■主要開発パイプラインの概要と進捗状況
3. エミクススタト塩酸塩
2022年8月12日付で窪田製薬ホールディングス (TYO:4596)は、エミクススタト塩酸塩のスターガルト病※を適応症とした第3相臨床試験におけるトップラインデータを発表し、主要評価項目及び副次的評価項目においてプラセボ群との統計的な有意差が示されなかったことを発表した。
主要評価項目である黄斑委縮の進行率については、エミクススタト塩酸塩投与群で1.280mm2/年、プラセボ群で1.309mm2/年であった(p=0.8091)。
ただし、エミクススタト塩酸塩の忍容性は良好で、先行研究と同様の安全性プロファイルが示されたとしている。
同結果を受けて、同社は臨床試験で得たデータをさらに綿密に検証し、引き続き共同開発パートナーを探す等の活動を継続するとともに、エミクススタト塩酸塩の今後の開発計画について改めて検討する意向を示した。
※スターガルト病とは網膜の遺伝性疾患で、小児期から青年期における視力低下や色覚障害などが主な症状として挙げられ若年性黄斑変性とも呼ばれている。
大半の患者が視力0.1以下に低下すると言われており、有効な治療法がいまだ確立していないアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患の1つ。
エミクススタト塩酸塩については、2016年4月から2017年11月にかけて米国で増殖糖尿病網膜症を適応症とした第2相臨床試験を実施した。
その結果、プラセボ群に比べエミクススタト塩酸塩投与群では、網膜症の発症や悪化に関連するバイオマーカーの1つであるVEGF(血管内皮増殖因子)濃度に軽度の改善が認められたが、そのほかのバイオマーカーについては有意差が得られなかった。
また、第3相臨床試験については費用負担が大きくなることから共同開発パートナーが見つかれば進める方針とし、開発の優先順位を引き下げた経緯がある。
このため、今回の臨床試験のデータを検証して、治療薬として開発を継続するために意義のある新たな発見が見つからなければ、開発の優先順位を引き下げ「クボタメガネ」などの医療機器に経営リソースを集中させることになりそうだ。
NASA向けプロジェクトは中断中も、予算が付き次第再開される可能性あり
4. 宇宙飛行士向け超小型眼科診断装置「SS-OCT」
宇宙飛行で発症する眼疾患に関する研究を行うための超小型眼科診断装置「Swept Source-OCT(以下、SS-OCT)」の開発プロジェクトを、NASAと開発受託契約を締結して2019年より開始し、2020年初に第1フェーズの開発ミッションを完了した。
開発の第2フェーズについては2021年に米政府が民主党に政権交代したことや、コロナ禍の影響で国家予算がコロナ対策に優先されたこともありNASAの開発予算が削減され、その影響により一時中断状態となっている。
同プロジェクトは、長期的な宇宙飛行を経験した宇宙飛行士の約69%が、視力障害や失明の恐れがある神経眼症候群を患っているという研究報告※をもとに、宇宙飛行が眼領域に与える影響を研究することが目的である。
現在、国際宇宙ステーション(International Space Station、以下、ISS)で使用されている市販のOCTは据え置き型で操作が複雑であり、数ヶ月間の宇宙ステーション滞在中に宇宙飛行士は3回しか検査できていなかった。
今回、開発する超小型SS-OCTは、飛行士自身が毎日測定して記録を保存しておくことが可能となり、宇宙飛行が眼疾患に与える影響をより詳細に分析することで、疾患リスクの軽減や予防などに役立てていく。
※かすみ目や視神経乳頭浮腫、眼球後部平坦症、綿花状白斑等の眼疾患症状が報告されている。
開発フェーズは全体で3ステップに分かれており、第1フェーズのミッションは、耐久性と安価な光源であるレーザーを使用した概念実証(POC)の確認で、複数のレーザーを用いて視神経乳頭の形状を高解像度で測定する装置を開発することであった。
2020年1月にNASAでデモンストレーションを行ったが、NASAのプロジェクト担当者からも高い評価を受けた※。
2020年2月に第1フェーズの開発を終了し、同年4月に開発報告書をNASA及びTRISHに提出、開発受託収入37百万円を2020年12月期に事業収益として計上した。
※NASA担当者から、次のようなコメントが寄せられた。
「小型でありながら操作が簡単で、データ処理が早い。
宇宙飛行中の眼球への影響を研究するために、ISSで大いに役立つと信じている」「フェーズ1の使用条件を満たしているだけでなく、期待以上の完成度であった。
外見も洗練され、軽くて持ちやすい。
フェーズ2での仕上がりが楽しみである」
第2フェーズは、同装置を用いてどのような画像解析手法で宇宙飛行に起因する眼疾患の検証を行うか、運用上で必要となる要件定義を固める工程となり、最終の第3フェーズでは、実際に宇宙飛行環境において使用可能な装置の開発を進める。
具体的には、宇宙放射線被ばくに対する耐久性を持ち、無重力環境下で宇宙飛行士自身が操作できるハードウェアの開発を提携企業と共同開発することになる。
現在は、プロジェクトが中断中であるが、NASAのプロジェクト担当者からは継続の意向を確認しており、今後開発予算が付き次第、再開されるものと予想される。
NASAでは月面飛行プロジェクトが動き始めるなど、再び予算が付き始めていることから、2023年からプロジェクトが再開される可能性もあると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
3. エミクススタト塩酸塩
2022年8月12日付で窪田製薬ホールディングス (TYO:4596)は、エミクススタト塩酸塩のスターガルト病※を適応症とした第3相臨床試験におけるトップラインデータを発表し、主要評価項目及び副次的評価項目においてプラセボ群との統計的な有意差が示されなかったことを発表した。
主要評価項目である黄斑委縮の進行率については、エミクススタト塩酸塩投与群で1.280mm2/年、プラセボ群で1.309mm2/年であった(p=0.8091)。
ただし、エミクススタト塩酸塩の忍容性は良好で、先行研究と同様の安全性プロファイルが示されたとしている。
同結果を受けて、同社は臨床試験で得たデータをさらに綿密に検証し、引き続き共同開発パートナーを探す等の活動を継続するとともに、エミクススタト塩酸塩の今後の開発計画について改めて検討する意向を示した。
※スターガルト病とは網膜の遺伝性疾患で、小児期から青年期における視力低下や色覚障害などが主な症状として挙げられ若年性黄斑変性とも呼ばれている。
大半の患者が視力0.1以下に低下すると言われており、有効な治療法がいまだ確立していないアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患の1つ。
エミクススタト塩酸塩については、2016年4月から2017年11月にかけて米国で増殖糖尿病網膜症を適応症とした第2相臨床試験を実施した。
その結果、プラセボ群に比べエミクススタト塩酸塩投与群では、網膜症の発症や悪化に関連するバイオマーカーの1つであるVEGF(血管内皮増殖因子)濃度に軽度の改善が認められたが、そのほかのバイオマーカーについては有意差が得られなかった。
また、第3相臨床試験については費用負担が大きくなることから共同開発パートナーが見つかれば進める方針とし、開発の優先順位を引き下げた経緯がある。
このため、今回の臨床試験のデータを検証して、治療薬として開発を継続するために意義のある新たな発見が見つからなければ、開発の優先順位を引き下げ「クボタメガネ」などの医療機器に経営リソースを集中させることになりそうだ。
NASA向けプロジェクトは中断中も、予算が付き次第再開される可能性あり
4. 宇宙飛行士向け超小型眼科診断装置「SS-OCT」
宇宙飛行で発症する眼疾患に関する研究を行うための超小型眼科診断装置「Swept Source-OCT(以下、SS-OCT)」の開発プロジェクトを、NASAと開発受託契約を締結して2019年より開始し、2020年初に第1フェーズの開発ミッションを完了した。
開発の第2フェーズについては2021年に米政府が民主党に政権交代したことや、コロナ禍の影響で国家予算がコロナ対策に優先されたこともありNASAの開発予算が削減され、その影響により一時中断状態となっている。
同プロジェクトは、長期的な宇宙飛行を経験した宇宙飛行士の約69%が、視力障害や失明の恐れがある神経眼症候群を患っているという研究報告※をもとに、宇宙飛行が眼領域に与える影響を研究することが目的である。
現在、国際宇宙ステーション(International Space Station、以下、ISS)で使用されている市販のOCTは据え置き型で操作が複雑であり、数ヶ月間の宇宙ステーション滞在中に宇宙飛行士は3回しか検査できていなかった。
今回、開発する超小型SS-OCTは、飛行士自身が毎日測定して記録を保存しておくことが可能となり、宇宙飛行が眼疾患に与える影響をより詳細に分析することで、疾患リスクの軽減や予防などに役立てていく。
※かすみ目や視神経乳頭浮腫、眼球後部平坦症、綿花状白斑等の眼疾患症状が報告されている。
開発フェーズは全体で3ステップに分かれており、第1フェーズのミッションは、耐久性と安価な光源であるレーザーを使用した概念実証(POC)の確認で、複数のレーザーを用いて視神経乳頭の形状を高解像度で測定する装置を開発することであった。
2020年1月にNASAでデモンストレーションを行ったが、NASAのプロジェクト担当者からも高い評価を受けた※。
2020年2月に第1フェーズの開発を終了し、同年4月に開発報告書をNASA及びTRISHに提出、開発受託収入37百万円を2020年12月期に事業収益として計上した。
※NASA担当者から、次のようなコメントが寄せられた。
「小型でありながら操作が簡単で、データ処理が早い。
宇宙飛行中の眼球への影響を研究するために、ISSで大いに役立つと信じている」「フェーズ1の使用条件を満たしているだけでなく、期待以上の完成度であった。
外見も洗練され、軽くて持ちやすい。
フェーズ2での仕上がりが楽しみである」
第2フェーズは、同装置を用いてどのような画像解析手法で宇宙飛行に起因する眼疾患の検証を行うか、運用上で必要となる要件定義を固める工程となり、最終の第3フェーズでは、実際に宇宙飛行環境において使用可能な装置の開発を進める。
具体的には、宇宙放射線被ばくに対する耐久性を持ち、無重力環境下で宇宙飛行士自身が操作できるハードウェアの開発を提携企業と共同開発することになる。
現在は、プロジェクトが中断中であるが、NASAのプロジェクト担当者からは継続の意向を確認しており、今後開発予算が付き次第、再開されるものと予想される。
NASAでは月面飛行プロジェクトが動き始めるなど、再び予算が付き始めていることから、2023年からプロジェクトが再開される可能性もあると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)