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アングル:FRBのコロナ対応策、モラルハザードの批判なし

発行済 2020-04-15 13:14
更新済 2020-04-15 14:09
© Reuters. アングル:FRBのコロナ対応策、モラルハザードの批判なし

[サンフランシスコ/ワシントン 12日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナウイルス感染症の大流行が経済に及ぼす悪影響を和らげるため、中小企業の資金繰り支援などに数兆ドル規模の資金供給策を打ち出した。

だが、今回のFRBの対応には、同じような措置を講じた直近の金融危機の際とは明らかに異なる点がある。自業自得で窮地に陥った人々までも救済してしまう「モラルハザード(倫理観の欠如)」の心配をほとんどしなくて済むからだ。

それはつまり、10年前に経済を守るために緊急対策を行った際よりも、FRBの行動の余地が広がり、より迅速な対応が可能になることを意味する。

2007─09年当時、政策担当者は、銀行と金融市場を救済すれば、行き過ぎたリスクを取ってきた彼らの行為に「報償」を与えることになってしまう、と繰り返し懸念を表明していた。また、FRB自体が財政の領域に足を踏み入れて、実質的に勝ち組と負け組を選別しているという議会からの批判に直面した。

こうした風当たりの強さは、FRBが特に多くの保守派によって、金融危機が収まった後も長らく手足を縛られたことからも分かる。2011年には当時のテキサス州知事で16年の大統領選に共和党から出馬したリック・ペリー氏が、FRBの積極的な債券買い入れを「ほぼ反逆罪だ」と言い切り、FRB議長として買い入れを導入したベン・バーナンキ氏がテキサスを訪れれば、無事では済まないとまで示唆した。

ところが今回のコロナ危機対応については、そうした反発は一切聞こえてこない。

パウエル議長は9日、FRB内と幅広い政治指導層のどちらからも異議を唱える動きが大きくなる様子は見当たらないと断言。米国各地で出された「外出禁止令」のために、何の落ち度もなく、少なくとも一時的に生計の道を失った人々を支援するのが、引き続き最優先事項だと説明した。

「国民は公共の利益のために自らを犠牲にしており、われわれが彼らに十分な手当てをする必要がある。支援を行き渡らせるため、可能な限り、われわれが1つの社会として行動するべきだ。この苦境を招いた原因が彼らになく、何か間違いを犯して休業しているわけでもない」とパウエル氏は指摘。FRBの役目は資金の貸し出しであるものの、財務省や政治サイドと緊密に連携して、効果的な救済策を実行しつつあると強調した。

実際、ほぼ1カ月の間にFRBは、既存の枠組みと新規に創出したスキームの合計で9種類の危機対応策を導入。流動性強化を通じて、企業や家計にお金が流れ続けるような取り組みを進めている。

これらの救済策では、少なくとも、自分のまいた種(例えば危機前から多額の借金をしていたなど)が一因で苦しんでいる企業も、最終的に助けてしまうかもしれない。それでも今のところ、FRBも政治家も、救う価値がある企業かどうかを区別することに、それほど強い関心を持っていない。

FRBの緊急会合の議事要旨について、シティグループ・グローバル・マーケッツのエコノミストチームは、政策担当者が2次的な影響やモラルハザードをほとんど気にせず、経済を支えるために使える手段を積極的に駆使するとの考えで一致していることが分かるとの見方を示した。

さらにパウエル氏は、FRBの資産規模が過去最大に膨れ上がってもなお、経済支援のための新たな政策手段が見つかれば、それを使うことへの反対意見は乏しいだろうとほのめかしている。

<異論なしの世界>

リーマン・ショックが起きた08年は対照的に、救済策に異議を唱える声がFRBの内外に渦巻いた。複数のFRB当局者は、いくつかの貸し出しプログラムが金融機関の問題な行動を肯定しかねないと指摘していた。リーマン・ブラザーズに救いの手を差し伸べず、破綻を容認したのもそうした疑念が1つの理由だった。

当時はタカ派のホーニグ・カンザスシティー地区連銀総裁やプロッサー・フィラデルフィア地区連銀総裁だけでなく、中間派のロックハート・アトランタ地区連銀総裁なども警鐘を鳴らした。

各種救済策をまとめたバーナンキ氏でさえ、リーマン破綻直後の同9月、これらの措置で発生する財政およびモラルハザードのコストと、何もしなかった場合に金融システムと実体経済が受ける恐れがある深刻な影響という対立する要素を前に、とても混乱していると打ち明けた。

© Reuters. アングル:FRBのコロナ対応策、モラルハザードの批判なし

一方、議会では上院銀行委員会メンバーだったジム・バニング議員が09年末のバーナンキ氏再任承認公聴会で「あなたこそが、モラルハザードの定義そのものだ」と言い放った。

足元では、こうした緊迫感が、完全に消えてなくなっている。

(Ann Saphir記者 Lindsay Dunsmuir記者)

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