[ロンドン 23日 ロイター] - 最初は金融危機、最後はフィンテック革命に見舞われた2010年代は混乱の時代だった。マイナス金利からビットコインまで、過去10年間に伝統的な経済・投資モデルを一変させた10のトレンドを以下に挙げた。
<FAANG>
もし米IT界の巨人5社─ーフェイスブック、アマゾン・ドット・コム、アップル、ネットフリックス、アルファベットー─が一つの国だったら、総生産は英国を抜いて世界5位になる。時価総額は合計で3兆9000億ドル(2010年1月時点では1000億ドル程度だった)。FAANGは株式市場で過去最長の上昇局面をけん引してきただけでなく、仕事や買い物、ニュースの入手、リラックスの仕方まで変えてきた。
FAANGは現在MSCIグローバル株式指数の7%を占めており、2010年初めの約1.6%から拡大した。2009年にネットフリックス株に2万5000ドルを投じていれば100万ドルになっている。
業界を先導するこれら5社の後には新しいIT大手が台頭しつつある。中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)や業界の「破壊者」ウーバー、エアビーアンドビー、デリバルーなどだ。良くも悪くも世界と市場は永遠に変わってしまった。
<マイナスの借入コスト>
2008─09年の金融危機に続く数年間の決定的な特徴は、おそらく史上初めて金利と政府の借入コストがゼロを下回ったことだ。米国とドイツの10年物国債の金利はこの10年間で200─400ベーシスポイント(bp)低下した。独10年債は一時マイナス0.7%まで低下した。マイナス金利の債券は12兆ドルと全体のおよそ4分の1を占める。
中央銀行の資産買い入れ、マイナス金利、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)、ハイテク革命によるデフレ効果などは、少なくとも規模においてそれ自体画期的なものだった。日銀が保有する資産は日本の国内総生産(GDP)を上回る。欧州中央銀行(ECB)のバランスシートはユーロ圏GDPの4分の1だが、10年前から2倍になった。
<寿命より長い債券>
記録的な低金利を背景に利回りを求める動きが強まり、平均寿命よりも長い年限の債券が人気を集めている。
2010年には100年債が数本発行された。その後メキシコが2110年償還の債券10億ドルを発行すると、アイルランド、ベルギー、オーストリアのほか米英の大学、米国の地方自治体、コカ・コーラ、ペトロブラスなどの企業が相次いで起債した。格付けが投機的(ジャンク)等級で過去に何度かデフォルト(債務不履行)を起こしているアルゼンチンの2117年償還債券にも資金が集まった。
リフィニティブによると、発行済みの100年債は1400本超、約1700億ドルに上る。
<仮想通貨>
2010年の時点ではビットコインはオンラインフォーラムの一部で話題を呼んだアイデアだった。しかし10年後、暗号資産(仮想通貨)は金融、ビジネス、政治と結びついている。
2010年には仮想通貨市場は存在しなかったが、現在は2000億ドルを超える。ビットコインバブルの頂点では8150億ドルに達した。上場時は3セントだったビットコインは7500ドル超で取引されている。一時は2万ドルに迫っていた。
仮想通貨は反政府運動や犯罪のためのツール、投機の対象、円滑な支払い手段などさまざまな面を持つ。安全性に対する懸念を完全に払しょくするまでには至っていないが、仮想通貨とブロックチェーンの技術はめまぐるしいペースで進化している。フェイスブックの「リブラ」計画や中銀のデジタル通貨構想などは最たるものだ。
<パッシブ運用の隆盛>
時には消極的(パッシブ)なほうがいいこともある。S&P500指数に連動するETF(上場投資信託)に投資するパッシブ運用ならリターンは過去10年間で200%となっていた。しかも手数料はアクティブ運用の何分の一かだ。コンサルティング会社ETFGIによれば、ETFは2010年の2兆ドルを下回る規模から約7兆ドルに急拡大した。バンク・オブ・アメリカは安い手数料に支えられてETFブームが続くとし、2030年には50兆ドルに達すると予想している。
<環境投資>
過去4年間が歴史上最も暑かったことで投資家は気候について10年前とは考え方を変えつつある。
農作物の不作や洪水、森林火災はすべてポートフォリオに打撃を与え得る。環境を汚染する産業への投資を減らしたり、再生エネルギーや節水技術への投資を増やしたりするファンドが増えている。植物由来の人工肉を製造するビヨンド・ミートは2019年の新規株式公開(IPO)で成功を収めた。
グローバル・サステーナブル・インベストメント・アライアンスの推計によると、持続可能な投資やグリーン投資は30兆ドルを超え2011年の2倍以上の規模となっている。
環境事業のための資金を調達する環境債(グリーンボンド)が初めて発行されたのは2007年だが、今年の起債は2000億ドルを超え過去最高となった。
<シェールオイル>
「水圧破砕法(フラッキング)」により米国は世界最大の産油国となった。生産量は日量1250万バレルと2010年の2倍だ。このうちシェールオイルは日量900万バレルを超える。2010年は100万バレルに届かなかった。米国は40年ぶりに石油の純輸出国となった。
シェールブームはエネルギーに関する議論がピーク供給からピーク需要に切り替わった一因だ。原油生産の急増は環境への懸念につながり、石油の供給過剰が供給不足よりも起こりやすくなる。
世界の自動車産業は1世紀以上にわたって内燃エンジンに依存してきたが、電池を搭載した自動車が業界の地図を変えつつある。電気自動車(EV)メーカー、米テスラの株価は2010年の上場時は17ドルだったが、現在は380ドルだ。
新世代のEVの開発に数千億ドルが投じられている。自動車用バッテリー業界は急成長しており、主要材料であるリチウムの需要は2025年までに3倍になる可能性がある。
これまでのところEVの販売台数は期待外れだ。現在販売されている100台のうちEVは2台にとどまっている。ガソリン車やディーゼル車のほうが安い上、EV用の充電インフラは限られていることが背景にある。
しかし地球温暖化への警戒感が高まり、政府が消費者のガソリン消費を抑えようとする中で、EV革命は止まらないようだ。
<アルゴリズムとフラッシュクラッシュ>
テクノロジーによる変革の力は為替取引にも及ぶ。10年前、ディーラーが銀行と顧客のために売買を行っていた。今日、電子取引は一部の商品の9割を占め10年間で倍増した。
もう一つのシフトがアルゴリズムだ。10年前にはほとんど存在していなかったアルゴリズム取引は現在Refinitiv FXallの為替スポット取引の20%を占めている。また国際決済銀行(BIS)はEBSでは注文の80%強がアルゴリズムによるものと推定している。
副作用の一つは為替レートが短時間で乱高下する「フラッシュクラッシュ」が頻繁に起きるようになったことだ。
こうした中、最も洗練されたアルゴリズムを入手できるものが勝ち組となる。世界の為替取引のほぼ半分を上位5行の銀行が扱っており、小規模な金融機関、そしてトレーダーは撤退を迫られる。
大麻はこの10年間で街角から株式市場へ移動(トリップ)した。2018年にナスダック市場に上場したカナダの医療用大麻大手ティルレイは米株式市場に上場する初の大麻企業となり、初日に36%急伸した。カナダが娯楽用大麻を合法化してから1年半で数百の大麻銘柄が取引されている。
大麻関連株はまた資産バブルも生んだ。オーロラ・カナビスやキャノピー・グロースなどの銘柄は「グリーンラッシュ」ともてはやされ、株価は数倍に上昇し2018年10月に頂点に達した。大麻関連銘柄のベンチマークであるオルタナティブ・ハーベストETFの上位10銘柄は時価総額が500億ドルに膨らんだ。しかし1年後、300億ドルが煙と化した。
高値からは下落したが大麻株が消えてなくなることはない。2020年はロンドン市場に一連の大麻株が上場するかもしれない。