- 強い雇用統計、ハト派に傾いたFRB、米中通商会議は株式市場を上昇させた
- リスクオンにより、米国債利回りは下落し、ドルも下落
- ドルの下落により、原油と金価格は上昇
アップル(NASDAQ:AAPL)が、中国市場での低迷をうけて売上高見通しを下方修正したことを要因に、木曜日の米国株式市場は急落した。しかし、12月に3週連続で下落していた米国株式市場は、金曜日の取引で反発した。これは10年間で最大級の上昇幅であった。
今回の株式上昇の要因としては、12月の米非農業部門雇用者数が好調であったこと、FRBが利上げ回数減を示唆したこと、米中通商協議が順調に進んでいることが考えられる。リスクオン相場によって、米国債はドルの下押し圧力となった。それに伴って、金と円は下落した。
株式市場を上昇させる短期的要因と長期的要因
米非農業部門雇用者数は前月比31万2千人増であり、堅調な米国経済を示したので、金曜日の株式市場は上昇した。今回発表された雇用統計は予想を約90%上回っていた。一方、米失業率は3.7%から3.9%に上昇した。失業率の上昇はネガティブに考えられる可能性があるが、非農業部門雇用者数は好調だったので、ポジティブな見方が強い。
しかし、最も好調だった指標は平均時給である。同指標は前年同月比3.2%増であり、10月に記録した2009年以来の最大の上げ幅に並んだ。消費者支出は米GDPの66%を占めており、経済成長のカギである。
12月の雇用統計が株価に短期的な影響を与える一方で、FRBの発言は長期的な影響を与える。市場の混乱を避けるために、ジェローム・パウエルFRB議長は利上げペースの鈍化を示唆した。パウエル議長は、中央銀行は金融政策の正常化のために「忍耐強く」対応し、利上げやバランスシートの正常化において既定路線はないと述べた。
パウエル議長は、株式市場に対して独特の見解を示しており、米国は堅調であると述べた。また、株価は未だ顕在化されていない下振れリスクを織り込んでいるとの見解を示した。パウエル議長は現在の株価の上昇に自信を示しながらも、最近の株価の下落に対し軽視している。これまでのパウエル議長は、金融引き締めや米国経済の状況に伴う市場のボラティリティに与しないとの姿勢を示してきたが、市場を「注意深く観察する」と述べている。
雇用統計の結果やパウエル議長の発言に続き、先週金曜日の第3の株価上昇要因としては、米中間での次官級の通商協議が開始される予定であることが挙げられる。一方、金曜日の中国人民銀行は、中国の景気減退や米国の関税の影響を考慮して、今年度5度目となる預金準備率の引き下げを実施した。
金曜日のS&P 500は3.43%上昇した。全てのセクターで最低でも1%は上昇していた。金利上昇にともなう住宅ローン金利の上昇により、不動産は 1.02%高でアンダーパフォームであった。テクノロジー は4.43%高、コミュニケーションサービス 4.30%高で、同指数を主導した。
週次では、通商協議と減産による原油高を受けて、エネルギー株が 4.94%高となり、同指数も1.86%高となった。それに続いて、コミュニケーションサービスは4.08%高となった。一方、不動産は0.65%安でアンダーパフォームであった。
過去2週間で同指数は3.69%高となった。テクニカル的には、200週移動平均線がサポートラインであり、同指数は200週移動平均線と100週移動平均線の間で値動きしている。今回の同指数の反発はヘッドアンドショルダートップを再テストする動きに他ならない。
金曜日のダウ平均は3.29%高であった。週次では同指数は1.6%高となり、2週間の累積では4.39%高となった。テクニカル的には、S&P500と同様に100週移動平均線がレジスタンスラインとなっている。
金曜日のナスダック総合は4.26%高となった。週次では2.34%高であり、日次と週次の両方で同指数はアウトパフォームであった。同指数も2週連続で反発しており、2週間の累積では6.41%高となった。
S&P500とダウ平均と同様に、同指数も200週移動平均線と100週移動平均線の間で取引されている。
金曜日のラッセル 2000は3.28%高となった。週次では3.18%高、2週間の累積では6.84%高であり今回の株式市場の反発の中でアウトパフォームしている。
米中貿易協議に向けた準備は順調に進んでいると考えられるので、貿易戦争激化の避難先である同指数は不調になるはずであった。テクニカル的には、同指数は200週移動平均線をかろうじて上回っている。
米国経済はピークを打ったか?利回りはフラット化
過去10年間で7番目の月間上げ幅となる今回の雇用統計を参照すると、米国経済は堅調であるが、既にピークに達している可能性が高い。過去2ヶ月の雇用統計も上方修正されており、直近の3ヶ月間で平均すると、1ヶ月あたり254000の新規雇用を生み出している。
さらに、平均時給も前月比0.4%増、前年同月比3.2%増であり、2009年以来で最速のペースである。しかし、これらは歴史的な低金利に起因しており、景気循環は後退期に入りつつある。米2年国債と米10年国債の利回りの差を示すイールドカーブはフラット化が続いており、投資家の景気後退の見通しを反映している。
テクニカル的には、既に主要な国際的な株価指数が弱気相場入りしていることを示している。米国では、ナスダックとラッセル 2000が既に弱気相場入りしている。一般的に株価指数が高値から20%下落すると弱気相場入りと見なされるが、S&P500とダウ平均はかろうじてその水準を上回っている。しかし、両指数は下降トレンドにあり、ボラティリティレベル的には既に弱気相場入りしていることを示している。
金曜日にケビン・ハセット大統領経済諮問委員会委員長は、逆イールドの発生は景気後退の兆候として考えられているが、量的金融緩和政策により長期金利を引き下げている現在には当てはまらないと述べた。この主張は理にかなっているかもしれないが、ホワイトハウスの意図が垣間見れる。先週の米10年国債は50日移動平均線が200日移動平均線を割こみ、弱気相場入りを示すデットクロスを形成した。先月に米10年国債は最高値を記録している。
ドルは97.50を上回って高値を更新できず、米国債利回りに続いて下落したドルは、4月中旬から続く上昇トレンドラインと50日移動平均線を割り込んだ。
金は上昇チャネルの上限を上放れした。金曜日のドルの下落が高値をサポートしており、レジスタンスラインとサポートラインの逆転を示している。50日移動平均線が200日移動平均線に向けて上昇しており、ゴールデンクロスを形成する可能性がある。
サウジアラビアの原油減産の見通しによって上昇してきた原油価格は、米中通商協議を開くとの中国政府の声明を受けて上昇した。また、金曜日のリスクオン相場を受けてさらに上昇した。しかし、テクニカル的には、原油価格は上放れ出来ておらず、弱気相場へ向かうだろう。