Francesco Guarascio
[ハノイ 31日 ロイター] - 米国は中国に絡む供給リスクへの備えとして、ベトナムを半導体の生産拠点として急成長させる計画だ。しかしこのプランを進める上でベトナムの慢性的な技術者不足が重い課題に浮上している。
バイデン米大統領は9月10日からベトナムの首都ハノイを訪問する。両国関係の本格的な強化が狙いで、半導体が議論の焦点になる見込み。米政権関係者によると、バイデン氏はベトナムの半導体生産強化に向けた支援策を提示する予定だ。
友好国で供給網を完結させる「フレンドショアリング」構想に戦略的な半導体産業が組み込まれていることは、米国がベトナムの共産主義指導者を説得し、正式な関係強化への同意を求める重要な動機の1つとなっている。ベトナム政府は当初、中国の反発を恐れ、米国の求めに応じることに消極的だった。
両国の本格的な関係強化により、ベトナムの半導体産業には数十億ドル規模の新規民間投資のほか、一部の公的資金も流れ込む可能性がある。しかし関係者によると、ベトナムの半導体産業は熟練した技術者が少ないことが急速な発展にとって大きな障害になりそうだ。
米国・ASEANビジネス評議会ベトナム事務所のVu Tu Thanh代表は、「実働可能なハードウエア技術者の数は、数十億ドル規模の投資を支えるのに必要な数をはるかに下回っており、今後10年間で必要とされる水準の10分の1程度に過ぎない」と述べた。
1億人の人口を抱えるベトナムは、半導体セクターで必要な熟練技術者の数が5年後に2万人、10年後には5万人に膨らむと見込まれるが、今は5000人ないし6000人しか育っていないという。
またRMIT大学ベトナム校でサプライチェーン(供給網)に関するシニア・プログラム・マネージャーを務めるフン・グエン氏は、熟練した半導体ソフトウェア技術者の供給が不足するリスクもあると指摘した。
<中国の優位>
ベトナム政府の統計によると、同国の半導体業界の対米輸出額は年間5億ドル余り。現状ではサプライチェーンの後工程、つまり組み立て、パッケージング、試験に重点が置かれているものの、設計などの分野も徐々に拡大している。
米政府はベトナムの半導体産業のどの分野に優先的に取り組むかを明らかにしていないが、米国の業界幹部は後工程が重要な成長分野だと指摘した。
計画を練る上では中国の存在感が大きい。ボストン・コンサルティング・グループの分析では、2019年には世界の半導体後工程の40%近くが中国にあり、米国の割合はわずか2%だった。中国が軍事活動を活発化させ、紛争への懸念をあおっている台湾は27%。
つまり半導体セクターにおいて組立部門は製造部門に次ぎ業界で最も地域的な集中度合いの高いセクターのひとつで、中国がこれほど支配的な地位を占めている分野は他にない。
米半導体大手インテルはベトナム南部で15年ほど前から半導体の組み立て、パッケージング、試験を行う世界最大級の工場を運営してきたにもかかわらず、ここまで中国への集中が進んだ。
ただ、米半導体大手アムコーがハノイ近郊に半導体の組み立てと試験を行う最新鋭の巨大工場を建設する、と先月ハノイを訪問したイエレン米財務長官が明らかにするなど、ベトナムへの関心は高まっている。
とりわけ米国が自国の半導体生産を強化する狙いで導入したCHIPS法に盛り込まれた5億ドルの資金のかなりの部分がベトナムに向かえば民間投資はさらに増えるだろう。
RMIT大学ベトナムのフン氏は、米国はベトナムの半導体原料、特に中国に次いで世界第2位の埋蔵量を持つと推定されるレアアースの供給を強化することにも関心があるかもしれないとみている。
ベトナムは小規模な半導体設計分野にも企業が進出している。米半導体設計ソフトのシノプシスが事業展開しているほか、同業のマーベルが世界トップクラスの拠点建設を計画している。
またベトナムは半導体製造装置メーカーからの関心も集めている。
<求人>
しかし、熟練技術者の不足に適切に対応しなければ半導体産業の野望は夢物語に終わり、ベトナムはマレーシアやインドといったアジア地域の競争相手に対してより弱い立場に置かれるかもしれない。
関係者に話を聞くと、インテルは熟練技術者の数を増やすよう当局に繰り返し要請している。
消息筋によると、インテルは今年に入り、ベトナムでの事業規模を現在の15億ドルから2倍近くに拡大することを検討した。ただ、6月に同社は欧州での大規模な投資を発表しており、その後もこの計画が継続しているかどうかは不明だ。インテルはコメントの求めに応じなかった。
アムコーはベトナムのウェブサイトで約60件の求人をかけており、そのほとんどが技術者とマネジャーだ。
米国・ASEANビジネス評議会のThanh氏によると、技術者不足対策として国内の熟練技術者が十分に増えるまで、外国人技術者の労働許可証の発行規則を緩和することが考えられる。しかしそのためには法改正と行政手続きの迅速化が必要で、ベトナムではこれは容易なことではないというのが関係者の見方だ。
ホワイトハウスは声明で、バイデン氏はベトナムの指導者と既存の訓練イニシアティブを拡大するような労働力開発プログラムについて話し合うつもりだと説明した。