[ワシントン 4日 ロイター] - バイデン米大統領がシリア北西部で急襲作戦を敢行し、過激派組織「イスラム国」(IS)のアブイブラヒム・ハシミ指導者を自爆死に追い込んだ。昨年8月のアフガニスタンからの米軍撤収に伴う混乱で支持率が大きく下がり、ウクライナ問題を巡るロシアとの対立で力強いイメージを打ち出そうと腐心しているバイデン氏にとって、作戦の成功は切望していた安全保障上の勝利だとアナリストは見ている。
作戦は準備に数カ月かけ、今週初めにバイデン氏が了承した。ISに打撃を与えただけでなく、ウクライナ問題でロシアと戦略的に対峙するバイデン氏にとってもタイミングが絶妙だった。
トランプ前政権時代に大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏は、作戦の成功でロシアのプーチン大統領に力強さを誇示できると見ている。「勝利が明確だったという意味での評価は、揺るぎようがない。多くの注目を集めるに違いない」と言う。
アフガニスタンで20年間にわたり戦った末、昨年8月の軍撤収で醜態をさらしたことで、米国の威信は傷ついた。撤収計画を支持し、イスラム原理主義組織・タリバンとの取引に合意したのが前任のトランプ氏だったにもかかわらず、撤収後にバイデン氏は世論調査で支持率が急低下した。
民主、共和両党の大統領の顧問を務めたデービッド・ガーゲン氏は、今回の急襲作戦は成功したが、バイデン氏の外交政策の実績にはアフガニスタン撤収を巡る混乱の影響が依然として影を落としていると話す。
「バイデン氏が外交の舞台で直面している問題は、見た目よりもしつこいというのが私の見方だ。世論を覆すのは難しいだろう」と言う。
ブッシュ政権時代に外交政策の主要なタカ派の1人だったボルトン氏も、ハシミ氏追捕は正しいとする一方、アフガニスタン撤収の影響は今もバイデン氏に重くのしかかっていると見ている。「アフガニスタン撤収で損なわれたバイデン氏と米国の威信が、修復できるとは思えない」と話した。
バイデン氏は、ウクライナ問題を巡るロシアとの対立という課題も抱えている。米欧諸国は、ロシアがウクライナ国境に約10万人の部隊を集結させているのは侵攻の前触れではないかと主張している。
ガーゲン氏は「全体として問題になるのは、ロシアとどのように合意するかだ。バイデン氏はどれだけ厳しい態度を貫けるかだけでなく、外交手腕の面でもその真価が問われる」と話した。
<政治的にプラスか>
バイデン氏は、国内では新型コロナウイルスの感染拡大とインフレで国民の不満が高まっていることから、世論調査の支持率がこの数カ月低迷し続けており、今年11月の中間選挙を控えて民主党は懸念を強めている。
中間選挙はまだしばらく先で、有権者にとって外交政策は重要な優先課題ではない。しかし、IS指導者の急襲で指揮官としての存在感を示し、プーチン氏に対峙することは、選挙の点からはバイデン氏にとって追い風だと、オバマ元大統領の顧問だったデービッド・アクセルロッド氏は指摘する。
「バイデン氏の問題の1つは、今の世界が制御不能に見えてしまうことだ。バイデン氏は最高司令官として指導力を示すことが求められており、そうした機会は貴重だ」と言う。「今回のことは政治的な観点から価値がある。強さを示すことには価値がある」と指摘する。
バイデン氏は3日にニューヨークを訪れ、警察官出身のアダムズ市長と会談し、警察予算の増額を支持する姿勢も打ち出した。共和党はバイデン氏が犯罪に対して弱腰だと批判し、民主党議員の一部から出ている警察予算削減要求をバイデン氏と結び付けようとしている。
ガーゲン氏は、バイデン氏が力強さを前面に押し出そうと努めているようだと指摘。「国民の面前で強さをアピールしようとしている」と述べた。
バイデン氏は2020年の大統領選で有能さを訴えてトランプ氏を打ち負かし、就任後の数カ月間は60%近い支持率を維持した。だが、ロイター/イプソスの調査によると、最近は支持率が41%と就任以来最低の水準に落ち込んだ。
ジョージタウン大学政治・公共サービス研究所のモ・エレイシー氏は、IS指導者急襲と警察予算増額支持という政策の組み合わせが、共和党からの批判をある程度減殺するかもしれないと考えている。「世界有数のテロリストを打倒したのだから、テロとの戦いに弱いとは言い切れない。安全保障の分野で結果を出すことに成功し、犯罪については堂々とした対応をしているように見える」と評価した。
(Jeff Mason記者)