[日本インタビュ新聞社] - アイデミー<5577>(東証グロース)は東大発のAIスタートアップである。AI/DX人材の育成を支援するプロダクト、顧客のAI開発やDX変革を伴走型で支援するソリューションなどを一気通貫サービスとして提供している。10月22日には伴走型支援の一環としてマツダE&Tと工場設備監視アプリの開発をリリースした。25年5月期は先行投資等の影響で小幅営業・経常増益にとどまるが、売上面はM&Aも寄与して高成長を継続する見込みとしている。第1四半期は2桁増収と順調だった。中長期的に同社を取り巻く事業環境は良好であり、積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は安値圏でモミ合う形だが底固め完了感を強めている。出直りを期待したい。
■東大発のAIスタートアップ
同社は「先端技術を、経済実装する。」をミッションに掲げ、AI開発支援を中心に人材育成からコンサルティングまで提供する東大発のAIスタートアップ(14年6月設立、23年6月東証グロースに新規上場)である。AIをはじめとする新たなソフトウェア技術を、いち早くビジネスの現場にインストールすることで、次世代の産業創出を加速させることを目指している。
M&A関連では24年1月にWebクリエイティブ事業やWebアプリケーション構築事業を展開するファクトリアルを子会社化、24年6月にWEBサイト構築・運用等を展開するまぼろしを子会社化した。資本業務提携としては20年1月にダイキン工業<6367>、テクノプロ・ホールディングス<6028>の子会社テクノプロ、21年6月に古河電気工業<5801>、22年12月に日本ゼオン<4205>と、それぞれ資本業務提携している。
■AI/DX内製化支援のプロダクトやソリューションを一気通貫で提供
同社は、単にAIが絡むシステムの受託開発や研修を請け負うのではなく、AI/DX内製化をユーザー主導で実現するために必要なツールを提供するという基本方針のもと、企業変革の基盤となるDXの推進およびAI/DXの内製化を支援する各種プロダクトやソリューションを、相互シナジーが期待できる一気通貫サービスとして提供している。
サービス区分は、企業がデジタル変革に向けて必要とするAI/DX人材の育成を支援するAI/DXプロダクト、顧客のAI開発やDX変革を伴走型で支援するAI/DXソリューション、個人向けにAI/DXラーニングサービスを提供するAI/DXリスキリングとしている。
AI/DXプロダクトでは、オンラインAI/DXラーニング「Aidemy Business(アイデミー ビジネス)」、講師派遣型でAI/DX人材育成研修を行う「Aidemy Practice(アイデミー プラクティス)」、GX/カーボンニュートラルの概要・全体像を効率よく学べるオンラインGX人材育成コンテンツ「Aidemy GX」を提供している。収益モデルはライセンス数・人数に応じて売上計上するリカーリング型である。AI/DXラーニング「Aidemy Business」の学習コンテンツ数は24年4月時点で230コース以上となっている。
AI/DXソリューションはAI/DX開発の内製化に向けた伴走型支援サービス「Modeloy(モデロイ)」を提供している。経験豊富な同社のプロフェショナル(エンジニア・データサイエンティスト)が顧客企業のメンバーとともに、課題選定から開発・運用までのプロジェクトを推進し、AI開発やDX推進を支援する。24年1月には子会社化したファクトリアルが加わり、デリバリー能力を増強(デリバリー人員が従来の13人から39人に増加)した。収益モデルはプロジェクトごとのフロー型である。
AI/DXリスキリングは、個人向けのオンラインDXラーニングサービス「Aidemy Premium(アイデミー プレミアム)」を提供している。24年3月にはオンラインGX人材育成コンテンツ「Aidemy GX」の個人向け提供も開始した。
■先端技術に関する知見が強み
同社はAIをはじめとする先端技術に関する知見を強みとしている。AIに関する知見を有する経験豊富なデータサイエンティストが多数在籍し、相互シナジーが期待できる一気通貫サービスを提供していることに加え、M&Aやアライアンスも活用しながら、生成AIやMaterials Informatics(化学分野でのAI活用)などの最新AI技術を横展開することで、従来型のAI/DXベンダーとの競合差別化を図っている。
■先端技術のサービスラインナップ拡充とクロスセル拡大を推進
成長戦略として、生成AI関連などの先端技術テーマを軸にしたプロダクトの新規開発、業界別ソリューションの充実や横展開、サービスラインナップの拡充、クロスセルによる売上拡大などを推進している。単にプロダクトを提供するだけでなく、教育研修分野の顧客(受講生)と共創してAI開発を行うなど、AI/DXプロダクトの顧客にAI/DXソリューションをクロスセルすることにより、業種業界をまたいだ売上拡大を図ることが可能になる。そして24年5月期まではM&Aを含めて人材の確保や組織体制の構築に注力してきたが、25年5月期以降の飛躍期に向けた準備が整ったとしている。
23年7月にはMaterials Informatics領域の新サービスとして、データ活用プラットフォーム「Lab Bank(ラボバンク)」の提供を開始した。既存サービスとも連動して一気通貫の支援体制を充実させることにより、研究員の生産性向上やデータ活用促進など研究開発分野におけるDX推進に貢献する。
24年3月にはデジタルスキルを可視化するアセスメントサービスとして、個人・企業の両者の分析につながる新サービス「DPAS(Digital Professional Assessment Service)」の提供を開始した。
24年4月には、法人向けの「Aidemy Business」および個人向けの「Aidemy Premium」の新機能として、パーソナルAIアシスタント「My Aide(マイエイド)」を発表した。同社は技術戦略の柱にLLM(大規模言語モデル)を据えて生成AIへの投資を加速させる方針を掲げており、23年12月よりを10法人に試験的に提供した後、いくつかの機能改修を経て正式にリリースした。今後もLLMを用いて、受講者の学習支援や管理者の学習管理業務の効率化につながる機能を「Aidemy」のプラットフォーム上に順次実装予定としているほか、LLMを応用した新規事業の立ち上げも目指す方針としている。
24年5月には、NVIDIAのAIスタートアップ支援プログラム「NVIDIA Inception Program」のパートナー企業に認定された。本プログラムを活用し、生成AI領域の新プロダクト開発など生成AI領域に注力する。
24年9月には、GXと生成AIを掛け合わせたSaaSの新プロダクトを25年初頭にローンチすると発表した。またベイズ最適化を活用した逆推算アプリケーション「AI材料開発クラウド」をリリースした。Materials Informatics(MI)の活用により材料組成を迅速かつ効率的に予測し、実験回数を大幅に削減する。
10月11日には、LLMが生成する出力結果の品質を評価・管理する新しいクラウドサービス「LLM品質管理クラウド」のリリースを決定した。企業や組織がRAG(Retrieval―Augmented Generation)システムに代表されるLLMを活用したシステムを、より安心して活用できる環境を提供する。
■M&A・アライアンスも活用
新プロダクト開発や売上拡大に向けて、M&A・アライアンスも積極活用する方針としている。M&Aのターゲットとしては、AI/DXソリューションの「Modeloy」のデリバリーパートナーになり得る開発会社(WEB制作会社など)や、エンタープライズ向けプロダクトを保有する会社を想定している。
生成AIに特化したソリューションを提供する東大松尾研究スタートアップであるneoAIと協業し、生成AI領域における学習コンテンツ開発やセミナー開催などで連携しているほか、23年12月には、オファー型転職サイトを運営するpaceboxとデジタル人材へのリスキリングと転職支援において業務提携を開始、企業の脱炭素推進活動をサポートすることを目的としてエナリス(auエネルギーホールディングスの子会社)との協業を開始した。
24年2月には、プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステムとの連携を開始した。24年3月には、デロイト トーマツ グループのデロイト トーマツ コンサルティング合同会社とアライアンス締結に合意した。デジタル人材育成におけるクライアント課題解決能力の向上、相互の顧客ネットワークを活用したビジネス展開などを協力して推進する。
24年5月には、学研ホールディングスのグループ会社でオープン研修「Tomorrow」などを展開するTOASUと、AI/DX人材養成の体制拡充に向けて提携した。TOASUが「Aidemy Business」および「DPAS」の販売店となる。24年6月には企業向け研修サービスを提供するサーカスと協業開始した。オンラインゲームを活用したGX研修を共同で実施する。24年7月にはMakeDなどとともに、カーボンニュートラル実現に向けて必要となる人材の課題に対応するグリーン人材開発協議会を設立した。
■日本を代表する大企業との取引が中心で強固な顧客基盤
24年5月期のサービス別売上高は、法人向けのAI/DXプロダクト事業が12億83百万円、AI/DXソリューション事業が5億43百万円、個人向けのAI/DXリスキリング事業が2億92百万円だった。24年5月期末時点の長期継続顧客数(12ヶ月以上の契約顧客数)は前期末比26社増加の144社で、長期継続顧客比率は85%となった。AI/DXプロダクト事業は法人との取引機会創出により高成長を継続した。AI/DXソリューション事業はデジタル変革伴走型支援ニーズの高まりによって案件単価が向上し、収益性も向上した。個人向けのAI/DXリスキリング事業は需要が堅調に推移した。なお24年5月には「Aidemy」の累計ユーザー数が30万人を突破した。
資本業務提携しているダイキン工業、テクノプロ、古河電気工業、日本ゼオンのほか、本田技研工業、キヤノン、大日本印刷、冨士フィルム、大塚ホールディングス、大和証券グループ本社、住友商事など、AI/DXの内製化に取り組む日本を代表する大企業との取引が中心となっており、強固な顧客基盤を構築している。24年5月にはキリンホールディングス向けに「Aidemy Business」の提供を開始した。
資本業務提携先のダイキン工業とは「Aidemy Business」導入後、アカウント増加や「Modeloy」へのクロスセルに進み、今後も共同プロジェクトの実施を計画している。日本ゼオンとはデジタル人材育成を起点として、材料開発に関するMaterials Informatics領域での協業に進み、今後は共同開発したプロダクトの素材メーカーへの外販なども計画している。古河電気工業とは「Aidemy Business」の全社展開や「Modeloy」による工場内システム内製化支援のほか、MI領域での基礎モデルを共同開発中である。
10月22日には伴走型支援サービス「Modeloy」の一環として、マツダE&Tと工場設備監視アプリの開発をリリースした。
■25年5月期1Q減益だが計画水準、通期予想据え置き
25年5月期の連結業績予想は売上高が24年5月期比27.4%増の27億円、営業利益が1.9%増の3億円、経常利益が2.3%増の2億97百万円、親会社株主帰属当期純利益が法人税等の増加で24.0%減の1億63百万円、EBITDAが23.8%増の4億06百万円としている。
第1四半期は売上高が5億27百万円、営業利益が27百万円の損失、経常利益が28百万円の損失、親会社株主帰属四半期純利益が36百万円の損失、EBITDA(営業利益+償却費+のれん償却費+株式関連取得費用)が15百万円だった。
24年5月期第3四半期から連結決算に移行(ファクトリアルを子会社化して第4四半期からPL連結開始)したため、前年同期の単体業績との比較で見ると、売上高は55百万円(11.7%)増収、営業利益は87百万円減益、経常利益は85百万円減益、親会社株主帰属四半期純利益は98百万円減益、EBITDAは49百万円減益だった。成長投資合計75百万円(人材採用費用32百万円、24年6月に子会社化したまぼろし社の株式取得費用28百万円、大規模マーケティングイベント費用15百万円)の影響で減益だった。ただし期初時点で第1四半期は成長投資の影響で営業損失の計画であり、概ね計画水準だった。売上面は2桁増収と順調に推移し、成長投資を除く営業利益は48百万円だった。
サービス別売上高は、法人向けAI/DXプロダクト事業が5.8%増の3億08百万円、AI/DXソリューション事業が24.1%増の1億44百万円、個人向けAI/DXリスキリング事業が17.5%増の74百万円だった。一部に受注の期ズレがあったものの全サービスが増収と順調だった。期末時点の長期継続顧客数(12ヶ月以上の契約顧客数)は前期末比12社減の132社となった。AI/デジタル教育が一巡して契約終了した企業が一定数発生した。
通期の連結業績予想は据え置いている。利益面は成長投資等の影響で小幅営業・経常増益にとどまるが、売上面はAI/DXソリューション事業の拡大が牽引し、さらにM&A効果(前期第4四半期からPLを連結したファクトリアルの通期寄与、および24年6月に子会社化したまぼろしの新規連結)も寄与して高成長を継続する見込みだ。基本方針として、M&Aも積極活用しながらAI/DXソリューション事業を中心に売上高拡大を優先するとともに、中期成長を支える組織体制の強化および技術投資を継続する。
なお四半期別の計画としては、第1四半期は成長投資の影響で営業損失だが、第2四半期以降の営業利益は増収効果や一時的費用の一巡により回復に向かう見込みとしている。企業におけるAI/DX人材育成ニーズが一段と高まるなど、中長期的に同社を取り巻く事業環境は良好であり、積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。
■株価は底固め完了
株価は安値圏でモミ合う形だが、一方では大きく下押す動きが見られず底固め完了感を強めている。出直りを期待したい。10月22日の終値は1026円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS41円22銭で算出)は約25倍、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS294円21銭で算出)は約3.5倍、そして時価総額は約41億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)