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低下して行く「金利面での効果」と、懸念される「日銀不信」に伴う「波及効果」

発行済 2016-03-16 18:46
更新済 2023-07-09 19:32

「日銀の黒田東彦総裁は15日の記者会見で、導入から1カ月たったマイナス金利政策について『金利面で効果がすでに表れている』 と分析した。貸出金利や住宅ローン金利が下がり、今後は設備投資や住宅投資などの実体経済にもプラスの効果が『波及していく』 と自信を示した」(16日付日本経済新聞 「日銀総裁『すでに効果』」)

「金利面で効果がすでに表れている」。まさか日銀がこうした世界に恥を晒すような発言をするとは驚きだ。

「金利」というのは、基本的に「裁定」が効くもの。それ故、中央銀行が政策金利を引下げれば、世の中の金利が連動して下がることは当然のこと。もし連動して下がらないのだとしたら、中央銀行が政策金利を動かす意味はない。

したがって「金利面で効果がすでに表れている」という発言は中央銀行総裁の見識を疑われるもの。

「マイナス金利の引き下げ余地については『理論的には余地は相当ある』 との認識を示した」(16日付日経電子版)

16日の衆院財務金融委員会で黒田日銀総裁がこのように発言したと報じられている。確かに「理論的には余地は相当ある」といえるかもしれないが、「現実的にはほとんど余地はない」。

先日の「投資戦略フェア2016」でのゴゴジャンさんのミニセミナーでもお話ししたが、日銀がマイナス金利政策を採用しても、マイナスになり難い金利もある。マイナス金利になり難いものがあるということは、「金利裁定」が働かなくなるということ。

つまり、日銀がマイナス金利を引き下げても、「金利面での効果が表れ難くなる」ということ。「金利面で効果がすでに表れている」なかでも「波及効果」が表れるか定かでないなかで、「金利面での効果が表れ難くなる」ということは、「波及効果」はもっと怪しげなものになるということ。

マイナス金利効果に関しては、日本経済全体にプラスであるという意見が実しやかに報じられている。昨晩放映されたWBS(ワールド ビジネス サテライト)でも、コメンテーターは「金融機関、法人、個人全ての分野でマイナス金利はプラスである」という試算を示していた。

しかし、こうした分析は正直眉唾物だ。

例えば、金融機関に対するプラス効果として、保有国債の日銀への売却益が挙げられていた。確かに、日銀がより高い価格(より大きなマイナス金利)で国債を購入してくれるのであれば、日銀に保有国債を売却した時点で金融機関には実現益が生じる。

しかし、問題はその後だ。先日のセミナーでも指摘したが、「マイナス金利下では現金はババになる」。

日銀に国債を売却した資金を金融機関はどこに置いておけばいいのだろうか。これまでのように日銀当座預金に積めば、マイナス金利を適用される、つまり、実現益が減って行く可能性がある。こうした状況の中で国債の売却益が得られることだけをプラス面に挙げるというのは片手落ちの分析でしかない。

日銀は14~15日に開いた金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めた。

この決定自体に驚きはないが、注目されるのは、国内景気の認識について「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている」と、1月の展望リポートで示した見通しに「基調としては」という文言を加えて実質的に下方修正したところ。

こうした景気見通しの変更から言えることは、日銀は「穏やかな回復を続けている」なかで、1月にマイナス金利政策という新たな緩和策に踏み込んだということ。

もし、1月にマイナス金利政策に踏み込むのであれば景気見通しを下方修正するべきだったし、下方修正しないのであればマイナス金利政策の導入は国内景気を下方修正する今回まで待つべきであったということ。

景気見通しを維持する中でマイナス金利政策に踏み切り、今回景気見通しを下方修正したにも関らず金融政策の維持を決定したということは、日銀の金融政策と景気判断の間には整合性が欠けていることを露呈する出来事だといえる。

これでは市場からの信頼を得ることは難しい。

今回黒田日銀が国内景気の認識を下方修正したのは、次回4月の金融政策決定会合で「マイナス金利幅の拡大」に踏み出す布石だと考えておくべきかもしれない。

セミナーでもお話ししたが、黒田日銀体制になってから金融政策決定会合は今回を含め41回開かれているが、週末と月末が重なったのは3回だけである。黒田日銀はその内の2回で金融政策の変更を行っている。

市場にサプライズを与えることを権威だと勘違いしている黒田日銀総裁にとって、市場が変動しやすい週末と月末が重なる日は特別な日であるのかもしれない。

興味深いことは、来月4月の金融政策決定会合は週末と月末が重なる27~28日に開催されるということ。「マイナス金利付 質的・量的金融緩和」を導入した際には「賛成5、反対4」と賛否が拮抗したが、反対票を投じた白井さゆり議員の任期は3月末で切れ、新たに安倍政権に近いとされる桜井新議員が加わるため、4月の会合でマイナス金利拡大を諮れば「賛成6、反対4」と賛成多数で可決される可能性は高い。

さらに、4月の金融政策決定会合直後からGW入りするため市場は変動しやすくなることを考えると、市場にインパクトを与えることを目論む黒田日銀が最高のタイミングだと考えたとしても不思議ではない。

しかし、市場からの信頼を失いつつある黒田日銀の思惑通りに市場が反応するとは限らない。

整合性を欠く政策判断で「金利裁定」が難しくなるマイナス金利政策に踏み込んだ日銀。黒田日銀総裁は「波及効果」に自信を示しているが、こうした根拠なき自信は、市場からの信頼を失ったことでへし折られる可能性が高まっている。「金利面での効果」による「波及効果」よりも、黒田日銀に対する不信による「波及効果」に警戒しなければならない時期が近付いて来ている。

近藤駿介のAnother Sense『マーケット・オピニオン』

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