[日本インタビュ新聞社] - ■日銀は追加利上げを見送り
日本銀行は12月金融政策決定会合(18,19日)での政策金利引き上げを見送る推移となっている。日銀としては、政策金利(現状0・25%)の追加利上げを進める意向だったとみられる。しかし、トランプ次期大統領の関税政策などで米国経済の先行きに不透明感が強まっている。「トランプ2.0」を見極めるという判断となっている。
米国のほうは、FRB(米連邦準備制度理事会)が17,18日のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利の追加利下げを行った。0・25%の利下げを決定し政策金利は4・25~4・50%になる。新年の利下げ回数は9月時点の年4回から年2回に減速を見込んでいる。
米国の11月雇用は、前月落ち込んだ非農業部門雇用者数が22・7万人と急改善。失業率4・2%(前月4・1%)と横ばい。平均時給は前月比0・4%増(前年同月比4・0%増)となっている。消費者物価は前月比0・3%増だが、前年同月比では2・7%増。
米国の景気は堅調であり、インフレは克服できたとは言えないが大枠で鈍化傾向に入っている。そのうえで雇用の改善傾向を維持したい。ただ、新年はトランプ次期大統領の政策「トランプ2.0」が発動される。FRBとしても予測不能の面があるだけに慎重な方針を採らざるを得なかったとみられる。
■トランプ次期大統領は就任当日から「関税戦争」開始か
トランプ次期大統領は、新年1月20日の就任当日にメキシコ、カナダからの輸入に25%関税、中国からの輸入に10%の追加関税を課すと表明している。
メキシコ、カナダに対する25%関税は、麻薬(フェンタニル)、そして不法移民の米国流入が止まるまで実施する。中国への10%追加関税は、メキシコ、カナダで合成されて持ち込まれている麻薬原材料が中国でつくられていることを理由としている。中国は麻薬原材料の取り締まりを行っていないとしている。
米国自動車・同部品産業は、米国、メキシコ、カナダの3カ国に集積している。GM、フォードなどがピックアップトラック他の車種をメキシコ、カナダで製造。自動車部品もメキシコ、カナダで製造している。「USMCA」(米国・メキシコ・カナダ協定=2020年発効)を活用して3カ国にまたがって無関税のサプライチェーンが形成されている。仮に25%関税が開始されたら「USMCA」は解体・消滅に等しいことになる。
■トランプ大統領は輸入、とりわけ貿易赤字が嫌い
中国についてはトランプ大統領1期目に鉄鋼・アルミを皮切りにほぼ70%の製品に7・5~25%関税を課している。バイデン大統領はそれを継続し、中国製電気自動車(EV)などには100%関税を追加している。トランプ次期大統領はそれらに10%の関税を上乗せする。デフレに陥っている中国にはさらに痛手になる。
ちなみに米国の貿易ではメキシコ、カナダ、中国がEUを除く国別ではトップ3。対米輸出では、長らく中国が断トツの地位を占めてきた。だが、中国は高関税の打撃を受けて23年対米輸出で20%減(4279億ドル)と大幅低落。それを尻目にメキシコが対米輸出ではトップになり、2位にはカナダが浮上している。「USMCA」の恩恵を生かしてメキシコ、カナダが中国を追い抜いている。
米国の貿易収支赤字では、中国、メキシコ、カナダの順位になる。中国による貿易収支赤字は大幅縮小してきているが、依然としてトップ。トランプ次期大統領は輸入、とりわけ貿易赤字を嫌っている。「偉大なアメリカ」を目指しており、米国が貿易収支赤字国である現実は認められない。輸入、とりわけ貿易赤字を問題視している。
■1国主義の自足経済で繁栄は目指せない
麻薬、不法移民流入と関税賦課はまったく異なる筋の問題にみえるが、トランプ次期大統領においてはそれが繋がっている。あくまでトランプ流ディール手法の脅しなのか、あるいは本気なのか。不透明感がきわめて強く、落としどころはみえない。
最悪のケース、「タリフマン」(関税男)を自負するトランプ次期大統領は、「関税戦争」を開始するとみておく必要がある。アメリカという巨大市場を関税という砦で囲い込む。最悪ではまるで「大恐慌時代」のような保護主義の「関税戦争」が世界を覆うことになりかねない。
この調子であらゆる輸入品に関税を課し続けるとすれば、米国経済はインフレに見舞われる。FRBは利下げを行ったが、金利はむしろ上昇気配となっている。インフレがぶり返すといった先読みによる懸念が意識されている。為替はドル高となり、円は1ドル154円台推移となっている。
トランプ次期大統領による高関税が実行されれば、近隣窮乏化=失業の輸出であり、自国の繁栄のみにフォーカスしたものになる。メキシコ、カナダという近隣を巻き込んだ繁栄すらも考慮しない。関税によって製造拠点が米国に戻り、「グローバリズム」により喪失した米国勤労者層の雇用が復活するといったところしか見ていない。「反グローバリズム」が到達した極致は「関税戦争」ということになりかねない。
それがトランプ次期大統領の描いている「トランプ2.0」の帰結となる可能性がある。だが、1国主義の自足経済で繁栄を目指すというのは無謀過ぎる試みにしかみえない。。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)