[東京 7日 ロイター] - 資産運用の理論に「期待収益率」という考え方がある。期待できる収益(リターン)に発生確率を掛け合わせたものだ。金融学的に分析するなら、女子バスケットボール日本代表躍進の秘密はここにある。
バスケットボールの得点は大きく分けて2種類ある。6.75メートル(国際ルール)の3ポイントラインの内側からゴールポストに入れれば2点、外側なら3点だ。当然、遠い場所から打つ3点シュートの確率は低く、以前は2点シュートが選好されていた。
期待収益率の考え方を当てはめると、2点シュートが入る確率が50%とすれば、2×0.5の1点が期待収益率ということになる。一方、3点シュートの確率が30%なら期待収益率は3×0.3で0.9点となり、2点シュートを選択した方が「得」ということになる。
しかし、確率が0.34%以上に上がれば期待収益率は1点を超える。「閾(しきい)値」を超えるという現象が起き、確率は2点シュートよりも低いとしても、3ポイントシュートをどんどん打った方が点数は上がることになる。
平均身長が出場12カ国の182センチに対し、175センチとプエルトリコと並んで最も低い日本チームが初の五輪決勝に進めたのは、この3ポイントシュートを徹底的に磨いたからだ。準々決勝までの成功率は12カ国中トップの39.4%。準決勝では22本中11本を決め、確率は50%と驚異的な数字を叩き出した(2点シュートは54%)。
では、なぜ3点シュートの確率が上がったかだが、これは練習のたまものでしかない。ラインの距離やゴールポストの大きさは変わらないし、画期的な用具が発明されたわけでもない。自分たちの長所と短所を冷静に分析し、技を磨いた結果だろう。
巧妙な戦略も見逃せない。3点シュートは、目の前に相手が立たれるととたんに打ちにくくなる。フリーの状態を作り出すのが重要で、準決勝では五輪新記録の18アシストを決めた司令塔・町田瑠唯の活躍が光った。
決勝の相手は五輪7連覇を目指す米国。日本は30日に行われた予選リーグで86─69で敗れた。3点シュートの確率が26%と米国の43%を下回ったのが敗因だ。「期待収益率」をどこまで上げることできるかが勝利の鍵を握る。
(伊賀大記)