[東京 2日 ロイター] - 日銀が2日発表した8月のマネタリーベースの平均残高は前年比0.4%増の659兆7138億円となった。新型コロナウイルス対応特別オペの制度縮小で伸び率は2012年4月以来の小ささ。日銀当座預金は12年4月以来のマイナス転換となった。コロナオペの期落ちが続き、マネタリーベースの平残の伸び率は9月にもマイナスに転じるとみられている。
マネタリーベースは、市中に出回っている現金と金融機関が日銀に預けている当座預金の合計値で、日銀が供給する通貨を表す。
内訳は日銀当預が0.1%減の534兆4467億円、紙幣は3.0%増の120兆3622億円。貨幣は2.6%減の4兆9049億円と、現金両替時の手数料徴収が広がる中、過去最大の減少率が続いている。
8月末のマネタリーベース残高は644兆9826億円で、前月の665兆9614億円を大幅に下回った。前年比2.5%減で12年3月以来のマイナス転換。日銀当座預金は519兆6523億円。
<平残は9月にマイナス転換か>
8月はコロナオペによる新規貸し出し1兆1713億円に対して、期落ちは約20兆5000億円に上った。今後も期落ちが続き、マネタリーベースの平残は9月にも前年比マイナスに転じるとみられている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介・債券ストラテジストは、平残ベースで先行き50兆円程度の下押し圧力が掛かるとみている。
日銀はマネタリーベースについて、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」を掲げている。
その下でマネタリーベースは増加基調をたどり、コロナオペ導入後は、金融機関の積極的な利用で増加ペースが高まり、2020年8月から21年9月まで伸び率は10%を超えた。
コロナオペの制度縮小でマネタリーベースが減少しても、日銀はオーバーシュート型コミットメントには矛盾しないとの立場だ。黒田東彦総裁は今年1月の記者会見で、オーバーシュート型コミットメントは「あくまでも(マネタリーベースの)拡大方針」と述べ、「短期的には振れたり一時的にマイナスになったりすることがあったとしても、基本的にマネタリーベースの拡大方針を続けることのコミットメントの意味は大きい」とした。
鶴田氏は「数字だけ見ると形骸化するが、黒田総裁の発言の趣旨に沿うとマネタリーベースの拡大方針を続けることに意味があるということなのではないか」と話している。
(和田崇彦編集:青山敦子)