Sinead Cruise Carolyn Cohn
[ロンドン 5日 ロイター] - 英金融大手は、給与水準の高い役職での女性の採用数を増やす取り組みを進めているとしている。しかし、女性従業員に支払う賃金は男性よりも平均で28.8%少ないことが、ロイターが確認した21社の給与データから判明した。
英国の銀行や資産運用会社、保険会社は、長年の男女間の賃金格差解消に取り組むことを約束している。金融機関側は格差の主な要因として、十分な賞与(ボーナス)を得られる上級職の大半を男性が占める一方、多数の女性が低賃金やパートタイムでの雇用、賞与が少ない、もしくは無い役職に就いていることを挙げている。
賃金データに基づくロイターの計算によると、英大手金融サービスにおける格差は前年比2パーセントポイント縮小した。それでも、政府の調査結果に基づく2023年の全産業での平均値10.7%は大幅に上回ったままだ。
英国では17年以降、250人以上の従業員を抱える企業に対し、給与やボーナスの男女差に関するデータを開示することが義務付けられている。23年4月分の開示期限は今月4日だった。
金融大手の多くが、幹部職における女性人材の採用や雇用維持に苦戦しており、業界の賃金格差縮小を妨げる要因にもなっている。また、一部では全く改善が見られていないケースもあるという。
米ゴールドマン・サックスのロンドンにある国際部門では、22年に53.2%だった男女の平均賃金格差が23年は54%に拡大。ロイターが確認した主要金融企業21社の中で差が最も大きく開いたままだった。
ゴールドマンの広報担当者は、「この男女間賃金格差リポートが同程度の役職や在職期間での給与を全く考慮していない、という点は重視すべきだ。ただ、企業内で最上級職レベルに就く女性の数を増やすためには、さらなる対策を講じる必要があると感じている」と述べた。
今回確認した21社の中で最も格差が小さかったのは英自動車保険アドミラル・グループで、23年の平均賃金格差は13.5%だった。
<進まない格差是正>
なかなか進まない格差の是正には、疑問の声も上がっている。
「金融セクターの雇用主は、なぜ女性が最上級職に届かないのか、なぜそうした役職に見合う給料が得られないのか、という難しい課題に向き合わなくてはならない」とチャータード・マネジメント・インスティテュート(CMI)のアン・フランケ最高経営責任者(CEO)はロイターの取材で述べた。
英HSBCホールディングス は、2023年の英法人全体における男女間の平均賃金格差が43.2%だったと発表。22年は45.2%だった。
同行従業員のうち半数以上は女性で、その62%は下級職に就いているという。上級管理職全体では23年4月5日時点で3分の1以下が女性で、前年からは1.4パーセントポイント上昇した。
米モルガン・スタンレーの英法人での平均格差は40.8%から40.1%に縮小した。英バークレイズは23年、2.3パーセントポイント減少し、33.6%となった。
米JPモルガンは1.5パーセントポイント低下の26.1%と発表した。同行の上級職に占める女性の割合は24年2月時点で29.5%で、18年以来で最も多い水準だという。
英銀スタンダード・チャータード(スタンチャート)では、22年に29%だった平均賃金格差が翌年には22%に縮小。ロイターが確認した銀行の中では縮小率を示すパーセントポイントが最高だった。
アジア事業に注力するスタンチャートは、2016年12月に25%だった女性管理職の割合が23年12月末時点で32.5%にまで増えたと報告した。
英保険会社・資産運用部門では、保険会社のアビバが23年、前年の24.3%から21.3%に賃金格差が減少したと発表。投資顧問会社アバディーンは前年比3.9パーセントポイント減の24.8%に縮小したという。一方、資産運用会社リーガル&ジェネラルでは22年の20.9%から21.3%に差が拡大する結果となった。
<「チャイルドペナルティー」>
男女賃金格差を報告したすべての企業が、管理職への女性登用の低さが格差に反映されていると分析し、なんらかの対策を講じていると説明した。
英政府は2016年3月、金融サービス業界における上級職のジェンダーバランス改善を促進するため、財務省が「金融女性憲章」を公表した。
この憲章は現在、400以上の企業・団体が署名しており、130万人以上の労働者が対象だ。
英独立系シンクタンクのニュー・フィナンシャルが3月に公開した年間報告書は、憲章に署名した企業の女性管理職が23年は35%と、前年から1パーセントポイント増加したとしている。
同報告書は、この増加ペースが続けば、憲章に署名した企業や団体における管理職の男女数の平均値は2038年に等しくなるとの予測を示した。ただし、全てのセクターで実現するとは限らないという。
英財政研究所(IFS)は、母親になると女性の給与平均が急激に減少する傾向にあり、子どもを持つことで生まれる社会的・経済的な代償、いわゆる「チャイルドペナルティー(母親ペナルティー)」が同国の男女間賃金格差の大部分で反映されていると指摘した。
IFSによると、第一子の誕生から7年後の女性の給与は平均して男性の半分になるという。
CMIのフランケ氏は、賃金格差解消の取り組みに遅れやむらがある企業は、罰金や政府・公共セクターでの事業の制限、企業名などの公表といった、より大きな結果を負うべきだと指摘する。
「経営陣を含め、あらゆる役職で多様性のある企業は、より良い決定を下し、より良い結果を出すことができるというエビデンスがある」とフランケ氏は言う。
「それだけでも、男女間の賃金格差を埋めるために必要な変化をうながすモチベーションとしては十分だろう」
ロイターは前出の各企業のほか、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ドイツ銀行、ロイズ、ネーションワイド、ナットウエスト、UBS、M&G、フェニックス、シュローダー・インベストメント・マネジメント、セント・ジェームス・プレイスについても、男女の賃金データを確認した。