[上海 5日 ロイター] - 中国では8日から入国時の隔離義務が撤廃されるなど新型コロナウイルス感染対策に関する旅行規制が大幅に緩和される。中国人旅行者がパリや東京など世界各地で買い物を楽しむ環境が戻ってきた形だ。株式市場では投資家がこうした事態を見越して、既に先週から世界的な高級ブランドメーカーの株価が急伸している。
だがすぐに海外で買い物をする中国人旅行者の数がパンデミック前に戻る公算は小さい、とアナリストや高級ブランド業界はくぎを刺す。
理由としては、航空会社の中国便はまだ全面的に復活していないことや、中国国内のブランド品価格が低下しているという事情が挙げられる。そして何より重要なのは、大手ブランド各社が今、中国の消費者に国内で買い物を体験してもらうことにより多くの投資を行っているという点だ。
上海に住むマオさんも、かつては毎年のように世界中のブティックを巡っていたが、今は中国国内で最上のサービスが受けられると確信している。「パリに行ったとしても現地の店員にバッグの取り置きなどお願いできないが、中国ならそれが可能だ」という。
パンデミックによって国境が閉ざされた2020年序盤以前は、中国の消費者が買った高級ブランド品の70%は海外での購入だった。
その後パンデミックで旅行規制が導入されると中国国内のブランド品売上高が急増し、ベイン・アンド・カンパニーの調べでは2019年から21年までに2倍の4710億元(約9兆1500億円)に膨らんだ。
コンサルティング会社ローランド・バーガー(上海)のジョナサン・ヤン社長は「(海外での購入比率は)70%には戻らないだろう。旅行すれば買い物をしたくなるのが自然である以上、中国国外である程度ブランド品が買われ続けるのは間違いない。しかしその比率は半々程度にとどまる可能性の方が大きい」と述べた。
「ルイ・ヴィトン」を展開するLVMHや「コーチ」のタペストリーなど多くの高級ブランドメーカーは過去3年間で中国国内の販売促進に力を注ぎ、新しい旗艦店を開店したり、大規模なファッションショーを開催したりして海外に行けない消費者を取り込もうとしている。
これらの取り組みを通じて各社の中国拠点のスタッフと、以前は海外で買い物をしていた最重要(VIP)顧客の関係が深まった。
香港を本拠とするコンサルティング会社オリバー・ワイマンが実施した調査によると、中国のブランド品購入者の70%は買い物を円滑に進めるためセールスアシスタントを利用し、40%は最低でも週に1回、セールススタッフと連絡を取り合っている。
オリバー・ワイマンのケネス・チョウ氏は21年にブランド品を購入した中国の消費者の半数は、初めてこうした体験をしたと話す。「新たなブランド品消費者が今後、海外と国内の買い物でどれほど違いがあるかを感じると予想され、非常に興味深い現象になるだろう」と付け加えた。
<国内免税店に脚光>
海外旅行規制と中国政府による国内消費喚起政策が相まって、多くの消費者が免税店が集まる海南島をブランド品購入先に選んでいるという面もある。
中国国内の地域別ブランド品消費の比率を見ると、海南島は21年が13%とパンデミック前の6%から上昇。課税措置はこれからさらに軽減される見通しだ。また25年までには、外国ブランド各社は中免集団(CDFG)のような中国企業との合弁ではなく、独自の免税店を営業できるようになる。
ローランド・バーガーのヤン氏は、中国人のうちパスポートを所持しているのは13%に過ぎず、国内免税店は非常に大きな魅力があるので、海南島の人気は衰えないだろうとの見方を示した。
この海南島の存在に加え、中国政府が18年と19年にブランド品の輸入関税を引き下げたこともあり、価格に敏感な消費者にとっても海外で買い物をするメリットは低下している。ハンドバッグ類は以前なら海外の方が中国より50―60%安かったが、今は10-20%程度の価格差にとどまる。例えばルイ・ヴィトンのトートバッグ「ネヴァーフル」は上海の価格が1万4400元で、パリで買って12%の付加価値税の還付を受けた場合と比べると18%ほど高いだけだ。
バーンスタインのアナリスト、ルカ・ソルカ氏は「内外価格差」について、ドル/人民元レート次第で単純にいかない部分はあるにしても、ブランド各社は引き続き縮小の努力をしていくと予想した。
それでも海外の方が品ぞろえは豊富で、パンデミック中に貯蓄が進んだこともあり、中国人の休暇の過ごし方として海外でのブランド品購入は再び選択肢に入ってきた。実際、上海のファッション業界で働くルーシー・ルーさん(31)は既に海外行きを計画している。
ルーさんは「私の友人が欲しがっているブルガリの指輪はドバイなら20%安いし、別の友人からは化粧品ブランドのリストをもらっている。幾つかの商品は中国国内で在庫切れになりがちで、海外の方が手に入りやすい」と述べた。
(Casey Hall記者)