[上海 17日 ロイター] - 中国が新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ戦略」を強化しつつある。現在流行の主流となっているオミクロン変異株は毒性が比較的弱い可能性があるものの、感染防御態勢を緩める理由にはならない、というのが当局の立場だ。しかしロックダウン(都市封鎖)も3年目に入り、経済的な混乱ばかりか社会不安さえ取りざたされるようになった。
新型コロナを巡り、他の国ではパンデミック(世界的大流行)からエンデミック(風土病)局面への移行も話題に上ってきた。その中で中国は、感染を確認次第それ以上広がらないようにする政策を強化し、ロックダウンや大規模な検査などの措置を次々に打ち出している。
こうしたやり方のおかげで、確かに感染者数は最低限でとどまり続けてきた。しかし、そのせいでより感染力が強いオミクロン株への脆弱性が増している点を指摘する専門家もいる。当初のゼロコロナ戦略の成功が、かえって「あだ」になっているとの見方だ。
当局は今後少なくとも、習近平国家主席の3期目続投が正式に決まる見通しの秋の共産党大会までは、より厳しい規制措置を講じる可能性がある。
米シンクタンク、外交問題評議会(CFR)のグローバル保健スペシャリスト、ヤンゾン・フアン氏はロイターの取材に、中国が「自らを追い詰めてしまった」と語った。「中央政府は厳格なパンデミック制御措置が引き続き有効に作用すると自信を持っているように見える。しかし人口の大半が新型コロナに対する免疫を獲得していない以上、中国でオミクロン株は容易に急拡大するはずだ」とした。
中国はここ数週間、乗客の中に感染者を確認したとして複数の国際線を運休にした。中国国家衛生委員会(NHC)の高官は、海外から感染が持ち込まれる恐れは強まっていると認めつつ、まだ十分に抑え込める態勢にあると強気の姿勢を変えていない。同高官は15日記者団に「コロナが発見されれば、すぐに対処し、封じ込めて、人民が楽しく平和な春のお祭りを確実に過ごせるようにするだろう」と強調した。
中国では何億人もが一斉に移動する春節(旧正月)を控え、既に多くの都市でより強力な規制措置が打ち出されている。
<難しさ増す出口戦略>
主な航空機乗り継ぎ拠点の1つである上海でも、外部経路による感染がここ数週間急増しており、当局はオフィスや百貨店、従業員2人の陽性が判明した喫茶店などを次々に封鎖。市内の複数の学校は、前倒しで春節休暇に入った。
地政学リスク分析を手掛けるコンサルティング会社、ユーラシア・グループは今月出したリポートで、中国は自らの成功の犠牲となり、出口を見つけ出すのが難しいと指摘した。「初期のゼロコロナ政策の成功と、それを習氏の個人的な手柄にしてしまったことで、今さら軌道修正ができなくなっている。中国の政策ではこの先感染を抑制できず、より大規模な集団感染が発生して、もっと厳しいロックダウンが必要になる」と述べ、経済的な混乱が広がるとともに、人々の不満が増大すると予想している。
これに対して中国共産党系英字紙チャイナ・デーリーは14日、「政治的偏見に満ちたばかげた憶測」と猛反発した。
中国が素早く独自のワクチンを開発したことも、せっかくの成功が厄介な問題を招くもう1つのケースになっている。中国では他の多くの国がなおワクチン確保に苦戦していた段階で、膨大な国民にワクチンを打つことができた。ところが各種調査で、このワクチンは西側諸国で普及しているメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに比べ、オミクロン株に対する有効性が低いと分かってきた。
米投資銀行ゴールドマン・サックスは、中国に拠点を置く顧客のうち、ゼロコロナ政策が数カ月中に緩和されると考えているのは10%にとどまると明らかにした。
中国当局は警戒感を一段と募らせている。上海の新型コロナ対策専門家チームの責任者は短文投稿サイト微博(ウェイボ)に、オミクロン株について、「デルタ株に比べて感染スピードが速く、検知されにくいだけでなく、気軽に無視できないほどの破壊力も備えている」と書き込んだ。
ソーシャルメディアには、春節を前に規制が強化されたことへの不満の声も寄せられている。上海のある住民はウェイボに、直近のロックダウンのせいで「ほとんど外出できなくなった」と投稿した。
CFRのフアン氏は「オミクロン株のリスクを強調すれば人々の恐怖を持続させ、ゼロコロナ政策が正当化される。だがそれによって、中国が出口戦略を実行するのはさらに困難となる」と警告した。
(David Stanway記者)