今週、WTI原油先物は50ドル、ブレント原油先物は60ドルをそれぞれ下回るかが注目される。
WTI原油は先週1バレルあたり55ドルを下回り、次は50ドルをテストすることが考えられる。一方、ブレント原油は31日、60ドル台を下回る寸前まで下落した。今週さらに値を下げて取引されても、驚くべきことではない。
約2か月前、WTI原油とブレント原油はそれぞれ年初来高値となる66.6ドル、75.6ドルを記録した。これらの高値の背景には、OPECによる協調減産や米国によるベネズエラとイランに対する原油制裁がある。
一方現在は、考えられる好材料は何もない。米中貿易摩擦の激化やトランプ米大統領が述べたメキシコへの関税によって原油市場の先行きは決して明るくない。
原油市場はOPECの協調減産ではなく、貿易戦争の影響が大きい
OPECは6月末か7月上旬のOPEC総会で、原油価格を下支えするために協調減産の延期を発表する可能性がある。一方ブルームバーグのJulian Lee氏によると、OPECの事実上の盟主であるサウジアラビアは、ロシアに対して協調減産を説得することに苦労しているようだ。
同氏はOPECについて以下のように述べた。
「OPECが原油を下支えするためには、各国の目的が一致していることを示す必要がある。現在OPEC諸国は団結することに苦労しているようだ」
Energy Management Institute社のトレーディングディレクターであるDominick Chirichella氏は、世界経済減速の懸念によって原油市場は左右されており、OPECの協調減産や地政学的なリスクは打ち消されていたと指摘した。
同氏は以下のように述べた。
「リスク資産のマーケットの大半は、米国株が過去5週続落となったことに伴い下落基調となっている。このことを受けて、様々なコモディティマーケットと同様に原油市場も弱気相場になっている」
米国の格言で「株は5月に売れ」といわれる中、5月のS&P 500は6%のみの下落であった。一方原油市場では5月のWTI原油は16%安、ブレント原油は11%安と大幅に下落している。
テクニカル分析の観点では、WTI原油とブレント原油とも主要な移動平均線をすべて下抜けしている。昨年の12月24日の安値から1バレルあたり24ドル上昇していたが、現在はそこから14ドル以上下落している。
原油価格を下押ししているのは貿易戦争だけではない。弱い原油需要も挙げられる。
5月24日までの週の米原油在庫量は予想の86万バレル減に対して28万バレル減であった。5月10日と17日までの週の原油在庫量は立て続けに約500万バレル増となっていた。
通常、原油市場が強気相場となるのは、好調な石油精製業者と夏の需要増によるものである。しかし、ガソリン生産の利益率は昨年の水準を約30%下回っており、石油精製業者の夏に向けた精製ペースは減速している。
ゴールドマン・サックス(NYSE:GS)は「弱い景気指数がようやく、原油市場心理に追いついてきた」と述べている。
同社は以下のように述べた。
「原油市場の下落の規模と速度は、米国における原油生産の強い伸びと積み上がる原油在庫量への懸念によるものである」
米エネルギー情報局(EIA)は先週、米国における産油量は日量1230万バレルとなっていることを発表した。先週の米石油掘削リグ稼働数は4週ぶりの増加となっており、今後さらに産油量が増加することを示している。
一方で、原油に対して強気な見通しも存在する。
3日に発表されたロイターの調査によると、「中東地域における供給リスクの上昇」によって、2019年の下半期にブレント原油は70ドル台付近を推移する可能性があるとのこと。
月次の市場予想では、2019年におけるブレント原油の平均価格は68.84ドルになると見られており、先月の市場予想である68.57ドルからほぼ横ばいとなっている。
金は1300ドル台へ
原油と同様に金も今週注目すべきである。金において焦点となるのは、先週到達した1300ドル台からさらに上昇して1330ドルを上回るか否かである。
3日の金スポットは10週間ぶりの高値である1312.85ドルを記録した。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)における8月限金先物価格は1317.75ドルに到達し、3月24日までの週以降で高値となった。
貿易戦争中は安全資産としてドルが金より好まれてきたが、一転して金への需要が高まっており、さらなる上昇も考えられる。