[東京 19日 ロイター] - サントリーホールディングス傘下の上場企業、サントリー食品インターナショナルの次期社長に就任予定の小野真紀子氏は、自らのキャリアにおいて自身の性別はそれほど意識してこなかった。同社初の女性社長就任についても「たまたま女性だった」とし、「女性だけに限らず、多様性のある人を全員が受け入れていくことが重要だ」と語る。
大学でポルトガル語を専攻した小野氏は「グローバルな仕事」をしたいと、東京銀行(現三菱UFJ銀行)やソニーへの就職も考えたが、入社2-3年目くらいの女性が説明会を仕切っていたのを見て「ほかの会社でありえない」とサントリー(当時)への入社を決めた。
入社後、最初に配属されたのは買収を手掛けるチームだった。当時のサントリーは海外展開を始めたばかり。小野氏が関わったフランス・ボルドーにあるワイン醸造所の買収はサントリーにとって2件目となる案件だった。
4人チームの体制で、財務、経理、研究、製造などの部署と関わり、社内のネットワークができた。小野氏は「この時の経験がキャリアを積み重ねていくうえでの強いベースとなった」とロイターとのインタビューで語った。
小野氏は、2009年に買収した飲料会社の仏オランジーナ・シュウェップス・グループ(現サントリー食品フランス)社長やサントリーHDのグローバル人事部長なども歴任、国際部門での経歴も長い。
グローバル人事部長時代は、現地で採用した人材の日本勤務を可能にする制度を作った。海外法人では規模が小さくキャリアパスが限られるとの認識が背景だ。海外社員へ登用の機会を与えるだけではなく、日本人社員の意識変革にもつながったという。当時、外国人社員はまれで、ゴミ箱に英語の表示を付けることから始まった。小野氏は「海外の会社を買収することだけがグローバル化ではない」と語る。
<時価総額1兆円超で初>
サントリーHDによると、小野氏は時価総額1兆円超の日本企業では初の女性トップとなる。東京商工リサーチの調べでは、今年6月30日時点で東証プライム市場に上場する1802社のうち、女性社長は16社で1%に満たない。
政府が6月に公表した男女共同参画白書(22年版)によると、女性の管理職の比率は13.2%(21年)と、女性の社会進出が進む中で近年上昇しているものの、米国の41.1%やフランスの34.2%には到底及ばない。
日本総合研究所の小島明子研究員は「サントリーのような製造業では女性の管理職がそもそも少ない。そういった業種の中でトップが出てくると言うことは非常にインパクトが大きい」と指摘する。
女性トップを輩出する一方、サントリーHDの女性管理職比率は21年末で13%(サントリー食品は6.8%)と30年の目標値である30%には隔たりがある。小野氏は、同社の女性社員の産休からの仕事復帰率は100%になると指摘、こうした女性社員がさらに活躍していけば、30%の達成は可能とみる。
小野氏は、自身の経験について、創業者の鳥井信治郎氏が度々口にし、サントリーに浸透する「やってみなはれ」精神で少し高い目標にチャレンジさせてくれたといい、女性社員に対しては、制度が整備されてきた中、後は意識の問題と指摘する。1度キャリアを離れると戻るのに難しさを感じるが、「成長の機会は公平にあるので、チャンスをつかんで欲しい」と語った。
<新たな国への参入を意識>
小野氏はこれからの事業に関して、未展開の国に参入していきたいとの抱負も述べた。
サントリー食品インターナショナルは、清涼飲料「オランジーナ」を手掛ける飲料会社のほか、スポーツ飲料の「ルコゼード」、濃縮果汁飲料の「ライビーナ」などの事業を買収。小野氏は、新たな国への参入については「いつもウォッチしている」と話す。
成長余地がある分野として、売り上げが鈍化している既存ブランドを挙げ、刷新し新たな価値をアピールすることでさらなるポテンシャルを引き出していけるとした。欧州で伸びているエナジードリンクに加え、コーヒー、紅茶などはこれから期待できるという。
小野氏は来年3月下旬に開催予定の定時株主総会などを経て、次期社長に就任する予定。
*インタビューは15日に実施しました。
(浦中美穂 Rocky Swift 編集:石田仁志)