[東京 11日 ロイター] - 日銀は11日に公表した4月の地域経済報告(さくらリポート)で、全9地域のうち中国を除く8地域で景気判断を引き下げた。1月のリポートでは全地域が判断を引き上げたが、新型コロナウイルス感染症の再拡大で個人消費が落ち込んだほか、供給制約が生産に影響した。記者会見に臨んだ支店長からは、ウクライナ危機の長期化やさらなる円安が原材料価格の一段の上昇につながることへの警戒感が示された。
<個人消費、まん延防止解除で期待感も>
需要項目別では、9地域すべてが個人消費を引き下げた。新型コロナの変異株「オミクロン株」の感染拡大が影響した。全地域の引き下げは2020年7月以来。ただ、企業からは「3月入り後、まん延防止等重点措置の解除を見越してか、新規予約が増加している。春休み中の学生の合宿予約も数件入り、今後の需要回復を期待している」(函館、宿泊)との指摘もあった。
生産は東北・北陸・東海・九州沖縄の4地域が引き下げた。供給制約が影響した。
唯一景気判断を据え置いた中国は、生産、雇用・所得の判断を引き上げた。部品の供給制約による生産への影響が以前より和らいでいるほか、クラスター(感染者集団)発生などの影響も受けなかったという。
<ウクライナ危機、長期化に警戒感>
各地域の景気判断では、ロシアのウクライナ侵攻の影響は盛り込まれなかった。しかし、支店長会議後に会見に臨んだ支店長からは事態の長期化への懸念が相次いだ。
冨田淳・福岡支店長は、ウクライナ問題について「今のところ、売り上げ、収益、設備投資などの事業計画に直接的大きな影響を及ぼしていないとみているが、問題が長期化していけば影響の拡大が懸念される」と述べた。「ロシアのウクライナ侵攻に伴い、エネルギー価格や原材料価格が一段と上昇すると消費者や企業のマインドが悪化することが考えられる」(石井正信・札幌支店長)との声もあった。
さくらリポートでは、資源高を受けた値上げに関する企業のコメントが取り上げられた。
値上げを進める方針に転換したという九州・沖縄地域のあるスーパーからは「今のところ顧客にも受け入れられており、消費者マインドにも変化は見られない」との声が出ていた。一方、消費者マインドの一段の悪化を警戒して「当面は営業努力を通じて値上げは見送る方針」(水戸、小売り)との指摘もあった。
<円安進展の影響は>
11日の東京外為市場ではドル/円が125円台を回復。市場では、日米の金融政策の方向感の違いからドル/円の先高観が強い。
高口博英・大阪支店長(理事)は、為替円安は関西経済全体にとってプラスに作用する面が大きいとの認識を示した。
130円台など現状より一段と円安が進んだ場合の実体経済への影響について、林新一郎・名古屋支店長は「為替の円安そのものがダイレクトに響くということはないと思うが、原材料価格やエネルギー価格の上昇に上乗せする形になっていく可能性がある」と指摘。「企業の収益や家計の消費マインドに影響していく可能性があるので、そこはしっかり見ていく必要がある」と述べた。
冨田福岡支店長は「為替の変動スピードが急激だと、企業の経営者は先々の事業計画が策定しづらいとの声が一部で聞かれた」と話し、為替の水準のみならず変化スピードの影響も注視していきたいと述べた。
(和田崇彦、杉山健太郎)