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焦点:牛肉はどこへ、BBQの伝統と森林保護の両立に悩むブラジル

発行済 2022-09-12 11:54
更新済 2022-09-12 12:01

[リオデジャネイロ 5日 トムソン・ロイター財団] - ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領は、10月投票の大統領選挙で現職のジャイル・ボルソナロ大統領を打倒すべく、比較的穏健な公約を多数掲げている。その中で異彩を放っているのが「牛肉を取り戻す」だ。

インフレが進行し所得が目減りする中で、ブラジルでは牛肉が貴重なものになりつつある。同国で長年バーベキューに不可欠だったジューシーな牛肉を含め、食料へのアクセス確保は、選挙戦における重要なテーマになっている。

ルラ候補は5月にツイッターに「またピカーニャ(牛肉の人気部位)、リブロースを食べられるようになり、バーベキューが復活するだろう」と投稿した。その後の選挙運動でも、同じ公約を繰り返している。

だがブラジルの畜牛は、近年アマゾンの熱帯雨林を伐採して作られた牧草地で育つ傾向が強まっており、左派のルラ候補が牛肉復活を掲げることは、「急速に姿を消しつつあるブラジルの熱帯雨林の破壊をストップする」という、選挙運動におけるもう1つの重要な公約と矛盾するとの見方もある。

農業・環境分野の専門家らによれば、2つの選挙公約の双方を実現するには、畜産に利用される土地の生産性を大幅に上げ、森林破壊に依拠して生産される牛肉の購入をもっと困難にする必要があるという。

農業研究機関による国際コンソーシアムである国際農業研究協議グループ(CGIAR)のシニロ・コスタ・ジュニオール氏は、「ブラジルにおける牛の畜産は非常に効率が悪く、結果的に、アマゾンなど土地コストが安い場所で展開されている」と指摘。その上で、「生産性を上げれば、(牛肉の)価格を下げ、入手しやすくすることもできるだろう」と語った。

世界的には、牛肉消費量の削減が気候変動を食い止める重要な方法だと考えられている。牛肉の生産は、他の多くの食品に比べてはるかに多くの地球温暖化ガスを排出するからだ。

だが、アルゼンチンと同様に牛肉重視の食文化を持つブラジルでは、環境のためのバーベキュー自粛という呼びかけが勢いを増してきたのは、ようやく最近になってからだ。

ブラジル世論統計研究所が2018年に行った調査では、回答したブラジル人のうち、完全な、あるいは部分的なベジタリアン(菜食主義者)であると答えたのは約14%で、2012年の調査時の8%からかなり増えている。

一方で、調査対象とした2000人のうち66%は「何らかの意味でベジタリアンである」という設問に、「まったく同意しない」と答えている。

ブラジル菜食主義協会のリカルド・ラウリノ総裁は、「最大のハードルは社会的な伝統」であり、バーベキューは「ブラジル文化の特徴」になっていると語る。

<牛肉はどこに行った>

ブラジル政府の統計では、価格の上昇が続く中で、今年の牛肉消費量は1人当たり年間約25キロと、記録を開始した1996年以来で最低の水準になると予想されている。

これは米国における2019年の消費量1人当たり約38キロに比べれば大幅に少ないものの、国連食糧農業機関(FAO)による全世界の平均消費量約9キロに比べれば2倍以上だ。

ブラジルの牛肉消費量はいくつかの要因に左右される。たとえば、中国における需要拡大を受けて輸出量が過去最高となっていること(ブラジルは世界第2位の牛肉輸出国である)、またブラジルが生活コスト危機への対応に苦慮する一方で貧困問題が悪化していることなどだ。

2021年11月から2022年4月にかけて1万2000世帯以上を対象に国が実施した食料不安に関する調査では、ほぼ40%の世帯が、調査に先立つ3カ月間でまったく肉を購入していないことが分かった。

「我々の稼ぎではピカーニャなど食べられない。とても無理だ」と語るのは、リオデジャネイロ近郊のマドゥレイラにある肉屋から出てきたウォラス・アルベスさん。勤務先はトイレットペーパー製造工場だ。

<カネ目当ての森林破壊>

ブラジル国内における過去20年間の畜牛頭数の増加分のうち、94%を占めるのがアマゾン川流域の各州だ。ブラジル地理統計院(IBGE)のデータによれば、国内の畜牛2億1800万頭のうち、現在9300万頭がアマゾン川流域で飼われている。

「この30年間、牧草地拡大の主な舞台はアマゾンだった」と語るのは、ゴイアス連邦大学のラエルテ・フェレイラ教授。

だがアマゾンでの牧場経営は、低い生産性に悩まされている。牧草地の保護や生産性向上の努力をほとんどしていない農家が多いからだ。

その代わりに、畜産のためにたえず新たな森林が伐採されている。研究者らは、これが右派ボルソナロ大統領のもとでアマゾンの森林破壊が急拡大した一因になっているとの見方を示した。

ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)は今週、アマゾンにおける火災による高熱地点(ホットスポット)の数が8月に過去10数年で最高の水準に達したと発表した。連邦法で禁じられてはいるが、森林を牧草地に変えるための最も一般的な方法が、木々を焼き払うことだ。

米国・ブラジル両国政府のデータによれば、ブラジルの畜牛頭数は米国の2.4倍だが、昨年の牛肉生産量は米国の60%にとどまっている。

研究機関イマゾンが昨年発表したところでは、ブラジル全国の牧草地における平均的な牛肉の生産性は、その潜在能力の約3分の1にとどまっており、アマゾン地域ではさらに低い30%とされる。

専門家によれば、生産性が低い理由は主として牧場運営手法にあり、肥料の利用のほか、土壌の肥沃さを改善するために牧畜と作物の栽培を交互に行うといった手法が広い範囲で避けられているためだという。結果的に、牧草地の生産性は急速に悪化して畜牛の飼育に向かなくなってしまう。

イマゾンは2021年の調査で「農家(あるいはその後継者)は、牧草地の質の維持や劣化した牧草地の再生ではなく、新たな地域の森林を伐採している」と指摘した。

非営利団体(NPO)マップバイオマスのデータに基づくイマゾンの分析によると、ブラジルのアマゾン地域では、1985年から2020年にかけて伐採された面積の86%が牧草地だった。

アマゾン地域の保護活動家は、森林伐採のほとんどが違法だと話しており、所有する土地で法律で認められている以上の森林伐採を行った牧場主に関する報告が無数にあると指摘している。

また「グリレイロス(土地強奪者)」は、公有地に狙いを定めて占有・森林伐採を行い、その土地が「生産的に」利用されるようになったことを根拠の1つとして私有権の認定を申請した上で、最終的には大豆農家や牧場主に転売している。

いくつかの連邦法や州法では、アマゾンで違法に占有された公有地について、過去にさかのぼって民有化を認めることが可能となっている。

世界自然保護基金(WWF)が共同執筆者となっている研究では、2008年から2020年までにアマゾン及び「セラード」と呼ばれるサバンナ地帯における森林伐採の94%が違法であったとされている。

だが、ブラジル農業省で持続可能生産・かんがい部門でディレクターを務めるファビアナ・ビラ・アルベス氏は、新たに森林伐採された土地で少数の畜牛を放牧することは「生産目的ではなく、その場所の占有が合法的だと見せかけるためのごまかしであり、犯罪だ」と言う。

<拡張よりも生産性向上を>

イマゾンの試算では、アマゾンにおける牧畜の生産性が低いため、政府の牛肉生産目標を達成するには、2030年まで毎年63万4000─100万ヘクタールの森林を伐採し、牧草地として利用する必要があることが示された。

だが、やはりイマゾンの試算によれば、その代わりに疲弊した土地を年間17万─29万ヘクタール再生して牧草地として利用すれば、生産目標を達成できる。これはアマゾンにおける牧草地の1%にも満たない面積だ。

ルラ候補の選挙運動を支援している元閣僚のテレーザ・キャンペロセルト氏は、低炭素化プロジェクト向けに補助金を提供する政府の「ABC+計画」を利用して牧草地を再生すれば、国内での牛肉供給を拡大し、価格を引き下げられる可能性があると語る。

政府は、「ABC+計画」を通じて2010年から2020年にかけて全国で2700万ヘクタールの牧草地を再生し、以前より肥沃にしたと発表した。

しかし、このデータはゴイアス連邦大学の研究に基づくもので、この研究では、こうして土壌改良された土地の大半はアマゾン地域以外に所在することが分かっている。

非営利団体IPAMアマゾニアの研究者、マルセロ・スタビレ氏は、政府は生産性の向上だけでなく、畜牛のための牧草地拡大がアマゾン熱帯雨林を犠牲にすることがないような政策を立法化すべきだと話している。

© Reuters.  インフレが進行し所得が目減りする中で、ブラジルでは牛肉が貴重なものになりつつある。写真は2021年8月、ブラジル・パラ州Tailandia で撮影した牛(2022年 ロイター/Pilar Olivares)

スタビレ氏によれば、もっと多くの企業が「違法な森林伐採を行った地域で生産された畜牛や牛肉を購入しない」と宣言すべきであり、国としても、現在ほとんどがアマゾンに分布する5600万ヘクタール以上の用途未指定の公有地について、どのような利用が望ましいかを指定すべきだという。

これによって、そうした地域への農地拡大が制限され、土地価格が上昇し、「他地域への拡張よりも生産性の向上への関心が高まる」ことにつながる、というのがスタビレ氏の主張だ。

(Andre Cabette Fabio記者、翻訳:エァクレーレン)

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