Maytaal Angel Dewi Kurniawati
[ロンドン/ジャカルタ 19日 ロイター」 - 欧州連合(EU)域内のコーヒー輸入企業が、アフリカなどの小規模農家からの調達を縮小しはじめている。EUが気候変動の原因となる森林破壊につながる商品の販売を禁止する画期的な法律を2024年中に施行するためだ。
業界関係者によれば、このEUの森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化規則(EUDR)を順守するためのコストや障害は大きく、すでに予期せぬ影響が出ている。いずれグローバルなコモディティ市場の再編につながる可能性もあるという。
関係者4人によると、ここ数カ月、エチオピア産コーヒーの発注が途絶えつつある。エチオピアでは約500万戸の農家がコーヒー栽培に依存している。EUDRに備えて企業が採用しつつある調達戦略によって小規模農家の貧困が深刻化するだけでなく、EUの消費者にとっては価格が上昇する恐れがあるという。一方で、森林保全に向けたEUDRの効果まで損なわれる恐れも指摘されている。
ドイツのコーヒーブランド大手ダルマイヤーの幹部ヨハネス・デングラー氏は、「今後、まとまった量のエチオピア産コーヒーを購入する予定はない」と語る。ダルマイヤーは世界全体のコーヒー輸出量の約1%を購入している。
EUDRの施行法令はまだ最終化されていないものの、現時点で発注するコーヒー豆は、2025年にEU域内でコーヒー製品として販売される可能性があるため、EUDRに適合する作物である必要がある、とデングラー氏は言う。
EUDRでは、コーヒーやカカオ豆、大豆、パームヤシ、畜牛、材木、ゴムといったコモディティ(一次産品)や、それらを原料とする製品を輸入する事業者は、森林が破壊された土地で生産された商品ではないことを証明できなくてはならない。違反すれば巨額の罰金を科されることになる。
コーヒー大手のJDEピーツは、「対応策を見出し、導入できなければ」、早ければ3月にも小規模な生産国の一部をサプライチェーンから外さざるをえなくなるかもしれない、としている。
森林破壊は、気候変動の要因として化石燃料の消費に続き2番目に大きいとされている。
欧州委員会は、生産国や小規模農家のEUDR順守を支援するため複数の措置を用意しているとしている。国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で発足した、EU及び加盟国が拠出を公約する7000万ユーロ(約110億円)の基金もその1つだ。
<産地トレーサビリティの難しさ>
EUDRは企業に対し、原材料が栽培された区画までさかのぼってサプライチェーンをデジタルマップ化することを求めている。企業は、遠隔地域の小規模農家数百万戸まで追跡しなければならなくなる。
さらに、企業が農家と直接取引していない場合も多いため、マップの一部は多数の現地仲買人が提供するデータに依存することになりかねない。こうした仲買人とも直接取引がなかったり、信頼関係がない場合もある。
一部の開発途上国ではインターネット普及状況にもばらつきがあり、こうしたマップの作成は難しい。商社や業界専門家は、土地の権利をめぐる紛争や法執行機能の弱さ、部族間の対立により、農地の所有状況に関するデータを集めることさえ危険な場合があると話す。
エチオピアのオロミアコーヒー栽培農家協同組合の代表者は、先日行われたワールド・コーヒー・アライアンスによるウェビナーの中で、「最近では、私たちが生産するコーヒーには欧州からの引き合いがまったくない」と語った。
エチオピアのコーヒー栽培農家の大半はEUDRのことなど聞いたこともなく、教育水準の高い村民がいても必要なデータを期限までに集めるのに苦労するだろうと、この代表者は説明した。
コーヒーはエチオピアの輸出収入の30─35%を生み出しており、その4分の1近くがEU向けとなっている。
ある大手コーヒー商社のトレーダーは、「焙煎事業者は、ブラジルの資金力のある大規模農家にシフトしている。本当にショックだ」と語る。
「リスクの高い国には、文字の読み書きができない小規模農家や仲買人がいる。そこに、欧州人でさえ理解できないような法律を持ち込もうというのだから」
<分割されるサプライチェーン>
だが、小規模農家や生産国を丸ごと切り捨てるといっても、それが主要なコモディティ生産者や生産国であれば現実的ではない。
たとえばコートジボワールやガーナは、世界のココア生産量の70%近くを占める。同じく、コーヒーの60%はブラジル産とベトナム産だ。ピザから口紅、バイオ燃料まであらゆるものに利用されるコモディティであるパームオイルは、9割がインドネシアとマレーシアで生産される。
こうした状況があるため、大手企業の一部は、これらの国で生産された原材料のうち産地トレーサビリティの確保が難しいものは非EU市場向けに回し、EUDRを順守できる製品をEUに送るつもりだとしている。
世界有数のパームオイル企業であるゴールデン・アグリ・リソーシズはロイターに対し、「(EUDRを実施するには)サプライチェーンの分割が必要になる」と語った。パームオイル大手ムシムマスの関係者もこれに同意する。
こうした戦略が一定程度広がれば、EUDRの森林保全効果は低下する。EUでの消費に回されないというだけで、依然として森林を破壊した土地での原材料の栽培は続くからだ。
一方で、サプライチェーン全体で順守コストが生じることで、EU加盟27カ国における食品価格は上昇すると予想される。
ある大手コモディティ商社の関係者によれば、世界大手のコーヒー商社のうちスカフィナとルイ・ドレフュス・カンパニー(LDC)の2社は、すでにEUDR対応コストを織り込んだ先物販売契約を確定させているという。
LDCとスカフィナはコメントを控えるとしている。
欧州委員会は、EUDRが食品インフレを加速する見込みは薄いとの見方を示している。同委員会が指摘するのは、たとえば、トレーサビリティの確保にコストがかかる一方で、EUDRによって市場における仲介事業者の数が減少するはずであり、それによってコスト上昇分が相殺される可能性だ。
<森林保護につながるか>
EUDRに特に戸惑っているのは、カカオ豆の主要生産国だ。
たとえばコートジボワール産カカオ豆の半分は国内の仲買人を経由しており、トレーサビリティに難がある。ほとんどがEUによる消費に向けた生産であり、チョコレート人気がそこまで高くないアジアに全面的に振り向けることはできない。
商社関係者によれば、仲買人からの購入を減らすのも一筋縄ではいかないという。コートジボワール当局が、カカオ豆調達の20%をこうした国内サプライチェーンから購入することを義務付けているからだ。
世界的なトップ農産物商社でグローバルなカカオ豆事業を率いる人物は、「その部分で当局の介入がある。そうした供給に(生産地の)保証がつけばいいが、そうはなっていない」と語る。
コートジボワールの問題点は、同国産カカオ豆の20─30%が保護対象に指定された森林でを栽培されており、100万人近い農家が関わっている点だ。農家のこうした生計手段を否定すれば社会不安につながりかねないが、本格的な資金提供や支援なしに、生産を別の場所に移すことは現実的ではない。
関係者によれば、結果的にコートジボワール政府は保護対象森林の見直しを検討しており、EUが見直しの断念を公式に呼びかけているという。
(翻訳:エァクレーレン)
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