[東京 3日 ロイター] - 岩田規久男・前日銀副総裁は、ロイターとのインタビューで、日本は「本物の流動性のわな」に陥っており、これを脱却するには政府が積極的に財政出動するしかないとの見方を示した。同時に、日銀は金利が上昇しそうな場合には、国債の購入量を増やしそれを抑え込む役割が求められると指摘。コロナ禍における経済対策としても「国債を大量に発行して休業補償に充てるべきだ」と述べた。
岩田氏は、日銀が金融政策の枠組みの一つとして導入している長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)では長期金利を下げることはできるが、さらなる利下げは地銀の経営を圧迫して金融システムを不安定化させる恐れがあるため、実際には難しいとの認識を示す。
長期金利をこれ以上下げられないという意味で、経済学者ケインズが提唱した「流動性のわな」に入っており、この状況を脱するには「財政(での対応)しかない」と断言。財政を出動させれば金利が上昇し、民間の設備投資が抑制される可能性はあるものの、「金利が上昇した場合は日銀が国債をもっと買えばいい。金利が上がらずに済み、財政の効果は非常に大きい」と話す。
新型コロナウイルス対応の経済政策においては、国債を大量に発行し感染拡大で打撃を受けた事業者などへの休業補償に充てるべきだと主張。コロナが収束した後も「マイナンバーカードなどを活用して所得と紐づけした上で、低所得者にお金を配るというやり方が(経済の刺激に)ベターだ」との考えを示した。
日銀が掲げている2%の物価安定目標は早期達成が厳しいとの見方も多いが、岩田氏は、ある程度の余地がなければデフレに舞い戻ってしまうため「この目標は降ろさなくていい」と語る。国内の物価が低迷しゼロを割り込んでマイナスが定着すると、日本円にはデフレ通貨として円高圧力がかかりやすくなる。「日本の内需は弱く、消費増税後は消費が落ち込み、若年層の貯蓄率も高まった。外需に頼らざるを得ない中で円高にしてはいけない」との見方だ。
日銀による上場投資信託(ETF)購入については、株安は景気のマインド悪化につながるため、株価を下支えするという面で「そこには効いている」という。岩田氏は「株価の上昇なくしてデフレ脱却はあり得ない」とし、株価上昇を背景に企業がファイナンスし設備投資に資金を回していくことが必要とみているが、企業は依然として設備投資に慎重なのが実情だと話した。
このほど日銀の審議委員に入る見通しとなった野口旭専修大教授は、積極的な金融緩和を重視する「リフレ派」とみられており、政策委員のうち9人のうち若田部昌澄副総裁、片岡剛士審議委員、安達誠司審議委員に野口氏を加え4人がリフレ派になったとの指摘がある。リフレ派の代表的な論客である岩田氏は、「リフレ派の最後の手」は国債を大量に購入することが考えられるとしている。
岩田規久男氏は2013年3月から18年3月まで日銀副総裁を務めた。
*インタビューは2月2日、電話取材で行った。
(杉山健太郎、木原麗花 編集:田中志保)