和田崇彦
[東京 17日 ロイター] - 家計の金融資産が初めて2000兆円を突破する中、コロナ禍で積み上がった「超過貯蓄」が個人消費の下支え役になると期待されている。日銀でも、積み上がった貯蓄が企業の値上げを受け入れやすくするとの見方がある。ただ、ウクライナ危機がもたらした想定以上の市況高で企業の値上げがさらに重なった場合は、貯蓄の取り崩しでは補えず、所得の上昇が必要になるとの指摘が市場関係者などから出ている。
<「超過貯蓄」40兆円、個人消費下支え>
日銀の資金循環統計によると、家計の現・預金は21年12月末時点で1092兆円で過去最高となった。ボーナス支給が12月末の残高を押し上げたが、新型コロナウイルスの感染が広まって以降、政府の現金給付と消費手控えが現・預金を増加させ、20年3月末から91兆円増えた。株高で、投資信託の残高も過去最高の更新が続いている。
日銀やマーケットの関係者は、コロナ禍で積み重なった家計の貯蓄が個人消費の下支え役になると期待している。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・上席主任エコノミストは、コロナ以前の平時対比での貯蓄増加分を特別給付金も含めて「超過貯蓄」とすると、20年から21年にかけて約40兆円に上ると推計する。
新型コロナの感染拡大が落ち着き、3回目のワクチン接種が進むことなどから、サービス消費の回復を後押ししそうだとみている。酒井氏は5月の大型連休後に政府が観光需要喚起策「GoToキャンペーン」を再開すると予想。超過貯蓄が「サービス消費の中でも、単価の高い高付加価値の宿泊施設やレストラン等への支出に回るのではないか」と話す。
<ウクライナ危機、消費ペースに影響>
ただ、ウクライナ危機で原油や穀物の価格が急騰。ガソリンや食料品といった購入頻度が多いモノの値上がりは主として低所得の家計を圧迫する。日銀では、大幅な資源高が消費者心理を委縮させ、貯蓄志向がより強まることへの警戒感も出ている。
酒井氏は「サービス消費の回復を主因に消費全体としては回復が見込まれるものの、ウクライナ情勢を受けた物価上昇により、これまで想定されていたよりも消費の回復ペースは鈍くなる」とみる。
<迫る連続値上げ>
原材料高を受け、食料品を中心に企業は続々と値上げを発表してきた。資源価格の高止まりが予想される中、「企業にとってはさらなる値上げが不可避」(エコノミスト)とみられる。
値上げに伴う生活必需品の購入額の増加は可処分所得の減少につながる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは「可処分所得が減った時に他のモノを節約しようとなるのか、消費支出の金額を変えず貯蓄を取り崩すのかは、実際に値上げが行われた時の消費者の行動を見てみないとわからない」と指摘する。
春闘の一斉回答日となった16日、日本製鉄やNECが3%台の賃上げで応じるなど、好調な出足となった。しかし、中小企業や非製造業の動向は不透明感がぬぐえない。
日銀では、積み上がった家計の貯蓄が企業の値上げを受け入れやすくするとの見方が出ている。価格転嫁が浸透すれば物価目標2%が一段と近くなる。
六車氏は、家計は当面、貯蓄で補いながらしのいでいくことが可能だが「値上げが続いたときに積み上がった貯蓄を全部取り崩していくのかどうか」と指摘。「持続的に物価が上がっていくには、所得の上昇も必要になる」と話す。
(和田崇彦 編集:石田仁志)