Michael S. Derby
[ニューヨーク 5日 ロイター] - シリコン・バレー銀行の破綻に端を発する米銀行危機から約半年が過ぎたが、危機に際して導入された米連邦準備理事会(FRB)の緊急融資枠「銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」の利用額は今も増え続けており、表面上は問題がくすぶっているように見える。
しかし、この夏の利用増加は一部銀行の資金運用戦略に起因する部分が大きそうだ。
BTFPは3月の導入後、1カ月で利用額がゼロから790億ドルに急増した。5月初旬以降はペースが落ちたとはいえ増え続け、8月30日現在では1080億ドルだった。
今のところ、利用増加が銀行部門のストレス再燃を告げているとは考えにくい。BTFPは一握りの金融機関が最初に借りた長期ローンが大半を占めていたが、最近になって一部機関が経済的利益に着目して活用したとみられる。
バークレイズのストラテジスト、ジョゼフ・アベート氏は「問題の現れだとは思わない」と話した。
BTFPの条件は、FRBの他の緊急融資制度に比べても寛大だ。金利は、借り入れ時の1年物オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)金利に10ベーシスポイント上乗せした水準となっている。担保としては、オペで受け入れているどのような証券でも、ディスカウントせずに額面で受け入れてくれる。
FRBの割引窓口(ディスカウント・ウィンドウ)など、他の緊急融資制度の利用額が3月のピーク時に比べて取るに足らない規模に減少していることからも、BTFPの利用増加が市場のストレス以外に起因することが裏付けられる。
<BTFPの利点>
市場環境が正常に戻ってもBTFPが一部利用されている背景には、金利環境の変化もあるかもしれない。金融機関が保有する債券はここ数週間で利回りが急上昇して価格が下落しているが、BTFP制度ではその債券を額面で担保として受け入れてもらえるからだ。
LHマイヤーのアナリスト、デレク・タン氏は先週の顧客向け調査ノートに「額面で担保として取り扱われるのは異例だ」と記した。またタン氏によると、現時点で将来の金利を予見できないディスカウントウィンドウを利用せざるを得なくなるよりは、今ローンを固定しておきたいと考える一部銀行がBTFPを利用しているようだ。
加えて、BTFPの金利とフェデラルファンド(FF)金利の差が、7月末の利上げ以来縮小していることも、利用拡大の背景にあるという。