[リマ 18日 ロイター] - 農民のレオポルド・ウアマニさん(60)は、ペルーの南部・チャルウアンカから3日間かけて首都・リマにやって来た。そして、反逆容疑で逮捕・拘束されたカスティジョ前大統領を支援するデモに加わった。
ウアマニさんはカスティジョ氏が心を寄せようとした、地方に住む、社会から取り残された「忘れられた人々」の1人。カスティジョ氏の試みは実を結ばないことが多かったが、にもかかわらずカスティジョ氏逮捕でこうした人々の怒りに火が付き、不安定な新政権や非難の的である議会は、危機に直面している。
ペルーは過去5年間で6人の大統領が登場するなど、この数年、政局が混迷。有権者の怒りが噴火寸前になっていた。過去の指導者のほとんどは、汚職のために収監されるか捜査を受けている。
この2週間で状況は爆発的に悪化した。7日にカスティジョ氏が弾劾回避のため国会を無理やり解散しようとして罷免されると、その数時間後にデモ隊は高速道路を封鎖し、建物に火を放ち、空港を占拠。少なくとも18人が死亡した。
デモ参加者にはカスティジョ氏支持者もいれば、単に怒っているだけの者もいる。しかし、多くが政治指導者に無視されていると感じていると心情を語った。元教師で農民の息子のカスティジョ氏は問題が多かったが、それでも少なくとも自分たちの側に立っていたという。
「もう私のことを考えてくれる人は、いなくなった」と嘆くウアマニさんは、デモ参加者に死者が出たことについて、議会とボルアルテ新大統領を非難した。ウアマニさんのような人々の多くがボルアルテ氏を「殺人者」と呼び、辞任を求める横断幕を掲げている。
警察と軍隊は、殺傷力のある銃器を使用し、ヘリコプターから発煙筒を投下したとして、人権団体から非難を浴びている。軍によると、デモ参加者にはアンデス地方南部からやって来た人々が多く、手製の武器や爆発物が使われているという。
ペルー初の女性大統領でアンデス先住民族のケチュア語に堪能なボルアルテ氏は、冷静になるよう呼びかけ、選挙の前倒し実施を議会に求めるとともに、辞任を拒否している。
ウアマニさんは「ボルアルテ氏は死者を代表しているだけだ」と言い切る。「私たちは貧しい人々が権力を握る革命を求めて、自分たちと同じ質素な、農村の教師を選んだ」とカスティジョ氏を支持する心情を述べた。
<ネズミの巣窟>
カスティジョ氏は、現状とリマを根城とする腐敗した政治エリートにうんざりしている地方有権者からの支持の波に乗り、昨年の大統領で下馬評を覆して勝利した。
カスティジョ氏は刑務所からの手紙で「私はペルー奥地の忘れられた人々、200年余りも放置され、奪われてきた人々に選ばれた」と訴えた。反逆容疑の捜査を受け、拘束されているが、容疑を否認している。
政治家としては素人だったカスティジョ氏は、憲法を改正し、銅が生む膨大な富を再分配し、社会から疎外された先住民族に実権を与えるとの公約掲げ、支持を得た。だが、これらの公約の多くは実現せず、罷免される前には既に支持に陰りが出ていた。
カスティジョ氏とその側近は、相次いで汚職容疑で捜査を受け、カスティジョ政権はわずか1年5カ月の間に何度も内閣改造を行い、閣僚が80人余りも交代した。
しかし、カスティジョ氏逮捕で人々の失望は一部が帳消しになった。森林地帯や山間部、農村部から何百人もの人々がリマに押し寄せ、カスティジョ氏が拘留されている刑務所などに集結した。
カスティジョ氏を支持するメリナ・チャベスさんは「国民は立ち上がり、投票を守るだろう」と述べ、怒りの矛先を議員に向ける。「議会はカスティジョ氏に仕事をさせなかった」と訴えた。
カスティジョ氏は社会主義政党のペルー・リブレ(自由ペルー)から立候補したが、その後、右派にシフト。3回も弾劾を受けた。
それでも国民の多くは政治的混乱の責任は、議会にあると考えている。世論調査会社・データムによると、議会の支持率はわずか11%。カスティジョ氏の罷免前の支持率は24%だった。
最近の世論調査では国民の約44%が、カスティジョ氏が憲法の規定を逸脱して議会を解散させようとしたことを支持すると回答した。
リマの刑務所近くでカスティジョ氏支持の抗議行動を行っていたカテリナ・アストさんが、かぶっている白い帽子には「議会を閉鎖せよ。ネズミの巣窟だ」というスローガンが書かれていた。
(Alexander Villegas記者、Marco Aquino記者)