執筆:Barani Krishnan
Investing.com -- Fear and Greed Indexは、株式、債券、暗号資産に対する投資家心理を0~100で測定する。0は極度の恐怖による大きな売り圧力、100は極度の買いまたは強欲状態を示唆する。しかしコモディティでは、供給制約と地政学的リスクが恐怖と欲望を相互に絡み合う。現在の原油のように供給不足に対する恐怖が、投資家の購買欲を極端に高めるという状況につながっている。
この2ヶ月の原油の高騰は、地政学的リスクによるものからサプライ・チェーンに対する政治的な動向まで、あらゆるものが絡んでいた。唯一欠けていたのは、気象要因だ。しかし先週はテキサスにて寒波が懸念され、パーミアン盆地が昨年のように再び冷害を受けるのではないかという恐れから、原油価格は90ドルを大きく上回った。
米国産原油のベンチマークであるWTIと英国産原油のベンチマークブレント原油は7週連続で上昇し、市場が期待する1バレル100ドルに向けて猛烈な値上がりをみせている。ロシア・ウクライナ危機、OPEC+による中途半端な増産、そしてテキサス州(冬でないときは米国で4番目に暑い州)を含む米国全土を襲った寒波のはるか以前からこの大台は予想されていたものだ。
先週、テキサス州の気温が当初華氏20度(摂氏-7度)以下になると予想されていたため、原油の上昇圧力に新たな弾みがついた。
テキサス州西部にはパーミアン盆地があり、ニューメキシコ州の南東部にまで広がっている。
ヒューストンに拠点を置くエネルギー・コンサルタント会社Gelber & AssociatesのアナリストであるDan Myers氏は、水曜日に「テキサス州中部の寒さは過小評価できない。今週中に連続して氷点下になることは、パーミアンにさらなる冷害をもたらす可能性がある」と述べた。
しかし、天気予報は文字通りあくまでも予想にすぎない。気温のような気まぐれなものについては、特にかなり前に発表されたものについては、話半分に受け止めるべきだろう。
テキサス州の場合、先週はじめの予報では、パーミアンの中心に位置するミッドランドは、日曜日までに平均気温が華氏11度(摂氏-11.7度)、ヒューストン同28度(摂氏-2.2度)、ダラス同18度(摂氏-7.8度)であった。
しかしこれを書いている日曜日、ミッドランドの最低気温は華氏23度(摂氏-5度)、日中の最高気温は同53度(摂氏11.7度)、ヒューストンは同29-57度(摂氏-1.7~13.9度)、ダラスは同28-50度(摂氏-2.2~10度)と予想されている。
昨年の暴風雨で停電と200人以上の死者を出したテキサス州では、再び冷害が起こるかどうかが大きな問題になっている。
しかし、テキサス州は木曜日までに大寒波が徐々に解消され始めており、原油先物が金曜日にアジアで取引を開始したとき、パーミアンがそれほど悪い状況にないことは明らかだったと、今週ずっとパーミアンの天候を注視してきたトレーダーが土曜日に Investing.com に語った。
テキサス州の電力会社関係者も、Lone Star Stateの電力網は昨年のような暴風雨による停電が起きないことを確信している。2021年の大災害以来、送電網運営会社には予備電力の増強が義務付けられ、法人利用者は消費量を削減した場合には、その分に応じた対価が支払われやすくなるという新しい規則が導入された。
土曜日にInvesting.comの取材に応じたトレーダーは、天然ガスの動向についても指摘している。暖房や冷房に使われ、冬や暖房のピーク時には石油と同じくらい重要なコモディティである天然ガスは、パーミアン盆地における懸念材料が過大評価されていたことが明らかになり、木曜日から金曜日にかけて18%急落した。これによって火曜日の16%の上昇分をすべて喪失した形だ。
むしろガスの供給は石油よりも短期的に減少するリスクが高く、5年間の貯蔵量平均は1年前の水準よりも15%近く低い、と当トレーダーは述べている。
それでも現在の原油の強気筋は合理性を排除し、投資家も市場も100ドルへ向けて突き進んでいるという。
オンライン取引プラットフォームOANDAのアナリスト、Ed Moya氏は、週末のコメントで、「原油価格は100ドルへの片道切符を手に入れたようだ」と書いている。「WTI原油は、すべてが非常に強気に転じているようで、この強気の勢いは、95ドルあたりまで大きなレジスタンスにならないかもしれない」と話す。
冒頭で述べたように、コモディティでは、供給制約と地政学的リスクが恐怖と欲望を絡めることがあるが、今原油で起きているのは、まさしくそれである。先週、原油の恐怖と欲望を高めたのは、ロシアとウクライナの緊張状態であった。まだどちらの側からもミサイルが発射されていないにもかかわらず、2国家間における地政学的リスクによって、過去1カ月間にWTIとブレント原油を1バレルあたり少なくとも10ドル値上がりさせている。
CNBCの「Power Lunch」の共同司会者Kelly Evans氏を含む一部の市場コメンテーターは、今週、なぜ年金基金がエネルギーをロングではなくエクスポージャーの削減を行い、その年金加入者の資金を将来の年金支払いに後回しているのかと、Twitterで声を大にして疑問視している。
おそらく彼らの決断は、経済に関する長期的な先見性と、モラル(残念ながら、この最後の言葉は、投資において醜い言葉になってしまった)に関係しているのだろう。
前週のコラムで述べたように、石油は文字通り地球のエネルギーであり、地球を動かしているコモディティである。石油は地球の移動になくてはならないものだ。ほとんどすべての商業活動の基礎原料である。原油価格の上昇は、食料、ガス、衣料、そしてほとんどすべての必需品の価格上昇につながる。
だから、インフレ・ヘッジのために石油を買っているという人がいるのは笑止千万だ。金をインフレ・ヘッジに使っても、インフレにはならない。しかし、石油の場合は話が違う。
石油を買うことでインフレを回避していると言っても、実際には石油の価格を上昇させることになるのだから、矛盾した行為だ。むしろ、今石油を買うという行為は強気相場での金儲けのチャンスを捉えるためと言う方が正しい。したがって、インフレ・ヘッジという言葉は使わない方が良い。
Investing.comは投資家向けのウェブサイトだが、投資家の行動が社会的な影響を及ぼす場合、特にその行動が世界経済全体を破壊しかねない場合、市場報道とバランスを取りながら解説を行うことが重要だ。原油価格が1バレル100ドルをはるかに超えようとしている今、特に世界経済がコロナ禍から回復しようとする初期段階にある中、原油価格の高騰はまさに世界経済に悪影響を及ぼそうとしている状況にあるのだ。歴史上、ハイパー・インフレやスタグフレーションの例は枚挙に暇がないが、その種は原油価格の高騰によって蒔かれたものである。
バイデン政権の近視眼的なエネルギー政策(常識のある人なら、自然エネルギー計画への移行前に化石燃料と並行したエネルギー政策を精力的に進めていただろう)に責任を押し付けるだけでなく、投資家自身も上昇トレンドに取り残されてしまうことの恐怖、もとい上昇に参加しようとする欲望が、我々が生活する実体経済の安定性よりも重要なのか、と自問しなければならないだろう。
金融危機の種を蒔いたのは、今日の原油価格が100ドルまで上昇することを期待するウォール街であり、経済運営を誤ったブッシュ政権にも責任があることを忘れてはならない。金融危機の引き金となったのはサブプライム・ローンだが、1バレル150ドル近い原油もバブルの崩壊に一役買ったのだ。
原油価格&テクニカル分析による見通し
ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は、93.17ドルの高値をつけた後、寄り付きよりも2.04ドル(2.3%)上昇して、92.31ドルで取引を終えた。週次では7%近く上昇し、7週間の累積上昇率は30%に達している。今年だけでWTIは約23%値上がりしているのだ。
ロンドン市場で取引される原油の世界的な指標であるブレント原油は、8年ぶりの高値となる93.69ドルを付けた後、寄り付きよりも2.16ドル(2.4%)上昇し93.27ドルで取引を終えた。週次では約4%、7週間の累積で27%それぞれ上昇となった。年初来では、ブレント原油は20%値上がりしている。
skcharting.comのチーフ・テクニカル・ストラテジスト、Sunil Kumar Dixit氏は、WTIの基本的なトリガーは「許容できる弾力性をはるかに超えて、過剰反応した」という見方を示している。
「短期的な上昇は95ドルに留まる可能性が高く、一方、週足チャートは7週連続の上昇の後、明らかに伸びすぎで、パラボリックの兆候を示している。このため86ドルを割り込むと、それは最初のエグゾーションの兆候になるはずだ」。
「86ドルのハンドルから更に下落すれば、弱気な反転トップが形成される可能性が高い。」
しかしDixit氏は、ロシア・ウクライナ情勢のニュースが沈静化しても、WTIは95ドルに向けてもう少し上昇する可能性があると認めている。
「週足チャートのストキャスティクスは94、RSIは70といずれも買われすぎの領域にあるが、95ドルまでの一時的な上昇は可能だ。しかし、全体としては、テクニカルな調整の可能性の方が高そうだ」と警戒する。
金価格&市場動向
2歩進んで1歩下がるという値動きを繰り返しながら、金は1800ドルに向けて慎重な動きを先週も続けた。1月の米国の雇用統計による売り圧力にも耐えたが、市場の強気筋を一層刺激するほど強い前進はみられなかった。
ニューヨークのComexで最も活発な金先物取引である4月限は、3.70ドル(0.2%)上昇し、1オンス=1807.80ドルで取引された。週次のリターンは1.3%の値上がりであった。
週次で1%以上上昇することはどの市場にとっても悪くないが、米国の主要なインフレ率がすべて40年ぶりの高値を指している中にあっては、金の限られた上昇はインフレ・ヘッジとしての金がいかに過小評価されているかを市場の強気派に痛感させるものだ。
オンライン取引プラットフォームOANDAのアナリスト、Ed Moya氏は、「1800ドルの水準は金にとって重要であり、もし金がこの水準で推移し続けることができれば、金の強気筋にとって非常にポジティブなことだ」と週次レポートに書いている。
「もし金が1780ドルを割り込んだら、状況は危険なものになり、価格は1700ドルに向かって重要な勢い売りのターゲットになる可能性がある。」
金曜の朝、金が重要な1800ドルのレベルを割り込んだとき、金のロング勢は一時パニックに陥ったが、日中の底値は1792.20ドルと深刻な下落とはならなかった。雇用統計の状況を考えると、これは金にとってかなりポジティブな値動きであったといえる。
労働省が発表した非農業部門雇用者数では、1月の雇用者数は46万7000人とエコノミストの予想を上回ったものの、失業率は前回の3.9%からわずかながら上昇し4%になった。Investing.comのエコノミストは、12月の19万9000人に対し、先月は約15万人の雇用増を予想していた。
異常な労働市場の状況を示す雇用統計の発表を受けて、FRBがインフレに対応するための強固な基盤を作るため、今年中に5回もの利上げが行われる可能性をFF(Federal Fund)先物は示唆した。
エコノミストのGreg Michalowski氏は、金融メディアForexLiveへの投稿で、「雇用統計の結果により、FRBが2022年に5回利上げする可能性が50%以上となった」と述べている。「3月と5月の引き上げに対する期待は100%に達している。6月の引き上げの可能性は82%、7月と11月の引き上げの可能性はそれぞれ56%である。」
各利上げ幅予想は25bps(0.25%)のままだ。現在、金利はゼロから0.25%の間にある。労働市場、経済、ひいてはインフレの状況次第で、25bpsを超える引き上げもあり得るが、5回の引き上げによって、政策金利は1.25-1.50%の範囲になる可能性がある。
2020年のコロナ禍の発生に端を発した深刻な失業率の急上昇の後、労働市場はダイナミックに持ち直し、先週金曜日に発表された1月の雇用統計では、失業率が2020年4月の過去最悪の14.8%から、わずか4.0%にまで改善をみせた。FRBは雇用の拡大と主に金利コントロールによるインフレ抑制という2つの使命を持っており、失業率4.0%以下は「完全雇用状態」とみなされている。
2020年3月に金利をほぼゼロに切り下げて以来、FRBは過去20カ月間に2兆ドル以上の景気刺激策を講じて債券市場を維持してきた。その上、連邦政府はパンデミック救済策にさらに数兆ドルを支出し、雇用者は労働者に高い賃金を支払ってきた。
これらすべての資金と、パンデミックに起因するサプライ・チェーンの停滞は、2020年の3.5%成長から昨年は5.8%の経済成長をもたらした一方で、高騰するインフレを生み出した。インフレの重要なバロメーターである米国消費者物価指数は、12月までの1年間で7%上昇し、1982年以来最も速いペースの上昇を記録した。FRB自身のインフレに対する許容範囲は年率わずか2%である。
金のテクニカル分析による見通し
skcharting.comのSunil Kumar Dixit氏は、先週金が1853ドルの高値から73ドル下落し、1780ドルまで押し下げられた後、何とか水面上に頭を保ったと指摘した。
「今週の金価格は、1785ドルの安値とフィボナッチ50%レベルである1797ドルの高値の間での値動きに注視する必要があるだろう」と述べている。
「1785ドルを割って推移する場合には、回復トレンドが無効になり、フィボナッチ61.8%の下限レベルである1768ドルを試すために売りが拡大するかもしれない」と警戒する。
米国の雇用統計を受けて、金は1800ドルから1797ドルに修正され、さらには1790ドルを試すのではないかとの見方が強くなってきたと、同氏は言う。
「実際、金は1800ドルを超える水準まで反発し、投資家を驚かせた。今週の値動きを通じて1785ドル以上を維持することに成功すれば、リバウンドはさらなる上昇に不可欠なレベルである1825ドルまで伸びる可能性もある」と期待する。
免責事項:Barani Krishnanは執筆しているコモディティおよび有価証券のポジションを保有していない。