■今後の見通し
2.スリー・ディー・マトリックス (T:7777)の主要パイプラインの開発動向
(1)止血材「PuraStat」
「PuraStat」については、日本で消化器内視鏡領域における漏出性出血を適用対象とした臨床試験を2017年8月より開始している。
当初の想定よりも臨床試験の進捗はやや遅れ気味となっているものの、進捗を妨げる問題は発生していない。
現在の状況からすると、終了見込みは2019年春頃がターゲットとなっており、製造販売承認の申請時期については、2020年4月期にズレ込む可能性もある。
なお、国内の治験を先取りする格好で、英国の医師が実施した臨床研究の結果が2018年10月に開催された欧州最大規模の消化器分野の学会(UEGW)で発表されている。
同研究は、ESDにおいて止血目的で電気焼灼を用いる割合が、「PuraStat」を用いることでどれだけ減らせるかを比較した研究で、100例のランダム化比較試験となる。
データ結果によると、対照群が99.6%だったのに対して「PuraStat」群では49.8%と電気焼灼を使う割合が約半減できたこと、「PuraStat」の単独処置による止血効果も91.7%と極めて高い止血効果が得られたことなどが明らかとなっている。
現在、ESDの止血は電気焼灼術が一般的だが患者への負担も大きく(術中穿孔や後出血等の偶発症の発生リスク有)、「PuraStat」を用いることで患者のQOL向上が期待できるほか、焼灼器具の使用頻度減少による手術コスト削減につながるといったメリットも指摘されている。
国内の治験についてはほぼ同様のプロトコルで実施されているため、好結果が得られる可能性が高いと弊社では見ている。
製造販売承認申請後の審査期間については平均で約15ヶ月とされており、順調に進めば2021年4月期の早い段階で承認される可能性がある。
承認取得時には販売ライセンス契約先である扶桑薬品工業からマイルストーン収益800百万円を得られることになっているが、今回は契約の適用範囲である3領域(消化器内視鏡領域、心臓血管外科領域、臓器出血領域)のうちの1領域に限定されるため、受領額については今後の交渉で決めていくものと思われる。
また、ほかの2領域のうち心臓血管外科領域については、PMDAと治験プロトコルに関しての協議を既に開始しており、消化器内視鏡領域の進捗を見て臨床試験を開始する予定となっている。
さらに、その他の診療科においても「PuraStat」の優位性を示すことができる対象術式について検討を進めている。
(2)後出血予防材
2018年12月に欧州で「PuraStat」の適用拡大として、内視鏡手術後の後出血予防材のCEマーク認証を取得したことを発表している。
今回、正式に認証取得できたことで、「PuraStat」を後出血予防材として積極的に販売することができるようになり、欧州での売上拡大が期待される。
販売先については既存顧客や見込顧客など従来と変わりないため、比較的スムーズに拡販が進むと予想される。
また、今後は止血材と同様、アジア・オセアニア、中南米・カナダなどのCEマーク適用国で同様に認証取得、製品登録申請を進めていく予定となっている。
今回「PuraStat」は内視鏡手術後の後出血予防材としての適用拡大となったが、その他にも現場の医師から新たな用途での研究成果も報告されており、今後適用領域が拡大していく可能性もある。
例えば、フランスの医師から糖尿病患者へのシャント形成術において、後出血予防のために「PuraStat」を使用したところ、後出血の発生件数が従来よりも大幅に減少したことが報告されている。
フランスでは年間50万件のシャント形成術が行われているが、後出血リスクがあるため1週間は入院して経過観察するのが一般的となっている。
「PuraStat」を使うことで入院日数を短縮できれば、医療費の削減に寄与することになる。
仮にフランスのシャント形成術すべてに「PuraStat」(2万円/回と仮定)が使われたとすると、それだけで売上高は100億円規模となる。
(3)粘膜隆起材
粘膜隆起材については、PMDAと2018年11月より治験開始に向けた協議を開始しており、同時並行して動物実験による検証を重ね、治験計画申請のためのデータ取得を行っている。
治験計画届提出の時期に関しては、止血材の治験で最終組入れが完了するタイミング(2019年春頃)を想定している。
比較対象試験で進めることになるが、比較対象は現在、一般的に用いられている生化学工業 (T:4548)の「ムコアップ」となる可能性が高い。
同社では「TDM-641」が隆起度で優位性があるほか止血効果もあることから、販売承認を得られる可能性が高いと見ている。
粘膜隆起材が上市されることになれば、消化器内視鏡手術領域において止血材、後出血予防材、粘膜隆起材と3つの製品が揃うことになる。
止血材において開拓した販売ルートを活用できることから、クロスセルによる早期の売上拡大が期待される。
(4)癒着防止材「PuraSINUS」
2018年10月30日に、米国で耳鼻咽喉科領域向け癒着防止材「PuraSINUS」の510(k)申請を提出した。
同領域ではオーストラリアで既に販売実績があるため(約100症例で癒着率は5%以下の実績)、承認される可能性が高いと弊社では見ている。
FDAの審査機関は90日(実働日数)のため、最短で行けば2019年3月に承認が下りる可能性もあるが、質問事項や追加データの要請があれば数ヶ月ズレ込むことになる。
承認取得後の販売戦略としては、直販で一定の販売実績を作った後に同領域における大手医療機器メーカーと独占販売ライセンス契約を締結する方針となっている。
米国では耳鼻咽喉科領域における有力代理店が無いためだ。
既に、大手医療機器メーカー2社とも協議を開始している。
このため、同社は販売承認の取得時期に合わせて営業スタッフを現地で3名程度採用する予定になっている。
耳鼻咽喉科領域での潜在市場規模は米国で100億円と大きいだけに、今後の動向が注目される。
(5)創傷治癒材「PuraDerm」
米国で既に510(k)での販売承認を取得している創傷治癒材「PuraDerm」に関して、2019年4月期中に臨床研究を開始する方針を明らかにしている。
対象領域は美容整形外科分野となる。
「PuraDerm」は低侵襲な止血が可能なほか、適度な湿潤環境の保持、炎症による組織損傷の抑制、後出血予防、治癒促進(皮膚再生)といった長所を持つ。
まずは米国の美容整形外科分野でトップドクターと言われる医師に使用してもらい、ファーストオピニオンを貰ったうえで、臨床研究を米国だけでなく欧州でも進めていく予定にしている。
熱傷や潰瘍による傷の治りを早めたい、傷跡を極力残したくないと言った潜在ニーズは大きいと見られ、今後の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
2.スリー・ディー・マトリックス (T:7777)の主要パイプラインの開発動向
(1)止血材「PuraStat」
「PuraStat」については、日本で消化器内視鏡領域における漏出性出血を適用対象とした臨床試験を2017年8月より開始している。
当初の想定よりも臨床試験の進捗はやや遅れ気味となっているものの、進捗を妨げる問題は発生していない。
現在の状況からすると、終了見込みは2019年春頃がターゲットとなっており、製造販売承認の申請時期については、2020年4月期にズレ込む可能性もある。
なお、国内の治験を先取りする格好で、英国の医師が実施した臨床研究の結果が2018年10月に開催された欧州最大規模の消化器分野の学会(UEGW)で発表されている。
同研究は、ESDにおいて止血目的で電気焼灼を用いる割合が、「PuraStat」を用いることでどれだけ減らせるかを比較した研究で、100例のランダム化比較試験となる。
データ結果によると、対照群が99.6%だったのに対して「PuraStat」群では49.8%と電気焼灼を使う割合が約半減できたこと、「PuraStat」の単独処置による止血効果も91.7%と極めて高い止血効果が得られたことなどが明らかとなっている。
現在、ESDの止血は電気焼灼術が一般的だが患者への負担も大きく(術中穿孔や後出血等の偶発症の発生リスク有)、「PuraStat」を用いることで患者のQOL向上が期待できるほか、焼灼器具の使用頻度減少による手術コスト削減につながるといったメリットも指摘されている。
国内の治験についてはほぼ同様のプロトコルで実施されているため、好結果が得られる可能性が高いと弊社では見ている。
製造販売承認申請後の審査期間については平均で約15ヶ月とされており、順調に進めば2021年4月期の早い段階で承認される可能性がある。
承認取得時には販売ライセンス契約先である扶桑薬品工業からマイルストーン収益800百万円を得られることになっているが、今回は契約の適用範囲である3領域(消化器内視鏡領域、心臓血管外科領域、臓器出血領域)のうちの1領域に限定されるため、受領額については今後の交渉で決めていくものと思われる。
また、ほかの2領域のうち心臓血管外科領域については、PMDAと治験プロトコルに関しての協議を既に開始しており、消化器内視鏡領域の進捗を見て臨床試験を開始する予定となっている。
さらに、その他の診療科においても「PuraStat」の優位性を示すことができる対象術式について検討を進めている。
(2)後出血予防材
2018年12月に欧州で「PuraStat」の適用拡大として、内視鏡手術後の後出血予防材のCEマーク認証を取得したことを発表している。
今回、正式に認証取得できたことで、「PuraStat」を後出血予防材として積極的に販売することができるようになり、欧州での売上拡大が期待される。
販売先については既存顧客や見込顧客など従来と変わりないため、比較的スムーズに拡販が進むと予想される。
また、今後は止血材と同様、アジア・オセアニア、中南米・カナダなどのCEマーク適用国で同様に認証取得、製品登録申請を進めていく予定となっている。
今回「PuraStat」は内視鏡手術後の後出血予防材としての適用拡大となったが、その他にも現場の医師から新たな用途での研究成果も報告されており、今後適用領域が拡大していく可能性もある。
例えば、フランスの医師から糖尿病患者へのシャント形成術において、後出血予防のために「PuraStat」を使用したところ、後出血の発生件数が従来よりも大幅に減少したことが報告されている。
フランスでは年間50万件のシャント形成術が行われているが、後出血リスクがあるため1週間は入院して経過観察するのが一般的となっている。
「PuraStat」を使うことで入院日数を短縮できれば、医療費の削減に寄与することになる。
仮にフランスのシャント形成術すべてに「PuraStat」(2万円/回と仮定)が使われたとすると、それだけで売上高は100億円規模となる。
(3)粘膜隆起材
粘膜隆起材については、PMDAと2018年11月より治験開始に向けた協議を開始しており、同時並行して動物実験による検証を重ね、治験計画申請のためのデータ取得を行っている。
治験計画届提出の時期に関しては、止血材の治験で最終組入れが完了するタイミング(2019年春頃)を想定している。
比較対象試験で進めることになるが、比較対象は現在、一般的に用いられている生化学工業 (T:4548)の「ムコアップ」となる可能性が高い。
同社では「TDM-641」が隆起度で優位性があるほか止血効果もあることから、販売承認を得られる可能性が高いと見ている。
粘膜隆起材が上市されることになれば、消化器内視鏡手術領域において止血材、後出血予防材、粘膜隆起材と3つの製品が揃うことになる。
止血材において開拓した販売ルートを活用できることから、クロスセルによる早期の売上拡大が期待される。
(4)癒着防止材「PuraSINUS」
2018年10月30日に、米国で耳鼻咽喉科領域向け癒着防止材「PuraSINUS」の510(k)申請を提出した。
同領域ではオーストラリアで既に販売実績があるため(約100症例で癒着率は5%以下の実績)、承認される可能性が高いと弊社では見ている。
FDAの審査機関は90日(実働日数)のため、最短で行けば2019年3月に承認が下りる可能性もあるが、質問事項や追加データの要請があれば数ヶ月ズレ込むことになる。
承認取得後の販売戦略としては、直販で一定の販売実績を作った後に同領域における大手医療機器メーカーと独占販売ライセンス契約を締結する方針となっている。
米国では耳鼻咽喉科領域における有力代理店が無いためだ。
既に、大手医療機器メーカー2社とも協議を開始している。
このため、同社は販売承認の取得時期に合わせて営業スタッフを現地で3名程度採用する予定になっている。
耳鼻咽喉科領域での潜在市場規模は米国で100億円と大きいだけに、今後の動向が注目される。
(5)創傷治癒材「PuraDerm」
米国で既に510(k)での販売承認を取得している創傷治癒材「PuraDerm」に関して、2019年4月期中に臨床研究を開始する方針を明らかにしている。
対象領域は美容整形外科分野となる。
「PuraDerm」は低侵襲な止血が可能なほか、適度な湿潤環境の保持、炎症による組織損傷の抑制、後出血予防、治癒促進(皮膚再生)といった長所を持つ。
まずは米国の美容整形外科分野でトップドクターと言われる医師に使用してもらい、ファーストオピニオンを貰ったうえで、臨床研究を米国だけでなく欧州でも進めていく予定にしている。
熱傷や潰瘍による傷の治りを早めたい、傷跡を極力残したくないと言った潜在ニーズは大きいと見られ、今後の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)