[ワシントン 16日 ロイター] - ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、国連のデータによると300万人以上がウクライナから近隣諸国に脱出した。しかし、米国がこれまでに受け入れたウクライナ難民の数は数百人にとどまっており、一部で政策を疑問視する声が上がっている。
◎ウクライナ難民の受け入れ数が限定的な理由
バイデン大統領と政府高官らは、米国には必要に応じて難民を受け入れる用意があると述べてきた。だが、ウクライナ人が目指すのは主に欧州になるはずだ、との考えも繰り返し示してきた。
バイデン氏は11日に「実際にウクライナ難民がはるばるここまで来るなら、われわれは心から歓迎する」と述べた。
ハリス副大統領、ブリンケン国務長官、サキ大統領報道官も同様の発言をしている。サキ氏は10日、難民の「大多数」は家族や友人、元雇用主のいる近隣諸国にとどまることを望むだろうという、米政府の認識を明らかにした。
国務省は、ウクライナ難民の受け入れ先が欧州で不足する事態となれば、国連と協力して難民を米国に移動させると表明。その際に「米国への再定住は、手軽な手続きではない」ことを念頭に置くとした。
難民の再定住には、数年を要することがある。ただ、バイデン政権は昨年8月、米軍のアフガニスタン撤退後にアフガン難民について、再定住手続きを迅速化した経緯がある。米高官3人はロイターに対し、当時の経験が、他の難民の再定住手続きの迅速化に役立つかもしれないと述べた。
◎だれが難民受け入れ拡大を主張しているか
30人以上の民主党議員のグループが11日、バイデン大統領に書簡を送り、難民承認の拡大と併せ、米国に家族のいるウクライナ人については「人道的入国許可」という時限的な仕組みを通じて、受け入れを迅速化するよう求めた。
書簡を出した議会ヒスパニック党員会のラウル・ルイス会長は今月初め、民主・共和両党の派遣団の一員としてポーランド・ウクライナ国境を訪れた。ルイス氏は書簡で、多くのウクライナ難民を受け入れている国々で現在、受容能力が限界に達する可能性があるとし、米国はこれらの国々を補助する主導的役割を演じるべきだと訴えた。
派遣団に参加したウクライナ移民の議員、ビクトリア・スパーツ氏はFOXニュースに対し、人道的対応をポーランドだけに任せきりにはできない、と述べた。
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の妻、オレナ・ゼレンスカさんはABCニュースに対し、難民受け入れを求めるウクライナの女性と子どもを米国の女性が支援してほしいと語った。
20を超えるユダヤ系米国人組織で構成される連合体も「われわれのコミュニティは、米国が難民に門戸を閉ざすと何が起こるかを痛いほど知っている」として先週、バイデン氏にウクライナ難民の受け入れ拡大を求めた。
◎米国はウクライナ難民の受け入れを拡大するか
米国務省のデータによると、ロシアがウクライナ国境で軍備を増強していた今年1、2月に米国が受け入れたウクライナ難民は514人にとどまっている。3月の公式データはまだ入手できない。
トランプ前大統領は年間の難民受け入れ上限を過去最低の1万5000人に削減。これによって制度は骨抜きになり、コロナ禍も相まって手続きの遅れにつながっていた。
これに対し、バイデン大統領は今年の難民受け入れ上限を全体で12万5000人に設定した。このうち、ウクライナが含まれる欧州および中央アジアの枠は1万人だが、必要に応じて拡大したり、一部の手続きを迅速化することは可能だ。
◎メキシコから米国亡命を目指すウクライナ人
数千人のウクライナ人およびロシア人が、米国への亡命を求めて米・メキシコ国境に向かっていると、ロイターは今月伝えた。人道危機が深刻化すれば、この傾向に拍車がかかるかもしれない。
昨年10月から始まった今財政年度の最初の5カ月間で、メキシコ国境の米当局はウクライナ人約1300人と対面した。昨年度はこの数が1年間で約680人だった。
大半のウクライナ人は入国が認められ、移民申請ができるようになった。これに対し、その他の国々から来る人々は「タイトル42」というコロナ禍対応の法令に基づいて、メキシコその他の国々に追放されることが多い。
しかし、ここ数日間でメキシコ国境に到着したウクライナ人数人が米国への入国を拒否されたという報告もある。
◎難民受け入れ以外の米国のウクライナ支援
米政府は、難民を受け入れている欧州諸国に大規模な経済支援を行っている。
バイデン氏は15日、ウクライナおよび欧州同盟諸国に136億ドルを拠出する法律に署名した。そのうち約40億ドルは、国外脱出する人々の支援に振り向ける。
米政府は今月、既に米国にいるウクライナ人推計7万5000人について、一時的保護ステータス(TPS)を付与すると発表した。
TPSを得た人々は国外退去猶予と1年半の労働許可を与えられ、期限を迎えると更新も可能。ただし、3月1日以降に到着した人々には適用されない。