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焦点:カナダ与党、選挙前倒しの誤算 頼みは「トルドー」ブランド

発行済 2021-09-17 07:18
更新済 2021-09-17 07:27
© Reuters. カナダのトルドー首相は、総選挙の前倒し実施を表明した時点で下院の過半数議席を獲得できるという望みを抱いていたが、当初描いた勝利の想定が危うくなっている。写真はバンクーバー

[バンクーバー 13日 ロイター] - カナダのトルドー首相は、総選挙の前倒し実施を表明した時点で下院の過半数議席を獲得できるという望みを抱いていた。しかし、選挙戦の序盤で弾みをつけられず、新型コロナウイルスのパンデミックが収まらないうちに選挙を行うとは何事かという厳しい世論にもさらされ、当初描いた勝利の想定が危うくなっている。

2015年から政権の座にあるトルドー氏が早期選挙の賭けに出たのは、家計・企業向けの大規模支出や高いワクチン接種率といった政府のこれまでの新型コロナ対策の実績を強みにできるという思惑からだった。

ところが、20日の投開票まで残り1週間になった現在でもなお、トルドー氏が率いる自由党の支持率は過半数議席に必要な38%には程遠く、無名に近いエリン・オトゥール氏を党首に選出した野党・保守党に敗北する可能性さえある状態だ。

関係者はその原因として、選挙戦当初の盛り上がりの乏しさと、トルドー氏が首相就任以来約束してきたカナダの「明るい道筋」がいまだ実現しない中で必然的に積み上がってきた政治的負債を挙げた。自由党のある関係者は、トルドー氏が本来の任期をあと2年も残している段階で「選挙を言い出さない方が良かった」と嘆く。

一方トルドー氏は、カナダがコロナ禍を乗り切るために自身が打ち出した政策について、国民に改めて信を問う必要があると主張している。自由党は既にコロナ対策として国内総生産(GDP)の23%を超える規模の財政支出を実行しており、選挙で勝利すればさらに多額の追加支出に乗り出す方針だ。

<「花の盛り過ぎた」、コロナ疲れ逆風に>

選挙が告示された8月半ばの世論調査では、自由党が保守党に対して圧倒的に優勢で、選挙は楽勝かと思われた。

しかし、その後、情勢は急転。何週間か保守党の支持率が自由党を逆転する局面が続き、足元でようやく自由党が再びわずかにリードする展開となっている。

オトゥール氏は感染第4波の中での選挙について、国民を小ばかにした権力闘争だと繰り返し批判しており、それが相次ぐロックダウンで疲れ切った有権者の共感を呼んだとみられる。自由党側の選挙態勢も出足でつまずき、納得できる前倒し選挙の理由を示せないばかりか、オトゥール氏が民間医療問題に関して発言した動画を自由党陣営が操作したとしてツイッターから警告を受ける失態も演じた。

戸別訪問をした自由党の各候補からは、毎日テレビで政府の新型コロナ対策をアピールしてきたトルドー氏にはもううんざりだという有権者の声が続々と報告されている。事情に詳しい関係者によると、かつては有利に働いていたトルドー氏のテレビでの圧倒的な露出も、むしろもう見飽きたという感情につながってきているという。

カナダ10州のうち最大の人口を抱えるオンタリオ州のある自由党選対陣営幹部は「バラの花の盛りは過ぎた(トルドー氏人気に陰りが出てきた)」と語る。自由党は同州で121議席中75席を握っており、政権を維持するには今回も相当な健闘が求められる。

同幹部は「(コロナ)疲れのムードが漂っている。国民からは『もうどこかに行ってくれ。かまわないでほしい。私は自分の生活がしたい』との声が聞こえてくる」と指摘した。

この選挙期間中、自由党は医療制度への大規模な支出、あるいは初めての住宅取得支援など次々に新たな公約を打ち出しているが、それならなぜ過去6年間の政権下でやってこなかったのかという疑問にもさらされている。

トルドー氏が15年に首相の座を射止めることができたのは、気候変動対応や女性の権利向上、先住民支援などの政策を急進左派層が支持したことも一因だ。だが、その後カナダの温室効果ガス排出量はかつてないほど増加し、政府は原油の円滑な輸送を保つためにパイプラインを購入。別の自由党幹部は「急進左派層は、われわれに愛想を尽かしてしまった」と話す。

さらに、自由党陣営にとっては、倫理上のスキャンダルが再び表面化して頭痛の種が増えた。ジョディ・ウィルソン・ジェイボールド元法相による新著の抜粋が11日に公表され、トルドー氏が元法相に対して19年に公式の場で虚偽の発言をするよう望んだと記されていたからだ。トルドー氏側はこれを否定している。

<侮れない「トルドー」のブランド力>

とはいえ、トルドー氏は選挙演説に関してはベテランの域にあり、長年首相を務めたピエール・トルドー氏の長男として公衆の目にさらされる人生を過ごしてきた生粋の政治家だ。

19年の選挙戦では、顔を黒く塗るメークをした過去の写真が出回って人種差別的だと非難を浴びる逆風にさらされたものの、見事に巻き返して政権を維持した実績もある。

先週には2回、全国規模のテレビ討論会が開かれた。複数のトルドー氏側近はずっと前から、この討論会を経て、同氏が最終的に支持率で優位に立つと自信を見せている。内部の世論調査に携わっている選対幹部の1人は「風が吹きつつある」と明かした。

© Reuters. カナダのトルドー首相は、総選挙の前倒し実施を表明した時点で下院の過半数議席を獲得できるという望みを抱いていたが、当初描いた勝利の想定が危うくなっている。写真はバンクーバーで13日撮影(2021年 ロイター/Carlos Osorio)

実際、週末の各種世論調査では、少なくとも過去3週間で初めて自由党が保守党を再逆転する流れが見え始めた。13日に公表されたナノス・リサーチの民法CTV向けの調査によると、自由党の支持率は33.2%、保守党は30.2%だった。

ニューファンドランド・メモリアル大学教授で政治コミュニケーションとブランディングを専門とするアレックス・マーランド氏は、トルドー氏は持って生まれた政治的な直観だけでなく、有名人としての資質とブランド名を兼ね備えていると分析。「もはや不公平とも言えるが、こうした「魔力」を持つ政治指導者は他にはほとんどいない」。

(Steve Scherer記者、David Ljunggren記者)

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