カルロス・ゴーン日産自動車 (T:7201)元会長は日本を脱出後、父親の母国であるレバノンでどのような道を歩むのでしょうか。
同氏が仮にレバノンの指導者となって財政破たん寸前の同国を立て直すことができたら、レバノン通貨ポンドも「V字回復」に向かうかもしれません。
2020年代が始まる直前、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていたゴーン氏が極秘裏に日本を出国しトルコ経由でレバノン入りした、とのニュースが世界中を駆け巡りました。
2019年の最終取引日となった12月30日、同氏の逃亡にトルコが携わったとの観測からNY市場の終盤、リラは思惑的な売り買いが交錯。
限定的ながら動意付き、方向感が定まらずに年末年始の休暇に入りました。
リラが買われた要因として、レバノンで英雄視されるゴーン氏が今後リーダーとなり政治や経済の混乱が収束に向かえば、中東情勢にもある程度安定をもたらすとの見方が背景にあったのかもしれません。
レバノンの反政府組織ヒズボラはシリアのアサド政権を支持し、トルコはアサド政権に歩み寄るクルド人勢力への攻撃を停止しましたが、停戦破棄への警戒がリラ売りとなった可能性もあります。
一方、レバノンポンドは長きにわたり1ドル=1507.50ポンドで固定されていますが、最近は闇レートで2000ポンドを下回る水準に減価しています。
闇レートは、適正価値に達するまでの1つの指標になります。
レバノン中銀は固定為替制度を維持する方針ですが、同中銀のサラメ総裁は直近の記者会見でポンドは目先どのぐらい減価するかと聞かれ、「誰にもわからない」と答えています。
レバノンは内戦が終結した1990年代以降も、経済の低迷が続いています。
赤字が拡大する財政を立て直そうと、ハリリ政権は昨年10月、無料通信アプリへの課税を発表。
貧富の格差が急速に拡大していたことから、それをきっかけに国民の不満が噴出しました。
反政府運動は全土に広がり、首相退陣などで政府は無力化しています。
最近でも金融機関が1週間にわたり閉鎖されるなど、混乱は収束していません。
弱体化した国家を再建するには強いリーダーシップが必要です。
欧米メディアの注目度も高いゴーン氏が今後レバノンの政治的な指導者になる可能性は皆無ではない、と筆者はみます。
もちろん、実業家として剛腕を振るった同氏も、政治家としての力量は未知数です。
宗教や宗派、あるいは地域大国間どうしの利害が複雑に絡み合う政治情勢下で一国の舵取りを委ねるには限界もあるでしょう。
日本とレバノンには犯罪者の引き渡し条約がなく、ゴーン氏の日本への強制送還は今のところ想定されていないようです。
1月8日の記者会見で、ゴーン氏は「レバノン人であることを誇りに思う」と述べるとともに、今後もベイルートから見解を発信していく方針です。
ゴーン氏の動向は今後も要チェックです。
(吉池 威)※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。