米大統領就任式にどのぐらいの人が集まったかをめぐるトランプ政権とメディアの対立で、ふと想起させられた絵画があります。
1804年のナポレオンの皇帝即位の模様を描いた「ナポレオン1世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」(ジャック=ルイ・ダヴィッド作)です。
パリ・ルーブル美術館所蔵のその絵は、本来なら皇帝に即位するナポレオン・ボナパルトが教皇から冠が授けられる場面になるはずですが、ナポレオンは教皇から授かるべき冠を取り上げ、自身の頭に載せる構図を画家に描かせようとしました。
さすがにそのような傲慢は市民の反感を買うとの判断から、最終段階で妻ジョセフィーヌに冠を授けるシーンに変更したようです。
列席者の中にはその場にいないはずのナポレオンの母親や兄の姿もあり、多くの人から祝福されているように描かれています。
写真がない時代の誇張、今風に言えばねつ造でしょう。
1月20日に行われたトランプ大統領の就任式に集まった聴衆の数は、メディアによると25万人でした。
180万人にのぼった8年前のオバマ大統領の時と比べ、国民からの支持が低いのは明らかだとメディアは伝えています。
政権発足時の支持率をみると1992年のクリントン、2001年のブッシュはともに60%台、2009年のオバマが80%だったのに対し、トランプは40%で史上最低とされています。
就任式の人出が少なかったと報じられても、今さら驚きはしません。
しかし、こうした報道に対しトランプ氏は、テレビ映像や写真は不正確だとし、「150万人くらいに見えた」などと反論しています。
また、スパイサー報道官も初の記者会見で、就任式の観衆としては「文句なく過去最大」と主張。
「人数を実際よりも少なく発表して、いかにも支持されていないとのイメージを作り出しているのはメディアの恥ずべき行為だ」と一方的にまくしたてました。
件(くだん)の絵画のナポレオンがそうだったように、権力者は多くの人が自分を熱狂的に支持しているというムードに酔い痴れたいのでしょう。
歴史上の人物であるナポレオンと、テレビ時代の申し子のようなトランプ氏との共通点を探すことには無理があるのかもしれませんが、保護主義的な通商政策という点に偶然の一致がみられます。
1800年前後のナポレオン戦争は「フランス革命の輸出」のほかに、安価なイギリス製品からフランス製品の市場を守るという側面もあったようです。
それから200年あまり経た後の現在、トランプ政権のアメリカは主に中国などを念頭に置いた保護貿易主義に傾きつつあります。
ナポレオンが権力者となってから反対勢力を徹底的に弾圧し、また保護主義的な通商政策を推進(後に失敗)したことは、トランプ氏の自身に批判的なメディアへの糾弾や環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱と重なります。
ちなみに、ナポレオンはその戴冠式をピークに人生が徐々に暗転し始め没落し、やがて島流しの刑を受けます。
トランプ氏が低支持率という現実を受け入れず独善的な強硬路線に突き進むなら、大統領就任式を境にナポレオンと似た道を歩まないとも限りません。
(吉池 威)
1804年のナポレオンの皇帝即位の模様を描いた「ナポレオン1世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」(ジャック=ルイ・ダヴィッド作)です。
パリ・ルーブル美術館所蔵のその絵は、本来なら皇帝に即位するナポレオン・ボナパルトが教皇から冠が授けられる場面になるはずですが、ナポレオンは教皇から授かるべき冠を取り上げ、自身の頭に載せる構図を画家に描かせようとしました。
さすがにそのような傲慢は市民の反感を買うとの判断から、最終段階で妻ジョセフィーヌに冠を授けるシーンに変更したようです。
列席者の中にはその場にいないはずのナポレオンの母親や兄の姿もあり、多くの人から祝福されているように描かれています。
写真がない時代の誇張、今風に言えばねつ造でしょう。
1月20日に行われたトランプ大統領の就任式に集まった聴衆の数は、メディアによると25万人でした。
180万人にのぼった8年前のオバマ大統領の時と比べ、国民からの支持が低いのは明らかだとメディアは伝えています。
政権発足時の支持率をみると1992年のクリントン、2001年のブッシュはともに60%台、2009年のオバマが80%だったのに対し、トランプは40%で史上最低とされています。
就任式の人出が少なかったと報じられても、今さら驚きはしません。
しかし、こうした報道に対しトランプ氏は、テレビ映像や写真は不正確だとし、「150万人くらいに見えた」などと反論しています。
また、スパイサー報道官も初の記者会見で、就任式の観衆としては「文句なく過去最大」と主張。
「人数を実際よりも少なく発表して、いかにも支持されていないとのイメージを作り出しているのはメディアの恥ずべき行為だ」と一方的にまくしたてました。
件(くだん)の絵画のナポレオンがそうだったように、権力者は多くの人が自分を熱狂的に支持しているというムードに酔い痴れたいのでしょう。
歴史上の人物であるナポレオンと、テレビ時代の申し子のようなトランプ氏との共通点を探すことには無理があるのかもしれませんが、保護主義的な通商政策という点に偶然の一致がみられます。
1800年前後のナポレオン戦争は「フランス革命の輸出」のほかに、安価なイギリス製品からフランス製品の市場を守るという側面もあったようです。
それから200年あまり経た後の現在、トランプ政権のアメリカは主に中国などを念頭に置いた保護貿易主義に傾きつつあります。
ナポレオンが権力者となってから反対勢力を徹底的に弾圧し、また保護主義的な通商政策を推進(後に失敗)したことは、トランプ氏の自身に批判的なメディアへの糾弾や環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱と重なります。
ちなみに、ナポレオンはその戴冠式をピークに人生が徐々に暗転し始め没落し、やがて島流しの刑を受けます。
トランプ氏が低支持率という現実を受け入れず独善的な強硬路線に突き進むなら、大統領就任式を境にナポレオンと似た道を歩まないとも限りません。
(吉池 威)