[25日 ロイター] - サウジアラビアにある世界最大の石油精製施設がドローンとミサイルで攻撃される4カ月前、イランの安全保障当局者が、厳重に防備を固めたテヘランの施設で会合を開いていた。
出席者の中には、ミサイル開発や秘密作戦も管掌する精鋭部隊、イスラム革命防衛隊の将官も含まれていた。
5月に開かれたこの会合の主要議題は、米国をどう罰するか。画期的な核合意から離脱した米国は、経済制裁を再開し、イランに大きな打撃を与えたていた。
<「今こそ剣を抜こう」>
革命防衛隊の司令官、ホセイン・サラミ少将が見守るなか、ある上級指揮官が口を開いた。この会合の様子をよく知る4人の関係者によれば、「今こそ剣を抜いて、彼らに教訓を与えるべきときだ」。この指揮官はそう述べたという。
強硬派は、米軍基地を含む価値の高い目標を攻撃することを主張した。だが、最終的に浮上したのは、米国からの徹底反撃を招きかねない直接的な対決には至らないような計画だった。
イランは、米国の同盟国であるサウジアラビアの石油関連施設をターゲットに選んだ。イラン軍当局者は5月の会合、さらに、少なくともその後4回の会合でこの案を検討した。
ロイターは一連の会合を知る関係者3人、さらにイランの意思決定プロセスをよく知る1人の人物から情報を得た。取材を通じ、サウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコに対する9月14日の攻撃を計画する際のイラン指導部の関与が、初めて明らかになった。
4人の関係者によると、イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師は、厳しい条件付きでこの作戦を承認したという。イラン軍による民間人、米国人に対する攻撃は避けること、という条件だ。
ロイターは、イラン指導層が関与したという関係者4人の話の裏付けを取ることができなかった。革命防衛隊の報道官はコメントを拒否した。イラン政府は関与を強く否定している。
トランプ政権のある高官は、ロイターの取材で判明した事柄に対し、直接的なコメントをせず、「(イラン政府の)行動と、数十年にもわたる破壊的な攻撃やテロ支援の歴史こそが、イラン経済が低迷している原因だ」と語った。
サウジの石油施設攻撃を巡っては、イエメンの反体制勢力フーシ派が犯行声明を出している。だが、米国もサウジもこの声明を一笑に付し、先進的な攻撃手法から見て、首謀者はイランだとしている。
サウジアラビアは戦略的なターゲットだった。この国は中東地域においてイランの主要なライバルであり、世界経済にとって重要な産油国だ。米国にとっては安全保障面の重要なパートナーでもある。
だが、何千人もの民間人犠牲者を出したイエメン内戦に関与し、昨年はワシントンを拠点とするジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がサウジ工作員に殺害されたことで、米議会との関係がぎくしゃくしている。
サウジアラビアは何十億ドルもの国防費を投じているが、アラムコの施設2カ所が17分間にわたって18機のドローンと低空を飛ぶ巡航ミサイル3発によって攻撃されたことで、同社が脆弱な状態にあることが明らかになった。
この攻撃により、フライスの石油関連施設とアブカイクにある世界最大級の石油精製施設で火災が発生した。サウジの石油生産量は一時的に半減し、世界全体の供給量が5%失われた。石油価格は急騰した。
ポンペオ米国務長官はこの攻撃をイランによる「戦争行為」だと非難し、イラン政府は米国から追加制裁を受けた。米当局者によると、米国はイランに対してサイバー攻撃も行ったという。
<ターゲットの取捨選択>
イランの政策意思決定をよく知る当局者によれば、イラン軍指導部によるサウジ石油関連施設攻撃の計画は、数カ月かけて練り上げられたという。「少なくとも5回の会合を経て、細部にわたるまで徹底的に詰められ、9月早々に最終的なゴーサインが出た」と、この当局者は語る。
3人の当局者はロイターに対し、会合はすべてテヘラン南部の複合施設の内部にある安全な場所で行われたと語った。最高指導者ハメネイ師も、同じ施設内にある邸宅で行われた際、会合に出席したという。
当初、ターゲットの候補として挙がったのは、ウジアラビアの港湾、空港、米軍基地だったという。
いずれも最終的には却下された。犠牲者が多数出て、米国による激しい報復を引き起こしたり、イスラエルが大胆な姿勢を取ることで、中東が戦争状態に陥る懸念があったからだと、4人の関係者は言う。
そして最終的に、サウジアラビアの石油関連施設を攻撃する計画に落ち着いた。大きな注目が集まり、相手に経済的な苦痛を与えつつ、米国政府に強いメッセージを送ることができると判断したという。
「アラムコ(を標的にする)という合意は、ほぼ満場一致だった」と、イランの政策決定過程に詳しい当局者は言う。「このプランなら、イランが(サウジの)奥深くまで入り込み、(ダメージを与える)軍事能力を持っていると示せる」
中東の関係者によると、出撃拠点となったのはイラン南西部アフワーズの空軍基地。これはロイターの取材に応じた米国当局者3人、その他2人の人物の話とも一致する。
石油アラムコの施設を狙ったミサイルとドローンは、イランからペルシャ湾を越えて直接サウジアラビアへ飛ぶのではなく、別のルートを取ったという。自国の関与を隠蔽するためだったと、この関係者は話す。
西側の情報機関筋によれば、ミサイル、ドローンの一部はサウジアラビアに到達するまでにイラクとクウェートの上空を飛行した。そのためイランは、もっともらしく関与を否定することができたという。
イラン政府内の事情に詳しい関係者によれば、攻撃の数時間後、革命防衛隊の指揮官らはハメネイ師に攻撃成功を報告した。
<次の攻撃計画>
革命防衛隊を含め、イラン軍の各部門は最終的にハメネイ師の指揮下にある。最高指導者は、トランプ政権が昨年、イラン核合意を破棄したことに対して挑戦的な姿勢を保っている。
イランは2015年に国連安保理の常任理事国5カ国、そしてドイツと結んだ核合意により、数十億ドル規模の経済制裁が解除された。代わりにイランは、核開発プログラムを自制するという取り決めだった。
だが、トランプ大統領は、さらに有利な条件の合意を要求。イランは制裁が全面的に再開され、石油輸出が打撃を受け、国際的な銀行システムから排除される事態を避けるため、2本立ての戦略に乗り出した。
ロウハニ大統領が米当局者と会う意思を示す一方で、イラン政府は軍事的・技術的に能力を誇示するようになった。
ここ数カ月の間に、イランは米国の偵察用ドローンを撃墜し、ホルムズ海峡で英国のタンカーを拿捕した。また核開発プログラムを再開する宣言の一環として、合意で制限された範囲を超えるウラン濃縮活動を再開した。
アラムコへの攻撃は、こうした強硬姿勢をエスカレートさせたもので、トランプ大統領がかねてから表明していた中東からの米軍撤退を進めようとしていた矢先に起きた。
トランプ大統領がサウジの石油を守るのと引き換えに、中東の不安定化を招くような全面攻撃に出ることはない──イランはそう計算していたようだと、非営利組織「国際危機グループ(ICG)」のアリ・バエズ氏は指摘する。
「(イランの)強硬派は、トランプ氏がツイッターで虚勢を張っているだけだと信じるようになっている」と、バエズ氏は言う。「そうなると、(イランが)抵抗しても外交的・軍事的なコストはほとんど生じない」
イラン政府が米国の要求を受け入れるかどうかはまだ分からない。
アラムコ攻撃を決める最終段階で開かれた会議。イラン政府内の事情に詳しい関係者によれば、革命防衛隊のある指揮官の発言は、すでに攻撃後のことを見据えていたという。
「全能のアッラーは我らと共にある」。安全保障政策を担当する高官らを前に、指揮官はこう話したという。「次の攻撃を計画し始めよう」
(翻訳:エァクレーレン) 2019-11-29T230532Z_2_LYNXMPEFAR05T_RTROPTP_1_SAUDI-ARAMCO-ATTACKS-IRAN.JPG