平田紀之
[東京 18日 ロイター] - 中国市場の動きに日本株が振り回されている。新型コロナウイルスの感染拡大や中国企業の海外上場などをめぐり警戒感と安心感が交錯。日本にとって最大の貿易相手国である中国の動向はロシアを大きく上回るインパクトを持つ。ウクライナを巡る微妙な政治的駆け引きも市場にとってはリスクと映り、神経質な展開となっている。
<乱高下した中国市場>
14日から17日にかけて中国株が乱高下した。14─15日の2日間で上海総合指数は7.4%下落したが、16─17日は一転して4.9%の上昇となった。香港のハンセン指数も同様に大きく振れた。
この間、日本市場でも中国関連株が乱高下し「中国リスクを織り込む動きだった」と、松井証券の窪田朋一郎投資メディア部長は話す。
特にソフトバンクグループやファーストリテイリングは指数寄与度が大きく、日経平均の値動きも荒れた展開となった。中国国内のビジネスに対する懸念だけでなく、ソフトバンクGはアリババなど保有株の下落リスクに直面した。
中国を巡る懸念は主に4つある。1つは新型コロナの拡大だ。1日あたりの新規感染者数が過去最多となり、今年に入って確認された新型コロナウイルス感染者数が、昨年1年間の合計を上回った。
「ゼロコロナ」政策を掲げる中国は、東北部の長春市や南部のIT集積地の深セン市、隣接する東莞市で事実上の都市封鎖(ロックダウン)を実施。「経済停滞の再来を警戒するような株の下げとなった」と、東海東京調査センターの胡細蓮シニアストラテジストは指摘する。
中国当局によるIT企業への規制強化や、米市場に上場している中国企業のADR(米預託証券)規制強化の動きも警戒された。
だが、16─17日は2日連続で中国のコロナ新規感染者数が前日を下回り、深セン市の当局者は、企業の生産活動を順次再開させる方針を示した。
中国の劉鶴副首相は16日、海外上場を目指す中国企業を政府が引き続き支援すると述べたほか、資本市場にとって好ましい政策措置を打ち出す方針を示した。
これらを受けて中国株は大きく反発した。
<巨大なテールリスク>
もう1つのリスクは欧米による経済制裁リスクだ。中国側は否定したが、米高官によると、ウクライナ紛争を巡り、中国がロシア側の要請に応じて軍事的・経済的援助を行う意思を示したと、米情報当局が14日に北大西洋条約機構(NATO)とアジアの同盟国に外交公電で伝えた。
中国の外交政策は他国への不干渉を基本とする。14年のロシアのクリミア併合もまだ承認していない。しかし、中国にとってもNATOの東方拡大は懸念要因だ。
欧米側はロシアと関係が近い中国による対ロシア支援を牽制し、制裁カードをちらつかせている。仮に制裁実施となれば、交易関係の深い日本経済への打撃も大きくなりかねない。
日本の相手国別の輸出入総額では中国が38.3兆円(2021年)と全体の23%を占める最大の貿易相手国だ。米国の23.7兆円を大きく上回る。ロシアは2.4兆円で、比率は1%強にとどまる。中国に生産拠点や店舗網を展開する日本企業は多く、経済制裁の影響はロシアの比ではない。
中国と欧米各国は互いに重要な貿易相手国でもある。「共産党大会を秋に控え中国は自国経済を損なうような政策はとれない。欧米もロシアのような制裁を加えれば、自らにも相当なダメージがある。衝突は現実的ではない」と、AIS CAPITALの代表パートナー、肖敏捷氏は指摘する。
現時点では「テールリスク」とみられているものの、それが実現した場合、日本への影響は極めて大きい。「日本株は中国リスクに備えているとは思えない」と、松井証の窪田氏は指摘する。緊張が高まるようなら日本株市場は動揺しかねない。中国を巡る材料に神経質な相場は続くとみられている。
◎主な企業の中国ビジネスの比率と株価騰落
銘柄 コード 14-15日 16-17日 中国比率 PER
トヨタ自動車 5.1 4.1 18.5 10.57
日本電産 -1.2 10.0 26.5 38.15
村田製作所 1.5 6.5 58.4 16.81
ダイキン工業 0.2 7.3 14.8 31.27
ファナック 0.3 8.6 33.1 25.06
安川電機 -2.2 10.7 25.1 29.46
小松製作所 0.2 3.2 7.7 14.5
ソフトバンクグループ (T:9984) -4.9 12.2 32 19.73
ファーストリテイリング -5.9 8.3 25.0 35.18
良品計画 0.0 3.6 17.4 12.56
イオン 0.9 1.1 3.0 112.94
ピジョン -4.6 4.7 39.7 24.77
日経平均 0.7 5.2 - -
TOPIX 1.5 4.0 - -
上海総合指数 -7.4 4.9 - -
ハンセン指数 -10.4 16.8 - -
*「14-15日」「16-17日」は3月の当該期間の株価騰落率。
*「中国比率」は、21年3月期売上高の中国の比率。
*トヨタは2021年のグループ総販売台数に対する中国販売台数、村田製作所は「中華圏」、安川電機は21年2月期、SBGは21年12月末のアリババ・グループとSVF1・SVF2(中国相当)、その他の中国投資の合計、ファーストリテは21年8月期の「グレーターチャイナ」、良品計画は21年8月期の「中国大陸」、イオンは21年2月期。ピジョンは21年12月期。
(平田紀之 取材協力:佐古田麻優 編集:伊賀大記)