[リヤド 4日 ロイター] - サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子は今週予定する習近平・中国国家主席のサウジ訪問の機をとらえ、中東における指導者としての地位を固めるとともに、米国に距離を置く独自の外交路線を示そうとしている。
折しも米国とサウジの関係は細心の注意が必要な状況にあり、こうしたタイミングでの習氏のサウジ訪問から、米国の西側同盟国の意向に流されず、二極化した世界秩序を乗り切るというサウジの決意が読み取れる。
ムハンマド氏は2018年のサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏殺害への関与が疑われたが、その後国際舞台に復帰。米国からのエネルギー政策への怒り、ロシアの孤立化を助けよとの圧力に屈しない態度をとってきた。
ムハンマド氏はアラブ世界の意欲的なリーダーとしての力を見せつけるべく、習氏のサウジ訪問に合わせて中国・アラブ首脳会議も開催する。
調査会社ユーラシア・グループの中東・北アフリカ部門を統括するアイハイム・カメル氏は「サウジは、今や経済的に不可欠なパートナーである中国を受け入れざるを得ないという戦略的な計算に従って動いている」と話す。
アナリストによると、湾岸諸国は安全保障を米国に依存しており、米国は依然として最良のパートナーだ。しかしサウジの生命線である炭素の利用を縮小する動きが世界的に進む中、サウジは国家規模の経済改革に資する外交政策を模索しているという。
「中国との関係拡大が裏目に出て、米国とサウジの関係が(さらに)悪化するリスクは確かにあるが、ムハンマド氏が意地になってこうした政策を押し進めているわけではない」とカメル氏は指摘する。
ムハンマド氏は3月にアトランティック誌に対して、バイデン米大統領から誤解されているかどうかは気にしていないと述べ、バイデン氏は米国の利益に重点を置くべきだと強調、サウジの人権問題を巡る米国の批判に苛立ちを示した。
サウジの国営通信(SPA)も3月、ムハンマド氏が米国との関係強化を目指す考えを示す一方、サウジには対米投資を減らすという選択肢もあり得ると示唆したと報じた。
バイデン政権下の米国とサウジは、人権問題やイエメン内戦を巡って元々緊迫していたが、ウクライナ戦争や石油輸出国機構(OPEC)プラスの石油政策によって軋みが一段と大きくなっている。
一方、サウジは中国との経済的な結びつきを深めている。中国にとって、サウジは最大の石油サプライヤーだ。
<豪華な歓迎会>
中東の外交筋によると、サウジを訪問する習氏の歓迎会は2017年にトランプ米大統領がサウジを訪問した際に匹敵する豪華なものになり、サウジとの関係修復を目指した7月のバイデン氏の気まずいサウジ訪問とは対照的となる見通しだ。
トランプ氏はファンファーレが鳴り響く中、空港でサルマン国王の出迎えを受け、米国の軍事産業向けに1000億ドル以上の契約を取り付けた。一方、カショギ氏殺害事件を巡ってサウジを社会的な「のけ者」にすると発言したことがあるバイデン氏は、サウジ訪問時にムハンマド皇太子と握手をせず、拳を突き合わせてあいさつしただけだった。
外交筋によると、中国の代表団はサウジや他のアラブ諸国とエネルギー、安全保障、投資に関する数十件の協定に署名する予定。
サウジと中東湾岸の同盟国は、ロシアや中国との関係に対して米国が懸念を抱いても、経済や安全保障上の利益のためにパートナーシップの多様化を継続する方針を示している。
ムハンマド氏はサウジが多くの大国にとって重要だということを自国民に示したいのだろうと、アトランティック・カウンシルの非常勤シニアフェロー、ジョナサン・フルトンは見ている。「おそらく米国にもメッセージを送っているのだろうが、自国の国民がどう受け止めているのかをより気にしているのではないか」という。
<複雑な関係>
ホワイトハウスの米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11月30日の記者会見で、サウジとの「戦略的」関係が「われわれの最善の利益に」かなっていることを確認したいと述べた。
米政府高官は、習氏のサウジ訪問を前にサウジと中国の2国間関係について質問を受けたが回答を避けた。
サウジと中国の関係は、対米国と比べて「はるかに急速に」拡大しているように見えるが、実際の関係は比較にならないと、ワシントンの戦略国際問題研究所で中東プログラムを担当するジョン・アルターマン氏は話す。「サウジの中国との関係は、複雑さと親密さの両面で、米国に比べて見劣りする」と語る。
(Aziz El Yaakoubi記者)