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[香港 19日 ロイター」 - ドーピング疑惑の影が中国の競泳選手らを悩ませている。1990年代に起きた一連のドーピング違反に加え、過去の五輪で3個の金メダルを獲得した競泳男子の孫楊が4年間の資格停止処分を受けたことで、東京五輪でも中国競泳チームに対する厳しい視線は避けられない。複数の五輪経験者がロイターに明かした。
中国の選手強化プログラムについては、長年にわたり疑問の声が上がっていた。中国競泳界の誇りである孫楊への処分は、そうした疑惑に新たな材料を与えている。
中国の競泳プログラムは、一連の不祥事によって評判を落としてきた。最も有名なのは、1998年に豪パースで開催された世界選手権の前に、中国の女子選手がヒト成長ホルモン剤のアンプルを13瓶所持していることがシドニーの空港で発覚した事件だ。
その後中国政府はドーピングの根絶を宣言し、中国水泳協会(CSA)は、禁止薬物の使用に断固反対していると繰り返し表明している。
ロイターでは本記事についてCSAにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ドーピング疑惑のために、中国の競泳選手は競技成績に対する疑問を投げかけられることが多い。
2012年のロンドン五輪では、10代ながら世界新記録で勝利した葉詩文がプールから上がるやいなや、疑いの声が相次いだ。
当時16歳だった葉はドーピング検査で陽性になったことは1度もなかったが、それでも不正行為に対する質問や当てこすりへの反論を余儀なくされ、疑惑は中国人アスリートに対する偏見によるものだと非難した。
葉はロンドンで記者団に対し、「私の競技成績は努力とトレーニングによるものであり、禁止薬物など決して使わない」と語った。「中国人選手は潔白だ」
葉にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
五輪と世界選手権で何度も勝利を収めている孫楊は、2018年9月に行われた競技会外検査の際、採取された血液サンプルの入った容器を孫楊と周囲のスタッフが破壊したと認定された。スポーツ仲裁裁判所は今年6月、孫楊に資格停止処分を下した。
孫楊は2014年にドーピング違反で3カ月の出場停止処分を受けているが、今回の件については検査官の資格や素姓を疑問視し、一貫して無実を主張してきた。2024年のパリ五輪には出場可能となる。
孫楊の弁護士を務める張起淮氏は、ソーシャルメディア「微博」への投稿で、孫は「国際的闘争における政治的ポジション」の犠牲になったと述べた。
「これほど並外れた才能を持つアスリートが、一部の人間が支配する国際組織の罠にはまってしまうというのは、中国にとって、いや世界にとって嘆かわしいことだ」と彼は述べている。
張氏は具体的にどの組織のことを意味しているのかは明らかにしていない。
孫、張の両氏にコメントを求めたが回答は得られなかった。
<「中国叩き」>
リオ五輪の後に現役を引退した、匿名希望の元競泳選手は、スキャンダルが相次いだだけに中国競泳界に対する認識を変えることは難しい、と述べた。
「明らかに中国叩きだ。他国のアスリートであれば、国全体がドーピングを非難されることはない」と彼は述べ、ドーピングは他の多くの国でもきわめて広い範囲で見られる問題だと指摘する。
ロイターの取材に応じた5人の元五輪選手は、東京五輪に臨む中国の競泳選手らは、孫楊が資格停止処分を受けたことで、いっそう世間からの厳しい目に晒されるだろうと語った。
また、孫楊はドーピング疑惑を巡って、同様の立場に置かれたオーストラリアや米国など他国のアスリートに比べて好意的とは言いがたい扱いを受けてきたと彼らは言う。
英国のアダム・ピーティなど競泳選手の中には、孫楊の永久資格停止を求める声もある。またオーストラリアのマック・ホートンは、2019年の世界選手権400メートル自由形で孫楊が優勝した際、同じ表彰台に上がることを拒否した。
五輪金メダリストのマット・ビオンディ氏は、競泳界に反中国感情があるとは思わないが、競泳界の文化は中国とは非常に異なっており、もっと厳格なものだと話している。
米国出身で、現在は新たに発足したインターナショナル・スイマーズ・アライアンスのマネジャーを務めるビオンディ氏は「中国選手らはひどく孤立を保とうとしていて、孫楊に対する処分は、外部の世界の見解を反映している。私が思うに、皆が感じているのは、彼らは禁止薬物の力を借りてシステムを打破しようとしており、それは正しくない、ということではないか」と語った。
資格停止処分の決定以来、中国のネット世論はもっぱら孫楊支持であり、これまでの実績としてオリンピックでの3個の金メダル、世界選手権での11回の優勝を称賛している。29歳の孫楊は、今後も現役を続行することを公表している。
(翻訳:エァクレーレン)