■クオールホールディングス (TYO:3034)の中長期の成長戦略と進捗状況
2. 保険薬局事業の成長戦略と進捗状況
保険薬局事業では、「戦略的出店による規模の拡大」と「薬局の価値創出」を基本戦略として成長を目指していく。
(1) 戦略的出店による規模の拡大
店舗数については自力出店で年間10~20店舗を行い、M&Aにより年間30~70店舗を獲得していくことで、1,000店舗を当面の目標としている。
当初は2023年3月期の到達を目標としていたが、コロナ禍の影響でM&Aのペースが鈍ったため、今のペースでいけば2025年3月期頃に到達するものと予想される(大型M&Aが実現すれば前倒しで達成する可能性もある)。
出店ターゲットとするエリアは、3大都市圏等人口の多いエリアが中心で、ドミナント出店により効率的な店舗数拡大を目指している。
M&Aについても同様で、主要都市部において地域連携を取りやすいところを対象に進めていく方針だ。
店舗形態としては、同社が強みとするマンツーマン薬局での出店を継続し、M&Aの対象についても同様となる。
異業種連携による新業態薬局の店舗数については、2022年3月末時点で44店舗となっている。
内訳は、ローソン協業店が36店舗、ビックカメラ内店舗が5店舗、無印良品内店舗が1店舗、駅ナカが2店舗である。
このうち、主力のローソン協業店については認知度の向上によって、収益力も向上しており、今後も在宅調剤事業を拡大するなかでの差別化戦略として注力していくことにしている。
具体的には、訪問服薬指導と合わせて一般用医薬品やその他の商品を顧客の注文に応じて配送する移動販売サービスを有料老人ホーム等の高齢者施設に向けて開始しており、同サービスを拡大していく。
利用客にとっては医薬品と合わせて、日用品等もまとめて購入できることから利便性が高く、競合他社との差別化要因となる。
また、無印良品店舗内での「まちの保健室」での出店は、地域密着型店舗として特色を出した店舗となっており、2022年4月に2店舗目を出店するなど、今後もニーズを見ながら増やしていく考えだ。
調剤薬局業界では、2020年から解禁されたオンライン服薬指導や2021年8月より導入された機能別認定制度に加えて、2023年からは電子処方箋の運用も開始される予定となっている。
今後、薬局運営においてもDX化が一層求められる一方、こうした体制を構築していくためには一定規模以上の資金力が必要となり、大手企業による寡占化が進むと見られている根拠の1つとなっている。
また、調剤薬局は全国に約6.0万店舗あり、市場規模としては2020年度で約7.5兆円の規模となっているが、2015年度から2020年度までの年平均成長率を見ると、薬局数が0.9%増と若干ながらも増え続けているのに対して、調剤医療費については同0.9%減と微減傾向となっている。
市場が成熟化しているなかで、大手調剤薬局は自力出店やM&Aによって店舗数を拡大することで売上成長を続けている。
同社もそのうちの1社で、2015年度からの5年平均成長率を見ると、調剤売上高で6.4%、店舗数で8.7%と業界全体を大きく上回っている。
現状、調剤薬局市場で上位10社の売上合計が1.4兆円程度であり、市場シェアに換算すると約19%の水準にとどまっている。
ドラッグストア業界が業界再編により上位10社で70%以上のシェアを占めていることを考えれば、調剤薬局業界は今後もより一層寡占化が進んでいく可能性が高く、同社が自力出店だけでなくM&Aを活用しながら出店を拡大していく戦略は理に適っており、中期的に店舗数拡大によって持続的な成長を実現していくことは可能と弊社では考えている。
なお、M&Aの基準について同社は売上規模やシナジー効果の有無等、社内で厳格な基準を定めて可否を判断するようにしている。
(2) 薬局の価値創出
同社では「薬局の価値創出」に向けた取り組みとして、国民から求められる質の高い薬局づくりを展開してきた。
前述の通り「健康サポート薬局」については2022年3月時点で159店舗が認定され、2021年8月から制度が導入された「地域連携薬局」は146店舗、「専門医療機関連携薬局」は9店舗が認定されており、今後も順次認定に向けた申請を行っていく予定にしている。
また、同社は2022年度も重点施策として在宅調剤事業の強化とDXの推進に取り組んでいく方針となっている。
厚生労働省の資料によれば、現在の在宅調剤の市場規模は約3,100億円、利用者数で29万人と推計されている。
調剤市場全体に占める比率は4%強だが、団塊の世代が75歳を迎える2025年以降は「地域包括ケアシステム」により在宅での医療・介護サービスの一段の需要拡大が見込まれている。
こうした環境下において、在宅調剤の市場は今後高成長が続くものと予想される。
現在の在宅調剤の9割弱は特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホーム等の施設となっているが、在宅調剤加算の条件として個人宅向けの訪問服薬指導も求められており、今後は施設向けだけでなく個人宅向けにも注力すべく、2021年4月に在宅推進本部を立ち上げて各種取り組みを推進している。
具体的には、在宅調剤における差別化戦略として最新の調剤機器の導入・活用、誤薬防止対策としてのバーコード管理の導入、感染対策支援、在宅調剤特化型店舗、栄養管理士による栄養サポート等、安全性・利便性の高いサポート等の取り組みを推進している。
また、前述した移動販売サービスもその1つとなる。
在宅調剤の売上目標としては2024年3月期に100億円を掲げているが、中期的に高成長が期待できる市場として注目される。
一方、もう1つの重点施策として取り組んでいる「DXの推進」では、薬局内でのIT活用による業務効率化だけでなく、利用客の待ち時間短縮や利便性向上につながる取り組み等も推進している。
オンライン服薬指導に関しては、2020年9月に全店で対応できるようにする等、業界のなかでも積極的に導入を推進してきた。
また、新たな取り組みとして2022年2月と3月にドローンを使って医薬品の配送を行う実証実験を広島県江田島市、愛媛県今治市でそれぞれ実施した。
実証実験では技術的な問題もなくスムーズに配送ができたようで、将来的には離島等、通常の配送が困難な地域への配送手段として活用していく可能性がある。
さらに、2022年4月よりLINEの公式アカウントを使った処方箋予約受付サービスも開始した。
ユーザーは公式アカウントから店舗を指定して処方箋を送信すれば、店舗から薬の準備が完了次第、連絡が届く仕組みとなっている。
ユーザーにとっては薬を受け取るための待ち時間が短縮できるほか、LINEを使った服薬サポート、お薬手帳の確認なども可能となり、利便性の向上につながる。
同業他社もすでに取り組んでいることから、目新しさはないものの薬局の価値向上につながる取り組みとして評価される。
また、同社は300万人以上のクオールカード会員数を保有しており、これら会員基盤のビッグデータを活用してQOL向上に貢献する新たなサービスの創出にも取り組んでおり、差別化戦略によりシェアの更なる拡大を目指していく考えだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
2. 保険薬局事業の成長戦略と進捗状況
保険薬局事業では、「戦略的出店による規模の拡大」と「薬局の価値創出」を基本戦略として成長を目指していく。
(1) 戦略的出店による規模の拡大
店舗数については自力出店で年間10~20店舗を行い、M&Aにより年間30~70店舗を獲得していくことで、1,000店舗を当面の目標としている。
当初は2023年3月期の到達を目標としていたが、コロナ禍の影響でM&Aのペースが鈍ったため、今のペースでいけば2025年3月期頃に到達するものと予想される(大型M&Aが実現すれば前倒しで達成する可能性もある)。
出店ターゲットとするエリアは、3大都市圏等人口の多いエリアが中心で、ドミナント出店により効率的な店舗数拡大を目指している。
M&Aについても同様で、主要都市部において地域連携を取りやすいところを対象に進めていく方針だ。
店舗形態としては、同社が強みとするマンツーマン薬局での出店を継続し、M&Aの対象についても同様となる。
異業種連携による新業態薬局の店舗数については、2022年3月末時点で44店舗となっている。
内訳は、ローソン協業店が36店舗、ビックカメラ内店舗が5店舗、無印良品内店舗が1店舗、駅ナカが2店舗である。
このうち、主力のローソン協業店については認知度の向上によって、収益力も向上しており、今後も在宅調剤事業を拡大するなかでの差別化戦略として注力していくことにしている。
具体的には、訪問服薬指導と合わせて一般用医薬品やその他の商品を顧客の注文に応じて配送する移動販売サービスを有料老人ホーム等の高齢者施設に向けて開始しており、同サービスを拡大していく。
利用客にとっては医薬品と合わせて、日用品等もまとめて購入できることから利便性が高く、競合他社との差別化要因となる。
また、無印良品店舗内での「まちの保健室」での出店は、地域密着型店舗として特色を出した店舗となっており、2022年4月に2店舗目を出店するなど、今後もニーズを見ながら増やしていく考えだ。
調剤薬局業界では、2020年から解禁されたオンライン服薬指導や2021年8月より導入された機能別認定制度に加えて、2023年からは電子処方箋の運用も開始される予定となっている。
今後、薬局運営においてもDX化が一層求められる一方、こうした体制を構築していくためには一定規模以上の資金力が必要となり、大手企業による寡占化が進むと見られている根拠の1つとなっている。
また、調剤薬局は全国に約6.0万店舗あり、市場規模としては2020年度で約7.5兆円の規模となっているが、2015年度から2020年度までの年平均成長率を見ると、薬局数が0.9%増と若干ながらも増え続けているのに対して、調剤医療費については同0.9%減と微減傾向となっている。
市場が成熟化しているなかで、大手調剤薬局は自力出店やM&Aによって店舗数を拡大することで売上成長を続けている。
同社もそのうちの1社で、2015年度からの5年平均成長率を見ると、調剤売上高で6.4%、店舗数で8.7%と業界全体を大きく上回っている。
現状、調剤薬局市場で上位10社の売上合計が1.4兆円程度であり、市場シェアに換算すると約19%の水準にとどまっている。
ドラッグストア業界が業界再編により上位10社で70%以上のシェアを占めていることを考えれば、調剤薬局業界は今後もより一層寡占化が進んでいく可能性が高く、同社が自力出店だけでなくM&Aを活用しながら出店を拡大していく戦略は理に適っており、中期的に店舗数拡大によって持続的な成長を実現していくことは可能と弊社では考えている。
なお、M&Aの基準について同社は売上規模やシナジー効果の有無等、社内で厳格な基準を定めて可否を判断するようにしている。
(2) 薬局の価値創出
同社では「薬局の価値創出」に向けた取り組みとして、国民から求められる質の高い薬局づくりを展開してきた。
前述の通り「健康サポート薬局」については2022年3月時点で159店舗が認定され、2021年8月から制度が導入された「地域連携薬局」は146店舗、「専門医療機関連携薬局」は9店舗が認定されており、今後も順次認定に向けた申請を行っていく予定にしている。
また、同社は2022年度も重点施策として在宅調剤事業の強化とDXの推進に取り組んでいく方針となっている。
厚生労働省の資料によれば、現在の在宅調剤の市場規模は約3,100億円、利用者数で29万人と推計されている。
調剤市場全体に占める比率は4%強だが、団塊の世代が75歳を迎える2025年以降は「地域包括ケアシステム」により在宅での医療・介護サービスの一段の需要拡大が見込まれている。
こうした環境下において、在宅調剤の市場は今後高成長が続くものと予想される。
現在の在宅調剤の9割弱は特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホーム等の施設となっているが、在宅調剤加算の条件として個人宅向けの訪問服薬指導も求められており、今後は施設向けだけでなく個人宅向けにも注力すべく、2021年4月に在宅推進本部を立ち上げて各種取り組みを推進している。
具体的には、在宅調剤における差別化戦略として最新の調剤機器の導入・活用、誤薬防止対策としてのバーコード管理の導入、感染対策支援、在宅調剤特化型店舗、栄養管理士による栄養サポート等、安全性・利便性の高いサポート等の取り組みを推進している。
また、前述した移動販売サービスもその1つとなる。
在宅調剤の売上目標としては2024年3月期に100億円を掲げているが、中期的に高成長が期待できる市場として注目される。
一方、もう1つの重点施策として取り組んでいる「DXの推進」では、薬局内でのIT活用による業務効率化だけでなく、利用客の待ち時間短縮や利便性向上につながる取り組み等も推進している。
オンライン服薬指導に関しては、2020年9月に全店で対応できるようにする等、業界のなかでも積極的に導入を推進してきた。
また、新たな取り組みとして2022年2月と3月にドローンを使って医薬品の配送を行う実証実験を広島県江田島市、愛媛県今治市でそれぞれ実施した。
実証実験では技術的な問題もなくスムーズに配送ができたようで、将来的には離島等、通常の配送が困難な地域への配送手段として活用していく可能性がある。
さらに、2022年4月よりLINEの公式アカウントを使った処方箋予約受付サービスも開始した。
ユーザーは公式アカウントから店舗を指定して処方箋を送信すれば、店舗から薬の準備が完了次第、連絡が届く仕組みとなっている。
ユーザーにとっては薬を受け取るための待ち時間が短縮できるほか、LINEを使った服薬サポート、お薬手帳の確認なども可能となり、利便性の向上につながる。
同業他社もすでに取り組んでいることから、目新しさはないものの薬局の価値向上につながる取り組みとして評価される。
また、同社は300万人以上のクオールカード会員数を保有しており、これら会員基盤のビッグデータを活用してQOL向上に貢献する新たなサービスの創出にも取り組んでおり、差別化戦略によりシェアの更なる拡大を目指していく考えだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)