[日本インタビュ新聞社] - JSP<7942>(東証プライム)は発泡プラスチック製品の大手である。成長ドライバーとして自動車部品用ピーブロックなどの拡販を推進するとともに、製品ライフサイクル全体における環境負荷軽減に貢献する製品や製造技術の開発など、サステナビリティ経営の推進も強化している。24年3月期は需要が堅調に推移し、製品価格改定の進展も寄与して大幅増益予想としている。積極的な事業展開で収益改善基調だろう。株価は上げ一服の形となったが年初来高値圏だ。1倍割れの低PBRも評価材料であり、利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。なお7月31日に24年3月期第1四半期決算発表を予定している。
■発泡プラスチック製品の大手
発泡プラスチック製品の大手で、押出発泡技術をベースとするポリスチレン・ポリエチレン・ポリプロピレンシートなどの押出事業(産業用包装材、食品用包装材、広告用ディスプレイ材、住宅用断熱材など)、ビーズ発泡技術をベースとする発泡ポリプロピレン・発泡ポリエチレン・発泡性ポリスチレン製品などのビーズ事業(自動車衝撃緩衝材、家電製品緩衝材、IT製品輸送用通い函など)、その他(一般包材など)を展開している。
22年1月には、新規事業創出を目的としてフランスの子会社がイタリアのGHEPI社に出資(株式35%取得)した。射出成形市場に参入し、発泡技術と射出技術の複合化で技術優位性を構築して事業拡大を推進する方針だ。
収益は販売数量、為替、原油価格、原料価格と販売価格の差であるスプレッド、プロダクトミックスなどが影響する。23年3月期のセグメント別業績は押出事業の売上高(外部顧客への売上高)が8.6%増の424億43百万円で営業利益(全社費用等調整前)が36.5%減の17億67百万円、ビーズ事業の売上高が20.8%増の827億61百万円で営業利益が22.2%減の20億38百万円、その他の売上高が0.4%減の65億08百万円で営業利益が21.5%減の1億66百万円だった。
■長期ビジョン
長期ビジョン「VISION2027」では目標値に28年3月期売上高1800億円、営業利益180億円、営業利益率10%を掲げている。
長期ビジョン達成に向けた3ヶ年中期経営計画(21年度~23年度)では、変革戦略を基本方針として、循環性の高いビジネスモデルへのシフト、組織の活性化・効率化を推進する。4つの成長エンジンについては23年度に19年度比で、自動車部品の販売数量23%増、建築住宅断熱材の販売数量12%増、FPD関連保護材の販売数量20%増、新たな事業領域の売上高30億円の達成を目指す。3年間の設備投資額は235億円の計画としている。
■自動車部品用ピーブロックなど環境に貢献する新製品を拡販
自動車部品用発泡ポリプロピレンのピーブロック(英名ARPRO)は、自動車メーカーの軽量化要求に対応する製品として、自動車シートコア材や自動車バンパー芯材としての採用が拡大している。SDGsへの取り組みとして自動車メーカーからはリサイクル原料使用の要求が強く、原料にリサイクルポリプロピレンを用いたARPRO REの採用が拡大している。さらにピーブロックの高付加価値グレード版として、GHG排出削減を実現するピーブロックLC(LCはローカーボンの略)も開発し、国内自動車メーカーのバンパー芯材に採用された。EV用部材、住宅用空気清浄システム構造部材、水力発電所の発電機の発熱を遮断する断熱材などにも採用が広がっており、中期成長ドライバーとして期待される。
省エネ基準適合義務化対象拡大で需要拡大している「ミラフォーム」については、関西工場(兵庫県たつの市)の隣接地に新工場が完成(19年1月)して東西2大生産拠点体制を構築している。
22年11月には、梱包資材用途ミラブロック(発泡ポリエチレンビーズ成形品)シリーズの新製品として、バイオマス原料を配合したミラブロック-Bioの販売を開始した。植物由来のバイオマスポリエチレンを25.0重量%以上配合するため、日本バイオプラスチック協会のバイオマスプラシンボルマークの認定を受けた。従来品ミラブロック-Eをミラブロック-Bioに切り替えることにより、環境負荷軽減や気候変動緩和に貢献できる製品として、サステナブルな社会づくりに貢献する。
さらに、冷凍用途から電子レンジ対応でリサイクル性に優れた高性能食品容器用シートのPパールFや、アウトドア等に手軽に持ち運べるクッション用途として採用されたARGILIX、老朽化した橋梁の補強・改修に適したフォームサポート工法など、新製品の開発・拡販を推進している。
■サステナビリティ経営やコーポレート・ガバナンスを強化
製品ライフサイクル全体における環境負荷軽減に貢献する製品や製造技術の開発などサステナビリティ経営の推進も強化するとともに、コーポレート・ガバナンスも強化している。
21年4月にはサステナビリティ推進室を新設し、21年12月にはホームページに「JSPのサステナビリティ経営とマテリアリティ」を掲載した。同社の発泡技術を活用して、経済価値だけでなく、顧客や社会の課題解決などの社会的価値へと、提供価値の拡大を推進する方針だ。
21年12月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同を表明し、22年7月にはTCFD提言に基づく情報開示(詳細は会社HP参照)を行っている。
22年4月にはガバナンス特別委員会を設置した。親会社である三菱瓦斯化学<4182>およびその子会社との取引において、公正性・透明性・客観性を確保することで少数株主の利益を適切に保護し、コーポレート・ガバナンスの充実を図る。
22年12月には、サプライチェーン全体で持続可能な調達活動を推進するために「JSPグループ調達基本方針」の策定、および「パートナーシップ構築宣言」「ホワイト物流推進運動の自主行動宣言」をリリースした。
■24年3月期大幅増益予想で収益改善基調
24年3月期の連結業績予想は、売上高が23年3月期比2.5%増の1350億円、営業利益が62.4%増の48億円、経常利益が48.7%増の50億円、親会社株主帰属当期純利益が34.3%増の34億円としている。配当予想は23年3月期と同額の50円(第2四半期末25円、期末25円)としている。予想配当性向は43.8%となる。
需要の緩やかな回復基調を見込み、原材料価格、ユーティリティコスト、物流コストなどの上昇に対する製品価格改定やコスト削減に取り組む方針だ。セグメント別の想定として、押出事業は販売増加で増収だが固定費増加で営業利益横ばい、ビーズ事業は「ピーブロック」の販売回復や製品価格改定などで増収増益、その他は概ね23年3月期並みとしている。
営業利益前期比18億44百万円増益の要因分析は、数量増加(EPP、保冷車用断熱材、土木資材などの販売増加)に伴う限界利益増加で+13億02百万円、販売単価改善で+3億43百万円、変動費単価下落(原油価格・原材料価格の下落)で+32億44百万円、固定費増加(主に人件費増加)で▲29億87百万円、為替要因等で▲57百万円としている。
セグメント別には、押出事業の売上高が3.0%増の437億円で営業利益(全社費用等調整前)が1.9%増の18億円、ビーズ事業の売上高が2.7%増の850億円で営業利益が96.2%増の40億円、その他の売上高が3.2%減の63億円で営業利益が40.1%減の1億円の計画としている。
押出事業は販売数量増加などで増収だが、固定費の増加で営業利益は前期並みとしている。分野別には、食品容用「スチレンペーパー」を中心とする生活資材製品は環境対応型製品の投入も寄与して堅調見込み、産業資材製品ではフラットパネルディスプレイ用「ミラマット」が後半に回復して堅調見込み、住宅用断熱材・土木資材分野は「ミラフォーム」の住宅用が消費マインド冷え込みの影響を受けるが、保冷車用や土木分野が好調見込みとしている。ビーズ事業は主力の「ピーブロック」の自動車分野が回復し、販売数量増加と製品価格改定による収益性改善を見込んでいる。
24年3月期は、想定以上の原材料価格高騰のため中期経営計画(21年度~23年度)で掲げた営業利益目標が未達になる見込みだが、23年3月期比では需要が堅調に推移して増収、製品価格改定の進展も寄与して大幅増益予想としている。積極的な事業展開で収益改善基調だろう。
■株主優待制度は毎年3月末対象
株主優待制度は、毎年3月31日時点の1単元(100株)以上保有株主を対象として、一律3000円相当の社会貢献寄付金附きオリジナルクオカードを贈呈(詳細は会社HP参照)している。
■株価は上値試す
株価は上げ一服の形となったが年初来高値圏だ。1倍割れの低PBRも評価材料であり、利益確定売りをこなしながら上値を試す展開を期待したい。7月14日の終値は1835円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS114円06銭で算出)は約16倍、今期予想配当利回り(会社予想の50円で算出)は約2.7%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS3076円73銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約576億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)