7月のアメリカ企業は好調だったようです。ISMが集計した景気アンケートを見る限り、全体的に景気が上向いている様子が見えています。
しかし、企業は新型コロナウイルスをまだまだ警戒しているのか、またはこの不況を利用してコストカットを進めるしたたかな作戦を実行しているのか、雇用の伸びがかなり鈍いデータもいくつか発表されています。
失業率は高い水準でしばらく続けば、普通なら今後は消費も弱まって企業の景気も悪くなるはずと考えそうですが、2020年は少し様子が違いそうです。
雇用環境が悪化すればFRBも米政府も景気や個人のお財布を支える政策を強化させる雰囲気があるので、失業率が高いにも関わらず企業はそこそこ好調で、世の中にはドルがあふれる影響で株・金・債権などあらゆる資産が上昇する奇妙な構図が続きそうな気配があります。
この記事のポイント
- 6-7月で企業の景気は上向いたが、景気が良くても米国企業は雇用拡大にかなり慎重な姿勢が見られる。失業率が高い水準が当面続く可能性がある。
- このままでは経済の7割を占める個人消費に影響が出てくる可能性が高いので、政府もFRBも景気刺激策・緩和策をかなり長い期間で実施する可能性がある。
- その結果、失業率が高いのに、株・金・社債などのあらゆる資産価格が上昇する傾向は今後も続く可能性がある。
好調だった7月のアメリカ企業の景気
第3四半期の最初の月も、アメリカ企業の景気は良かったようです。
ISMが集計している企業へのアンケートの集計結果を見ても、前月よりもさらに景気が改善している様子が見えてきました。50ポイントを超えると景気が改善していると言えるISM景況指数は、製造業も非製造業も節目の50を超えて景気拡大を示しています。
上のグラフを見えると前月の6月からアメリカ企業の景気は急回復していることがわかりますが、7月もさらに好調が続いたようです。
企業好調でも冷え込む雇用環境
しかし、アメリカ企業の景気は良くても、少し気がかりな面もあります。7月以降に雇用の増加ペースが鈍化したり、失業者が増えているデータがいくつか見られることです。
8月6日にADP社が発表した7月の雇用者数の伸びは、予想の120万人増を大幅に下回る16.7万人増で雇用の回復が急減速している様子が見えてきました。
>>米ADP民間雇用者数、7月に急減速-感染再拡大の影響示唆(ブルームバーグ)
また、先週発表された新規失業保険申請数は2週連続で増加していて、7月中旬から失業者が増えているようです。
今は企業の景気は良くても、今後ウイルスの流行がどのような状況になるかが不透明なため雇用に消極的なのか、もしくはこの不況をしたたかに利用してコストカットを進めて効率的な経営体質に改善しようとしているのかもしれません。
経済ではなくマネーに反応する市場
8月7日金曜日には、ADP社の集計よりもずっと注目度が高い雇用統計(政府が集計したもの)があります。この結果も、ひょっとすると予想よりも悪い数字がならぶかも知れません。
ですが、雇用統計の結果だけで株価が大きく下がることは恐らくないです。
投資をしている人間にとっては新しいことではないかもしれませんが、2020年の株式市場は経済の良し悪しで動いているわけではなく、世の中にあふれているマネーの量で決まっているからです。
アメリカ政府が「まだまだ困窮している人がいるから、もっと景気刺激策が必要だ」という論調が強れば、さらなる刺激策を発動して世の中にドルが溢れて、あらゆる資産の価格があがります。
またFRBの目的の1つは雇用の最大化なので、雇用が改善するまで長い期間がかかるようなら、FRBの金融緩和が継続する期間も長くなって、ここでも資産の価格が上がりやすくなります。
データだけみると雇用回復のペースは鈍っているので、失業率が高い状態がしばらく続き、FRBや政府の支援策が長期化・大規模化して株・金・社債などのあらゆる資産価格が上昇する傾向は今後も続く気がします。
さいごに
3月末や4月の段階では、悪化した失業率に合わせて株価も下落するのではないかと心配した時期もありましたが、結局失業率は上がっても株価は下がりませんでした。
その後も、悪化する経済との乖離だけでなく企業の利益に対してですら割高になってきた株を見ながら、「株価回復が早すぎたので、一時的に下落して調整する可能性があるかも」とずっと言ってきましたが、ついに目立った下落もなく8月になりました。
今でも一時的な調整はあるかも知れないと考えていますが、あまりにもあふれるマネーの影響が強い場合に、このまま株価の下落がこないこともあるのかなとも考え始めています。
FRBや米政府頼みの経済は長い目で見ると、将来の成長率の低下や投資のリターンの低下につながるので素直に喜べない面もありますが、仕方ないのでしょう。
このまま調整がない場合は、物価と雇用がコロナ前の水準まで経済が回復したときに警戒が必要かも知れません。政府とFRBの支援策がこれ以上不要になったときに、株価が下がる恐れはあります。ですが、それはまだ数年先、少なくとも1年は先のことになりそうです。