■成長戦略
1. 中期経営計画の方向性
2022年2月期よりエルテス (TYO:3967)は、新たな中期経営計画「The Road To 2024」をスタートさせた。
コロナ禍をきっかけにDX化への動きが加速するなかで、新たな事業機会を取り込むために、「AIセキュリティ事業」及び「DX推進事業」を創設し、事業構造の変革を進めていくことが最大のテーマとなっている。
これまで主戦場としてきたSNS炎上対策というニッチな成長領域に加え、新設セグメントでは成長率が高い領域、もしくは市場規模が大きい領域へ展開する方向性である。
3年×3期による9年の中長期を視野に入れており、1期目の3年間は「変革と基盤構築」に取り組み、2期目(2025年2月期)以降での「加速度的な成長サイクルの実現」を目指している。
また、成長の先に健全なデジタル社会の実現を見据え、メタバース×スマートシティによる独自の「メタシティ構想」を推し進める考えだ。
2. 対象市場の規模と成長性のイメージ
これまでの「SNS炎上対策」というニッチな成長領域に加え、高い成長性が期待でき、かつ市場規模も大きい「DX推進」「デジタルガバメント」「情報銀行」「デジタルGRC※」等の領域へ展開していく。
また、市場規模が巨大であり、DX化による変革余地も大きい「警備業界」への本格参入も目論んでいる。
1期目で構築した収益基盤を2期目以降で一気に成長軌道に乗せ、新たな事業領域において確実にシェア拡大を図るシナリオを描いている。
※リスクマネジメント(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)におけるDX化
3. メタシティ構想の推進
同社が提唱する、メタバース×スマートシティによる「メタシティ構想」とは、健全なデジタル社会を実現する、リアルとデジタルが融合した都市計画のことである。
すなわち、メタバース(仮想世界)上に構築したデジタルツイン※によって、デジタルとリアルを融合した次世代のAIセキュリティ(デジタルとリアルのリスクをシームレスに対策)を実現し、地域の安全を確保したうえで、リスクだけでなく、住民が豊かに暮らすための「コミュニケーション」「エネルギー」「エコロジー」といった領域へと拡充していく。
さらには、地域全体をネットワーク接続し、AI予測を活用するスマートシティへと昇華させることを目指している。
デジタルリスクやAIセキュリティ、スマートシティといった分野でこれまで培ってきたノウハウに加え、今回のバンズシティとの連携を通じたプロパティ・マネジメント事業への進出も、その足掛かりとして捉えることができる。
※リアル空間にある情報をIoTなどで収集し、そのデータを元にデジタル空間上で再現する技術のこと。
4. 数値目標
1期目の3ヶ年については売上高とEBITDAを財務目標として設定している。
最終年度となる2024年2月期までに売上高7,000百万円(3年間の平均成長率は52.1%)、EBITDA1,000百万円の達成を計画している。
コロナ禍の影響を鑑み、2023年2月期の売上高予想を一旦引き下げたものの、最終年度の数値目標に変更はない。
引き続き「デジタルリスク事業」を中核として、「AIセキュリティ事業」「DX推進事業」のいずれの事業も新たな収益基盤へと成長させる方針である。
5. 各事業の取り組み
(1) デジタルリスク事業
新プロダクトの開発とアライアンスの強化等により、圧倒的なNo.1企業を目指す方向性である。
また、達成に向けた戦略として、1) 「内部脅威検知サービス」を中心として、近接領域であるシステムインテグレーション領域も拡大、2) リスク管理にとどまらないサービスの多様化、3) 他領域の企業とのアライアンス、4) 既存プロダクトのアップデートなどに取り組む。
特に成長ドライバーについては、コロナ禍の影響を脱しない中小企業向けSaaSから、経済安全保障などが追い風となっている「内部脅威検知サービス」へと切り替えていく方針に転換している。
したがって、目標KPIについても、顧客企業数630社、「内部脅威検知サービス」の利用数200,000 IDに設定し直し、最終年度である2024年2月期の売上高4,200百万円(平均成長率34.0%)を目指す。
(2) AIセキュリティ事業
リアルな警備事業とのシナジー創出により、AIセキュリティによる警備業界の変革を目指す方向性である。
また、達成に向けた戦略として、1)警備業界を変革するためのデジタルプロダクトの創出、2)AIセキュリティによる次世代警備を業界スタンダードとするため、フィジカルな警備保障サービスの成長にも取り組む。
警備業界は3.5兆円規模の巨大産業であるが、そのうち約80%は中小零細企業が占めており、DX化による変革余地が大きい。
契約警備会社数2,000社とポスト数(常時1名を固定配置する場所)62,000ポストを目標KPIに掲げ、最終年度である2024年2月期の売上高2,200百万円(平均成長率121.2%)を目指す。
(3) DX推進事業
独自視点で行政・企業のDX推進を担う事業を立ち上げ、この分野のリーディングカンパニーを目指す方向性である。
また、達成に向けた戦略として、1)行政との連携によるDXプロダクト推進、2)自治体向けDXサービスでの経験を生かした企業向けプロダクトの推進などに取り組む。
特に、1)については、「デジタル田園都市国家構想」に歩調を合わせた地方のDX化の推進や、自治体DXを担う人財の教育・育成、派遣事業などが軸となっている。
連携行政数15自治体、顧客企業数30社を目標KPIに掲げ、最終年度である2024年2月期の売上高600百万円(平均成長率139.7%)を目指す。
6. 弊社アナリストの注目点
弊社でも、DX化への動きが加速するなかで、これまで積み上げてきた技術やノウハウを生かせる「デジタルガバメント」や「警備業界」への展開(事業変革)により、市場規模が大きく、高い成長率が見込める領域でユニークなポジションを確立し、成長加速を目指す戦略は理にかなっていると評価している。
言い換えれば、このチャンスを生かすことができるかどうかが、同社の方向性や将来性を占ううえで極めて重要な転機を迎えているとの見方ができる。
特に、この中期経営計画の3年間は同社がさらに飛躍するための基盤構築に取り組む期間とされていることから、足元業績の回復や伸びはもちろん、中長期目線で各事業の取り組みとその進捗をフォローしていく必要があろう。
その意味では、戦略的M&Aや業務提携等により、成長加速に向けて本格的に動き出してきたところは、外部・内部の両面で条件が整ってきたことが背景にあると捉えることができる。
単純なたし算や通常想定されるシナジー創出にとどまらず、同社ならではの新たな価値創造をいかに実現していくのか、独自の「メタシティ構想」の進展をはじめ、さらなる飛躍に期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
1. 中期経営計画の方向性
2022年2月期よりエルテス (TYO:3967)は、新たな中期経営計画「The Road To 2024」をスタートさせた。
コロナ禍をきっかけにDX化への動きが加速するなかで、新たな事業機会を取り込むために、「AIセキュリティ事業」及び「DX推進事業」を創設し、事業構造の変革を進めていくことが最大のテーマとなっている。
これまで主戦場としてきたSNS炎上対策というニッチな成長領域に加え、新設セグメントでは成長率が高い領域、もしくは市場規模が大きい領域へ展開する方向性である。
3年×3期による9年の中長期を視野に入れており、1期目の3年間は「変革と基盤構築」に取り組み、2期目(2025年2月期)以降での「加速度的な成長サイクルの実現」を目指している。
また、成長の先に健全なデジタル社会の実現を見据え、メタバース×スマートシティによる独自の「メタシティ構想」を推し進める考えだ。
2. 対象市場の規模と成長性のイメージ
これまでの「SNS炎上対策」というニッチな成長領域に加え、高い成長性が期待でき、かつ市場規模も大きい「DX推進」「デジタルガバメント」「情報銀行」「デジタルGRC※」等の領域へ展開していく。
また、市場規模が巨大であり、DX化による変革余地も大きい「警備業界」への本格参入も目論んでいる。
1期目で構築した収益基盤を2期目以降で一気に成長軌道に乗せ、新たな事業領域において確実にシェア拡大を図るシナリオを描いている。
※リスクマネジメント(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)におけるDX化
3. メタシティ構想の推進
同社が提唱する、メタバース×スマートシティによる「メタシティ構想」とは、健全なデジタル社会を実現する、リアルとデジタルが融合した都市計画のことである。
すなわち、メタバース(仮想世界)上に構築したデジタルツイン※によって、デジタルとリアルを融合した次世代のAIセキュリティ(デジタルとリアルのリスクをシームレスに対策)を実現し、地域の安全を確保したうえで、リスクだけでなく、住民が豊かに暮らすための「コミュニケーション」「エネルギー」「エコロジー」といった領域へと拡充していく。
さらには、地域全体をネットワーク接続し、AI予測を活用するスマートシティへと昇華させることを目指している。
デジタルリスクやAIセキュリティ、スマートシティといった分野でこれまで培ってきたノウハウに加え、今回のバンズシティとの連携を通じたプロパティ・マネジメント事業への進出も、その足掛かりとして捉えることができる。
※リアル空間にある情報をIoTなどで収集し、そのデータを元にデジタル空間上で再現する技術のこと。
4. 数値目標
1期目の3ヶ年については売上高とEBITDAを財務目標として設定している。
最終年度となる2024年2月期までに売上高7,000百万円(3年間の平均成長率は52.1%)、EBITDA1,000百万円の達成を計画している。
コロナ禍の影響を鑑み、2023年2月期の売上高予想を一旦引き下げたものの、最終年度の数値目標に変更はない。
引き続き「デジタルリスク事業」を中核として、「AIセキュリティ事業」「DX推進事業」のいずれの事業も新たな収益基盤へと成長させる方針である。
5. 各事業の取り組み
(1) デジタルリスク事業
新プロダクトの開発とアライアンスの強化等により、圧倒的なNo.1企業を目指す方向性である。
また、達成に向けた戦略として、1) 「内部脅威検知サービス」を中心として、近接領域であるシステムインテグレーション領域も拡大、2) リスク管理にとどまらないサービスの多様化、3) 他領域の企業とのアライアンス、4) 既存プロダクトのアップデートなどに取り組む。
特に成長ドライバーについては、コロナ禍の影響を脱しない中小企業向けSaaSから、経済安全保障などが追い風となっている「内部脅威検知サービス」へと切り替えていく方針に転換している。
したがって、目標KPIについても、顧客企業数630社、「内部脅威検知サービス」の利用数200,000 IDに設定し直し、最終年度である2024年2月期の売上高4,200百万円(平均成長率34.0%)を目指す。
(2) AIセキュリティ事業
リアルな警備事業とのシナジー創出により、AIセキュリティによる警備業界の変革を目指す方向性である。
また、達成に向けた戦略として、1)警備業界を変革するためのデジタルプロダクトの創出、2)AIセキュリティによる次世代警備を業界スタンダードとするため、フィジカルな警備保障サービスの成長にも取り組む。
警備業界は3.5兆円規模の巨大産業であるが、そのうち約80%は中小零細企業が占めており、DX化による変革余地が大きい。
契約警備会社数2,000社とポスト数(常時1名を固定配置する場所)62,000ポストを目標KPIに掲げ、最終年度である2024年2月期の売上高2,200百万円(平均成長率121.2%)を目指す。
(3) DX推進事業
独自視点で行政・企業のDX推進を担う事業を立ち上げ、この分野のリーディングカンパニーを目指す方向性である。
また、達成に向けた戦略として、1)行政との連携によるDXプロダクト推進、2)自治体向けDXサービスでの経験を生かした企業向けプロダクトの推進などに取り組む。
特に、1)については、「デジタル田園都市国家構想」に歩調を合わせた地方のDX化の推進や、自治体DXを担う人財の教育・育成、派遣事業などが軸となっている。
連携行政数15自治体、顧客企業数30社を目標KPIに掲げ、最終年度である2024年2月期の売上高600百万円(平均成長率139.7%)を目指す。
6. 弊社アナリストの注目点
弊社でも、DX化への動きが加速するなかで、これまで積み上げてきた技術やノウハウを生かせる「デジタルガバメント」や「警備業界」への展開(事業変革)により、市場規模が大きく、高い成長率が見込める領域でユニークなポジションを確立し、成長加速を目指す戦略は理にかなっていると評価している。
言い換えれば、このチャンスを生かすことができるかどうかが、同社の方向性や将来性を占ううえで極めて重要な転機を迎えているとの見方ができる。
特に、この中期経営計画の3年間は同社がさらに飛躍するための基盤構築に取り組む期間とされていることから、足元業績の回復や伸びはもちろん、中長期目線で各事業の取り組みとその進捗をフォローしていく必要があろう。
その意味では、戦略的M&Aや業務提携等により、成長加速に向けて本格的に動き出してきたところは、外部・内部の両面で条件が整ってきたことが背景にあると捉えることができる。
単純なたし算や通常想定されるシナジー創出にとどまらず、同社ならではの新たな価値創造をいかに実現していくのか、独自の「メタシティ構想」の進展をはじめ、さらなる飛躍に期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)