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新型ロケット「H3」打ち上げ失敗、日本の宇宙政策に打撃

発行済 2023-03-07 10:44
更新済 2023-03-08 09:54
© Reuters.

[東京 7日 ロイター] - 日本の新型主力ロケット「H3」は7日午前、打ち上げに失敗した。第2段エンジンが点火せず、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は飛行中に指令破壊信号を送信した。H3は打ち上げコストの安さが特長で、日本の宇宙ビジネスにとって試金石になると期待されていた。専門家からは宇宙政策への影響を懸念する声が聞かれる。

同日午後に会見したJAXAの山川宏理事長は冒頭に陳謝。原因究明や対策には「時間やコストがかかる」としつつ、「原因究明に尽力し、改めてロケットの信頼性を回復するのが責務だ」と話した。

H3は地球観測衛星「だいち3号」を搭載して午前10時37分に正常に打ち上がったが、第2段エンジンの点火が確認できなかった。JAXAはミッションを達成する見込みがないと判断して「指令破壊」の措置を取った。だいち3号は弾道ミサイルの発射などを早期に探知できる光学センサーを載せていた。

だいち3号の軌道投入失敗について、山川理事長は「だいち2号は当初の予定を超えて運用している。3号の投入失敗は大きな影響がある。どう挽回していくかはこれから検討する」と述べた。打ち上げ実施責任者の布野泰広理事は、落下したロケットの回収は現時点で考えておらず、年間6機の打ち上げを予定していたH3の計画を「立て直す」と話した。

H3は当初2月17日の打ち上げを予定していたが、電気系統のトラブルで誤作動が起き、発射直前に中止していた。機体と地上設備を電気的に切り離す際、通信と電源を同時に遮断したことでノイズが発生して誤作動が起きたとみられ、時間差をつけて遮断する手順に変更するなどの対策を講じた。

2月の打ち上げ中止後、予備期間の3月10日までに再び打ち上げなければならないプレッシャーがあったかを問われ、打ち上げ執行責任者の岡田匡史プロジェクトマネージャーは、調査・対策が中途半端な状態で無理に打ち上げることはない、と述べた。

宇宙政策を所管する永岡桂子文部科学相は参議院文教科学委員会で、「大変遺憾。宇宙開発利用の進展を止めないよう、速やかな原因究明に全力で取り組む」と語った。日本の国産ロケットを巡っては、イプシロンロケットも昨年10月、打ち上げに失敗している。

宇宙ビジネスのコンサルティングを手掛けるベンチャー企業、デジタルブラスト(東京・千代田)の堀口真吾CEO(最高経営責任者)は「打ち上げ本数が大きく違う米国などにコスト競争を挑むのは難しい。無理に(宇宙への)輸送費だけを削減するのではなく、安全審査などを含めた宇宙ビジネス全体の付加価値を高めるための支援など、政府がやれることはたくさんある」と話した。

東京理科大学の小笠原宏教授は、第2段エンジンはH1ロケットから基本的に同じものを使っており、珍しいトラブルと指摘。「失敗の原因の探索と対応が必要となるため、すでに決まっている打ち上げスケジュールの見直しが必須になる」と述べた。

H3は現在の主力ロケット「H2A」の後継機。JAXAと三菱重工業が2014年から共同で開発し、国の人工衛星などを宇宙へ輸送するほか、世界で高まる商業衛星打ち上げ需要の受注獲得に向け、2000億円余りを投じてきた。初号機打ち上げは当初20年度を計画していたが、主エンジンの開発が難航し、延期が繰り返された。

H3の特長は打ち上げ費用の安さで、一定条件下ではH2Aの半額となる約50億円を目指している。米国主導の月探査計画「アルテミス計画」で物資輸送も担う予定にしている。宇宙政策などが専門の大阪大学の渡辺浩崇特任教授は「今後10年以上を担う基幹ロケットの開発・運用のめどが立たなくなってしまった」とした上で、「日本の宇宙政策、宇宙ビジネス・技術競争力への影響はかなり大きく深刻だと思う」と述べた。

一方、和歌山大学の秋山演亮教授は、今後3年程度は打ち上げ手段が限られるものの、5─10年を見据えた長期的な影響は少ないとみる。「日本が独自に輸送系を持ち続けるというのは、現在の日本の宇宙開発体制の1丁目1番地。打ち上げ数の増加につれ、安定運用できると考えている」とした。

今回の打ち上げ失敗が伝わると、東京株式市場で三菱重工の株価は急落した。

*動画を付けて再送します。

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