[ブリュッセル/ニューヨーク 6日 ロイター] - 欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は6日、米国が支持を表明した新型コロナウイルスワクチン特許権の一時放棄について検討に前向きな考えを示した。ただ、製薬会社や一部の国々からは世界的なワクチン不足の解消にはつながらないとの声が上がっている。
バイデン米大統領は前日、これまでの慎重姿勢を一転させ、世界貿易機関(WTO)で提案された新型コロナワクチン特許の一時放棄を支持すると表明。国際的な合意に向けたWTOでの交渉を後押しした。
ブリンケン米国務長官は6日、世界中でワクチン接種を加速する必要性を強調。「可能な限り多くの人がワクチンを接種するまでは完全に安全とは言えない」と語った。
コロナワクチン特許権の一時放棄については「ワクチンの製造とアクセスを拡大するため考えられる手段の1つ」とした。一方、ホワイトハウスは特許権の放棄を巡り米政府の当局者間で意見が割れているとの見方を否定した。
WTOのオコンジョイウェアラ事務局長は加盟国に対し、米国の支持表明を「温かく歓迎する」と表明。「COVID-19(新型コロナ感染症)に早急に対応する必要がある。世界が注目しており、人々の命が失われているからだ」と強調した。
一方、特許権の一時放棄で収入が失われる立場にある製薬会社は同提案の問題点を指摘。ワクチン生産は複雑であるため、特許を開放するだけでは早期の増産にはつながらないと主張した。
コロナワクチンの特許権を昨年10月に既に放棄している米モデルナは6日、同様のワクチンを迅速に生産し、使用許可を取得できる企業が不足していると指摘した。
モデルナと米ファイザーは今年通年のコロナワクチンの売上高が合計で450億ドル超になるとの見通しを示している。
特許権の放棄は、将来的に新たな公衆衛生上の脅威が生じた際に、製薬会社が多額の研究開発資金を投じて迅速に対応する意欲を失わせることになるとの指摘も聞かれた。
EUの最大経済国ドイツはコロナワクチン特許権の一時放棄に賛同しない立場を表明。ワクチン不足は生産能力や品質基準が限られているのが原因で、特許保護が問題ではないとの見解を示した。
シュパーン保健相は、世界にワクチンを普及させることを目指すバイデン米大統領の目標を共有すると述べたが、独政府の報道官は声明で、「知的財産の保護はイノベーションの源であり、今後もそうでなくてはならない」と強調した。
さらに、特許権の一時放棄を巡る国際交渉は数カ月かかるとみられ、WTOの164加盟国・地域による全会一致の合意も必要となる。製薬業界は、特許を放棄する代わりに、富裕国はより幅広く、途上国にワクチンを分配すべきと主張した。
<ワクチン不足の真の解決策にならず>
ジェフリーズのアナリスト、マイケル・イー氏はコロナワクチン生産拡大の「ボトルネックはアクセスや特許あるいは価格ではなく、特許に関係なく、生産に十分なバイアル(ワクチンを入れる瓶)や原料がないことだ」と指摘。
米製薬会社の業界団体である米国研究製薬工業協会(PhRMA)は「今回の決定は接種を加速する上での真の課題に全く対応していない」と批判。最終地点への「ラストマイル配送」や原料の限定的な供給などが問題だとした。
ウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によると、世界では6億2400万人が少なくとも1回目のコロナワクチンを接種したが、その大半は富裕国に居住している。
コロナワクチンを低所得国にも供給することを目指す国際的枠組み「COVAX(コバックス)」がこれまで分配したワクチンは4100万回分にとどまっている。
特許権の一時放棄は南アフリカとインドが昨年10月に最初にWTOで提案し、多くの途上国の支持を集めた。
EUは従来、製薬大手を抱える英国やスイスとともに特許放棄に反対の立場を示していた。