[アンカラ/キーウ(キエフ) 2日 ロイター] - ロシア政府は2日、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意への復帰を表明した。仲介したトルコのエルドアン大統領によると、合意に基づく穀物輸送はこの日正午から再開する。ただ、19日の期限を前にロシアが駆け引きの道具に使うとの懸念は依然として残る。
ロシア国防省は声明で「現時点での保証は十分であると考え、協定の履行を再開する」と表明した。国連とトルコの関与により、人道的回廊とウクライナの港をロシアへの攻撃に使用しないという書面による保証をウクライナから得たとしている。
ロシアは10月29日、穀物輸出合意への参加を停止した。
しかし、ウクライナからの穀物輸出が止まることはなかった。トルコと国連は数日間、ロシア抜きでウクライナの穀物輸出を継続。その後、ロシアが突然翻意した。
ロシア国防省は、ウクライナ政府から穀物回廊を対ロシア軍事作戦に使用しないとの保証を得たとし、復帰の理由とした。ウクライナ側はそれについてコメントしていないが、過去に穀物回廊を攻撃の隠れみのに使ったことは否定している。
トルコのエルドアン大統領は演説で「穀物輸送は、今日午後0時時点で以前の合意通りに継続される」と述べた。
この発表を受け、小麦や大豆、トウモロコシ、菜種の価格は世界的に急落。食糧難が深刻化する懸念は緩和された。
一方、英ロイズ保険組合の保険会社アスコットはロイターに対し、一時停止していた貨物輸送向けの新規保険契約を再開したと述べた。
消費者産業向けの財務アドバイザリーを手掛けるOghma Partnersのパートナー、マーク・リンチ氏は「穀物の購入者や消費者にとって前向きな展開であり、食品業界にとっても歓迎すべき展開だ」と評価しながらも、「合意は脆弱でウクライナ戦争も継続しているため、ある程度のリスクプレミアムが継続する可能性は想定している」と述べた。
<将来にはまだ疑問残る>
ロシアに特化した農業コンサルタント会社Soveconの代表、アンドレイ・シゾフ氏は、ロシアの決定について「これはかなり予想外の展開だ」と指摘。「それでもこの合意はまだ不安定で、延長されるかは依然として推測の域を出ていない。期限まであと2週間、駆け引きは続きそうだ」と述べた。
合意は11月19日に期限切れとなる。事情に詳しい欧州外交官はロイターに対し、ロシアのプーチン大統領は来月インドネシアで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で優位に立つための手段として利用する可能性が高いと述べた。
プーチン大統領は2日、ロシアはトルコの仲介で復帰した穀物輸出合意から再び離脱する権利を有していると述べた。ただ、離脱してもウクライナからトルコへの穀物輸送を妨げることはないとした。
一方、ドイツのベーアボック外相は、これはロシアの要求に対し毅然とした態度で臨むことの重要性を示していると指摘。独メディアに「国際秩序を信じる人々が苦境にあっても団結し、ロシアの脅迫を許さないことが、いかに重要であるかを表している」と語った。
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問も2日、ロシアの合意復帰について、ロシアの「脅し」が失敗に終わったことが浮き彫りになったという認識を示した。
国連のグテレス事務総長はロシアの復帰を「温かく歓迎」し、延長に向けて引き続き取り組むとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、トルコと国連の協力によりウクライナからの穀物輸出継続が可能になったと謝意を表明。その上で、穀物回廊には長期的な防衛が必要であり、それを阻害しようとするロシアのいかなる試みにも各国は断固として対応すべきだと訴えた。
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