面化するかわからないため、企業は行動変容を迫られ、効率性よりも安全性の観点からサプライチェーンを二重にするなどの動きが出てくる可能性があり、来年にかけて注視が必要だと述べた。
気候変動対応として、政府は2026年度からCO2排出量の取引制度を本格稼働させるものの、欧州連合(EU)などのような有償方式でのオークションは33年度ごろから段階的導入の見通し。中曽氏は「ちょっと時間が掛かりすぎる」と述べた。
中国・上海の排出権取引市場について「制度設計の思想は欧州の排出権取引市場と非常に似通っている」と指摘。欧州が貿易相手国に欧州仕様の仕組みを求めることを念頭に置いたものではないかとの見方を示した。
(和田崇彦)