米国の対イラン制裁強化により、最大の恩恵を受けるのはサウジアラビアになるだろう。そして、一番の被害者は実のところイランではなくトランプ大統領と言えそうだ。
OPECプラスは原油供給を保証するよりむしろ、収益性に焦点を当てている。したがって、中国やインド、米国等の原油輸入国は今後、より高い輸入価格に甘んじる必要がありそうだ。
原油輸入国に向かい風
市場がリバランスの兆しを見せるまでは、ファンドマネジャーが競って高値を付けるだろう。原油消費国にとっては最悪の流れになりそうだ。
市場の方向性を変えるためには、サウジが数か月前苦心して実現した減産に対し、再び潤沢な原油供給が生まれていることを示さなくてはならない。
図:WTI原油先物
OPECプラスの協調減産により、ここ4か月半でWTI原油価格は45%上昇している。米国のガソリン価格は今年61%もの上昇を記録した。ブレント原油は38%の高値となった。
イランやベネズエラ、リビア等から供給されていた分を穴埋めするため、トランプ米大統領はOPECプラスに対し早急に減産を撤回するよう求めている。
これに対しサウジがすぐに応じることはなさそうだ。
「イラン産原油への経済制裁で供給量が減った分、サウジとOPEC諸国が補完するだろう」とトランプ大統領はツイートした。
消費者にも優しくない原油価格
サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は、米国のイラン産原油禁輸の除外措置撤廃による市場の不均衡や、原油供給量を保証するため国家をあげて尽力すると述べた。
同氏が述べたところの真意は、原油供給がOPECの操作下にあり、消費者価格は吊り上げられうるということだ。
原油市場アナリスト・エネルギー政策コンサルタントのEllen R. Wald氏は、サウジが「原油供給量を保証することで、OPECの中で自らの首を絞めるようなことはしないだろう」と述べている。
ICAPのエネルギー先物ブローカーのScott Shelton氏は、読み合いに勝つために「多くの投資家はサウジの供給能力は宣伝されているより少ないと考えている」ので、手に負えない程の原油高へ警戒するよう述べている。
イランはさほど影響を受けない見通し
米国の制裁強化に関わらず、イランは原油輸出を継続する。
昨年上半期も、制裁をかいくぐってイランは密かに輸出を行っていた。
下半期には、トランプ政権が制裁措置免除を8か国に認めた。
そして今回、8か国(中国、インド、日本、韓国、台湾、トルコ、イタリア、ギリシャ)に対する免除が撤廃されたことで、これらの国では原油供給が不安定になりそうだ。
タカ派姿勢を強めるOPECに対し、中国は不信感を募らせている。
ニューヨークタイムズが伝えたところによると、制裁免除が撤廃される8か国は、外交問題と安全を保証する同盟国であったという。
米中貿易協議を考慮すると、この撤廃で最も影響を受けるのは中国だろう。
トランプ氏の動向を窺う中国
イランは、総輸出量の半分を占める日量100万バレルの原油を中国に輸出している。
中国は、イラン産原油を全面禁輸にする米国の制裁に激しく抵抗していた。耿爽外交官は「米国による一方的な制裁に対し、中国は反対を続ける」と述べた。「中国政府は中国企業の法的権利と利益の保護を約束する」
他方、インド等諸国はトランプ大統領に直接抗議せず、苦難を甘んじて受け入れるだろう。
インド外交協議会のAmit Bhandari氏は、ロシアのニュースサイトSputnikに対して以下のように述べた。
「インドは原油輸入の別手段を有している。我々は日量400万バレルを輸入しているが、イランからの輸入量は総輸入量の10%に満たない。この10%足らずを埋めるために高値を払うつもりはない。代わりに、原油価格上昇が総輸入を穴埋めするだろう」
米国民失望 トランプ氏痛手
一方、来年の再選を目指すトランプ大統領にとっても、原油や燃料価格の高騰が大きく影響するだろう。
サウジと米国は数十年にわたり、イランが中東で猛威を振るうのを牽制してきた歴史がある。これには双方それぞれの思惑がある。
サウジにとっては、長年敵対してきたOPECの主要メンバーであるイランに対して、米国の後ろ盾を利用する狙いがあると言えるだろう。
トランプ大統領にとっては、オバマ前大統領に対し、核計画を黙認する代わりに原油輸出を約束するなど、不当な取引をしていたロウハニ政権を糾弾するのが目的である。
しかし、原油価格を押し下げて再選を狙うトランプ大統領にとって、この目的は今のところ二の次であると言えそうだ。