〇インド、中国軸に海外比率40%時代へ〇
JBIC(国際協力銀行)は1989年から行っている「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」を12日発表した。
調査対象1012社中有効回答は637社、7月から9月にかけて行ったもので、最近のトランプ旋風などは織り込まれていない。
また、金額集計でなく各社数値の単純平均値。
海外生産比率は15年度35.6%、16年度見込みが36.1%。
リーマン・ショックで上げ下げがあるが、01年度の24.6%から、ほぼ一貫して上昇している。
中期計画の19年度は38.5%の予想。
この間、為替変動、地政学リスクなどの大きな波が続いたが、海外事業拡大の意欲は衰えていない印象だ。
1-4%高めに推移する海外売上高比率は16年度見込み40%に到達する。
13年度から集計が始まった海外収益比率(海外事業営業利益/国内+海外営業利益)は13年度33.7%から14年度34.3%、15年度36.4%、16年度36.5%。
投資負担が先行するはずだが、安定拡大軌道に乗っていると考えられる。
サプライチェーン・リスクでは為替変動を挙げる回答が約6割、本社管理の不十分さ、供給途絶リスクが各2割。
複数分散、調達先管理、在庫確保などが対策に挙げられている。
研究開発予算では、国内増加が多く、国内は革新的製品分野、海外は現地ニーズ対応開発の棲み分けが進んでいる。
中期的(今後3年程度)有望国(複数回答)では、インドが3年連続トップの47.6%、2位は15年度から盛り返した中国で42.0%、3位はインドネシア35.8%。
回答社数が50社増えているので、インドネシアも比率は低下したが社数は増えている。
以下、ベトナム、タイ、メキシコ、米国、フィリピン、ミャンマー、ブラジルと続く。
トランプ旋風でメキシコ(25.9%)は微妙。
米国は既に多くが進出済みと言うことであろう。
比率を落としたのは、ブラジル、ロシア、韓国、トルコ。
政情不安などを投影したものと思われる。
注目のロシアは3.5%、17社しか挙げていない。
安倍政権が笛を吹けど、産業界は慎重、冷ややかな印象を受ける。
余程の対ロ交渉進展がないとロシア・ブームは(マスコミが喧伝したとしても)起こり難いと思われる。
韓国はさらに低い3.1%。
最近の政治混乱の影響は限定的と見られる。
12日はもう一つ、日本生産性本部が産業別の日米労働生産性水準比較を発表した。
計算方法など詳細は不明だが、米国を100%とした場合、日本の製造業は69.7%、サービス業は49.9%にとどまるとした。
ただ、これはモノ作り、サービス内容の考え方に差があり、「惨敗」とは考えなくても良いと思う。
ちなみに、最も低いのは飲食・宿泊の34%で、代表的な「おもてなし」の考え方が影響しているものと考えられる。
「良質で安価」の考え方が生産性格差に表れていると見られるが、中長期的には着実な安定拡大を支えているものと考えられる。
産業・企業ごとに海外事業展開は異なるが、また、短期的な為替変動、地政学リスク、政治混乱などの多重の波があるが、株式市場の中長期投資では海外事業の着実な拡大が評価ポイントの一つになると考えられる。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/12/13号)