逆イールドについて基礎的な理解をしている人は多い。
多くの方がこの動きが普通ではない事態だと理解しているため、経済にとって悪い報せだという内容のニュースが各社一面を飾る。将来の金利低下が予想される状況だと投資家は債券を購入するにあたり10年間より2年間の方により高い利回りを求めるようになるため、長期金利が短期金利を下回り逆イールドが発生するというメカニズムまでおおよそ把握している。
米国・英国での逆イールド発生により、14日の金融市場は大荒れであった。ダウ平均株価は約800ポイント下落し、資金は安全資産に流入した。金価格は上昇し、原油価格は急落するなど、市場はリスク回避の動きとなった。
逆イールドは大恐慌を含む過去7回の景気後退の正確なシグナルとなっていたため、投資家の不安は増大している。
しかし理解しておくべきなのは、景気後退の前には必ず逆イールドが発生していたものの、その逆はほぼ無いという事だろう。偽陽性であるケースも非常に多く、FOMCメンバーの多くがイールドカーブの形状の重要性については懐疑的な意見をしばしば発している。
また同メンバーらは、中央銀行による買い付けに影響されるタームプレミアムの低下等、経済の将来見通し以外のファクターによるイールドカーブへの影響も大きいと指摘している。
中央銀行による活動はイールドカーブの経済活動指標としての正確性を損なう可能性がある。今回は2007~2008年以来初となる逆イールドでもあり、プレミアムが低下している際には、景気後退リスクが高まっていなくても、逆イールドはより頻繁に発生する。
とは言ったものの、注意は必要だ。
世界経済が好調で見通しも明るければ、逆イールドは簡単に見過ごすことができたものの、今回のケースは異なる。
逆イールド発生のかなり前から、世界各国の中央銀行は経済成長の減速を認識していた。インフレ増大と経済活動活性化のため緩和的金融政策に依存し、FRBやECB等の主要な中央銀行による追加的緩和も数カ月以内に予測されていた。
米中貿易戦争の激化、香港におけるデモ、イタリアの政治的混乱等、市場参加者にとって不安材料に事欠かない状況となっている。多くの国が一斉に景気後退に突入するわけでないとしても、これらの問題の何れかによってどこかが景気後退に突入する可能性がある。なので逆イールドの持続性に関わらず、今回のサイクルにおける景気後退リスクは、過去最大と言える。
消費者にとっては、借入金利は低下するものの、株式投資による損失は拡大しうる。
投資家にとっては、資金が株式から債券に流入し、ダウ・S&P 500等の更なる下落に繋がる。
FXトレーダーにとっては、米ドル/日本円・NZドル/日本円などのリスクアペタイトに最も敏感なペアは損失を被り得るため、真の勝者は日本円・スイスフランや一定程度ユーロなどに投資を続けるのではないだろうか。
今週初めに言った通り、現在リスクアペタイトと衝撃的なニュース以外に市場を左右するものはない。
ユーロ圏GDPが予想をわずかに上回ったにも関わらず、ユーロ/米ドルは下落した。
一方、予想を上回るインフレ率にも関わらず英ポンド/米ドルは変動を見せなかった。英国・米国の小売売上高も発表され、7月の賃金は上昇したものの、小売売上高はFRBの利下げ期待及び景気後退観測に影響を与えることはなさそうだ。