[東京 3日 ロイター] - 東京五輪・障害馬術のアルゼンチン代表選手ホセ・マリア・ラロッカさん(52)は、競技会場に私物のノートパソコンを持ち込んでいる。競技が行われている間も、頻繁に電話でのやり取りは続く。選手として会場に到着するのは最後、退出は最初というのが普通だ。そして彼は24歳から34歳まで、一切馬に乗らなかったという異色の経歴を持つ。
なぜかと言えば、ラロッカさんが馬術選手であると同時に世界でも指折りの影響力がある石油トレーダーの1人であり、仕事のためにも競技のためにも最低でも7時間の睡眠を求めるからだ。
スイスにある巨大コモディティー商社トラフィグラの職場から電話で取材に応じたラロッカさんは「2つのことを切り替える必要があり、今やっている目の前の課題に適切に集中できる態勢を確保しなければならない」と語った。
「仕事中に乗馬は不可能で、トレーディングで起きる事態に思いを巡らせている。馬に乗っている間は、そちらに全神経を振り向けなければかなり危険だし、(勝利の)チャンスもゼロになる。私以外の全選手はもっと厳しい訓練を積み、経験値も高いのだから」
ラロッカさんの日課は、1時間余りの昼食休憩に3回走ること。「私の気分を落ち着かせ、思考を助けてくれるのがランニングだ」という。
<両立の醍醐味>
生きがいや情熱の対象を五輪以外にも見いだしながら、プライベートも充実させようとしているアスリートはラロッカさんのほかにも数多い。
アイルランド代表チームの旗手を務めたボクシングのライト級世界王者ケリー・アン・ハリントンさんは、ダブリンの精神病院でパートタイムの清掃員として働いている。彼女は「私は単なるボクサーではない。ケリー・アン・ハリントンという、今を生きる1人の人間だ」と胸を張った。
ハリントンさんは「ボクシングのほかに何かを持つべきだ。もう一つの人生が必要なんだ。スポーツをやり、それを通じた経験だけが人生ではない。何かよりどころになるものが欠かせない」と訴える。
五輪は公式には政治とは切り離された領域とされている。しかしバドミントンのエジプト代表選手ハディア・ホスニーさん(32)やボクシングのフライ級インド代表選手マリー・コムさん(38)はともに本国に帰れば国会議員という肩書がある。
世界王者に6回輝き、2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した上にビジネスウーマンとしての顔も持つコムさんは「私は母親で4人の子どもがいて、ずっと奮闘している。『世界王者』と口にするのは簡単でも、(実践するのは)大変だ」と打ち明け、多くのことを犠牲にしてきたと付け加えた。
ホスニーさんは薬理学の博士課程の学生。バドミントンでペアを組むドーハ・ハニーさん(23)もやはり学生で、日常の中に非常に多くの要素を詰め込んでうまく回していくのは大変だが、最初からそうすべきものだったと迷いはない。「こうした生活を送れるのは幸せだ。だからハードだが、自分をとても誇りに思っている」と言い切った。
一部のアスリートは、新型コロナウイルスのパンデミックによって普及したリモートワークのおかげで、仕事と競技の両立がより円滑になった。
野球のイスラエル代表チームのシュロモ・リペッツ投手(42)は、米国の劇場向けのミュージカルやその他の演劇を運営する仕事に携わっており、プロリーグで選手となった経験はない。それでもリモートワークを駆使し、チームとともに練習できる時間が増えた。
リペッツさんは言う。「あなたに十分な粘り強さがあれば、こうしたことができると言えればいいと思う。ただ、それには、あなたが好きなことをやり、自分のしていることを愛し、そして正しい時期に正しい場所にいられるようにしておかなければならない」
(Shadia Nasralla記者 Chang-Ran Kim記者 Richa Naidu記者)