Ed Davies Hyonhee Shin
[6日 ロイター] - 韓国では過去2週間、医学部の入学定員を増やす政府の計画に抗議し、数千人の研修医が職場を離脱した。双方は医療制度の改善方法を巡って対立している。
当局は、遠隔地医療や、急速な高齢化による需要増加に対応するため、より多くの医師が必要だとしているが、医師の多くは、医療制度に偏りを生じさせている給与や労働条件にまず対処すべきだと主張する。
韓国の医療制度と現在の論争を巡る詳細は以下の通り。
◎数字で見る医師
韓国は公的医療保険制度によって国民皆保険制度を備えているが、ほとんどの医師は個人開業医であり、病院は通常、民間経営だ。
経済協力開発機構(OECD)加盟国のデータによると、人口1000人当たりの医師数は2.6人で、先進国の中では最低の部類に入る。トップのオーストリアは1000人当たり5.5人。
政府は、2035年までに医師が大幅に不足すると予想されるため、25年から医学部の入学定員を現在の3000人から2000人増やす計画だ。
政府の計画について医療関係者からは、深刻化する医師不足に悩む地方に対応したり、必需サービスを補強したりするための適切な対策を欠いているため、目先の状況の解決にはほとんど役立たないとの指摘が上がっている。また、医師1人を養成するには約10年を要する。
保健福祉省によれば、2月20日のストライキ開始以来、研修医の約70%、約9000人が職場を離脱した。
23年の同省のデータに基づくと、医師免許保有者13万5000人のうちストに参加したのは約7%にとどまるが、いくつかの大病院では研修医がスタッフの少なくとも40%を占めており、一部患者の医療処置を断らざるを得ない事態となっている。
◎報酬
OECDのデータによると、韓国の専門医の平均年収は20年時点で19万2749ドル(約2870万円)と、先進国中で最も高い部類に入る。
しかし保健福祉省のデータによれば、一般開業医の給与は低く、専門医の収入にも大きな格差がある。小児科医の給与は最も低く、全体の平均を57%下回る。個人開業の形成外科医や皮膚科医は通常、高給だ。
ストに参加したある研修医はロイターに、自身は一流大学病院で週100時間以上働いているが、給与は残業代込みで月200万ウォンから400万ウォン(1500―3000ドル)だと話した。米医師会のデータによれば、米国の研修医1年目の平均月給は約5000ドルだ。
◎医療費
韓国の国民健康保険制度では、病院は「必要不可欠な」医療に対して患者から一定の料金しか受け取ることができない。しかし政府が設定した料金はしばしば低過ぎてコストをカバーできないと一部の医師は言う。
そのため、医師らは神経外科、救急医療、小児科といった「必要不可欠な」医療分野を敬遠し、代わりに皮膚科や美容外科といった、保険適用外の手術で儲けられる分野に進出しているという。
政府は、政府の計画により地方や農村部への投資と医師の給与は増えると説明。また必要不可欠なサービスの料金を既に引き上げており、今後5年間も引き上げのために10兆ウォン(75億ドル)以上を投入するとしている。
◎国民の支持
医学部の入学定員を増やす計画は国民の支持を得ている。韓国ギャラップ社の世論調査によると、支持政党に関係なく、回答者の約76%がこの政策に賛成している。
聯合ニュースが5日発表した別の調査では、回答者の84%が医師の増員を支持し、43%がストに参加した医師を厳しく罰するべきだと答えた。
これに伴い、尹錫悦大統領の支持率は上昇。4月の議会選を控え、党利党略のために医療改革を巡って喧嘩を売ったとの批判も出ている。
22年にトラック運転手によるストが発生し、サプライチェーンが寸断され、主要産業が脅かされた際にも尹氏は同様の強硬姿勢を維持した。
◎今後の展開
文在寅前大統領は20年、新型コロナウイルス感染の波と重なった医師ストライキの後、医師の数を増やす計画を棚上げにした。この経緯がスト参加者の決意を強くさせているようだ。
ただ政府は最近、軍医を使ったり、通常は医師が行う処置の一部について看護師に権限を与えたりと、紛争を乗り切るための対策を展開している。
さらに当局は、ストを行った医師に対し、医師免許の停止や剥奪、医療法違反による罰金や懲役刑の可能性など、法的・行政的措置をちらつかせている。